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おともだち①

 


 ── 九条の幼なじみで許嫁の咲良ちゃんが天馬に来て、宗次郎がサーバントに加わり早十数日が経過していた。そして、今日はなんと待ちに待った給料日!


「はーい、九条様ー。さっさと起きてくださーい」


 今日も今日とて、九条家の離れに訪れ“九条柊弥を起こす”という任務を遂行中。あたしが大きな声で九条に話しかけると、モゾモゾ動いて大きなあくびをしながらダルそうにこっちを見ている。


「……はぁ。お前さぁ、もっと可愛い起こし方とかできないわけー?」


 起こし方に可愛いも何もないでしょ。


「毎朝起こしに来てもらえるだけでもありがたいと思ってくださいませー」

「ダル」


 いや、それはこっちのセリフなんですけど。


「あ、そんなことより……あたし今日給料日だから携帯代渡したいんだけど、行きでも帰りでもいいからATM寄ってくれない?」


 すると、ムクッと起き上がって険しい顔をしながらあたしを見てる九条。


「あ? 携帯代?」

「うん。自分で払うから」

「……ったく。甘えとけよ、面倒くせぇ女」

「こういうのはちゃんとしておきたいの」

「あぁそう」


 前髪をかき上げながら立ち上がり、ダルそうに去っていく九条を見ても何とも思わない。あたしはすこぶる気分がいいから。なんでかって? そりゃようやく……美玖達と連絡が取れるから! 拓人はちょいちょい会ったりしてるからいいけど、美玖と梨花とは卒業式以来会ってもなければ、連絡も取ってないから恋しい。美玖も梨花も可愛いから、もう彼氏とかできてるのかなぁ? 羨ましい。


 それに比べてあたしは、九条家の御曹司“九条柊弥”のサーバント(使用人というか雑用係というか)をやってるとか……トホホ。まあ、口が裂けても美玖達にはこんなこと言えないけど。もう少しでゴールデンウィークだし、美玖達と遊んだりしたいなぁ。そんなことを考えながら、九条の準備が終わるのを待っていた。


「おーい、七瀬~」


 どこからともなく、あたしを呼ぶ声が聞こえる。


「はいはーい。なんでしょうかー」


 声がしたほうへ行くと、当たり前かのように上半身裸の九条がいた。


 ・・・おい、人を呼ぶ前にまずは服を着ろ。


「あの、セクハラで訴えますよ」

「はあ? なに言ってんの~? つーかさ、ドライヤー壊れたんだけど~」


 いや、そんなことあたしに言われても知らんがな。ていうか、とにかく服を着ろ! そんな肉体美をあたしに見せつけるな! 目のやり場に困るってば!


「はぁぁ、もぉ……貸して」

「ん」


 壊れたドライヤーをあたしに渡してきた九条。そしてあたしはそのドライヤーを容赦なくベシンッ!! とブッ叩いた。


「おいおい、マジかお前。そんなんで直るわけっ」


 ブォーー。


「はい。どーぞ?」


 ニコッと微笑んで温風がしっかり出てるドライヤーを手渡した。


「やっぱ貧乏人は違うねえ。感心感心~」

「ははは。そりゃどうもー、では」


 その場を去ろうとすると腕を掴まれて、去ろうにも去れなくなる。


「髪、乾かして」

「……は?」

「もうドライヤーする気分じゃなくなったんだよね~」


 ドライヤーをするのに気分も何もないでしょうが。


「は、はあ……で?」


 洗面台前の椅子に座って偉そうな態度全開で鏡越しに“さっさと俺の髪を乾かせよ”と言わんばかりな顔であたしを見てくる。


 ・・・その綺麗な髪、焦がしてやろうか? そんなことを考えながらドライヤーを手に取り、仕方なく九条の髪を乾かすことに。


 どうせ嫌がらせのように動き回って、まともにドライヤーさせてくれないんだろうなってそう思ってたんだけど、ジッと大人しく髪を乾かされている九条。なんかこれはこれで……恋人同士がやることみたいな感じがして、妙に恥ずかしくなってきたんですけど。


 チラッと正面の鏡を見ると九条と鏡越しに目が合って、ドキッと胸が弾んだ。なぜか目を逸らせなくて、九条もなぜか目を逸らさずあたしを見つめ続けてくるし、どうしたらいいの? これ。ていうか、いつからあたしのこと見てたんだろう。


 すると、九条の口が動いて何か言ってる気がしたからドライヤーを止めた。


「なに? なんか言った?」

「あ? べっつに~。何でもなぁい」


 そう言いながらおもむろに立ち上がって、あたしをジーッと見つめてくる九条。しばらく見つめ合って沈黙がつづく。


「で、お前はいつまでいんの?」

「へ?」

「俺、着替えたいんだけどー。そんなに俺の着替えが見たいわけ~? エッチだねえ、七瀬ちゃん」


 ニヤニヤしながらあたしを煽るように見下ろしてる九条に対して、殺意が湧かないほうが絶対におかしいよね。


「はは。何を仰いますかー。九条様の生着替えほど目に毒なものはありませんよ? では、失礼いたしますね」

「おまっ」


 九条がガミガミ言い始める前にそそくさ退散したのは言うまでもない。


「はぁぁ」


 九条と一緒にいると、無駄にドキドキすることが多い気がする。まぁでも、仕方ないよね? そりゃ無駄にイケメンだもん。見てくれ"だけ"は本当にいいから。ドキドキしちゃうのも無理はない。


 カチャッ……ドアが閉まる音がしてそっちのほうへ視線をやると、無駄にキラキラ輝いて見える制服姿の九条が立っていた。ほんっと黙ってればいい男なのに。


「なんだよ、その残念なものを見る目は」

「ははは」

「いや、そこは否定しろよ」

「申し訳ございません」


 “ダメだこりゃ”と言わんばかりな顔であたしをチラッと見て、部屋から出ていく九条について行く。


「あのさ」

「んー?」

「霧島さんと仲直りしたら?」

「くどい」


 はぁぁ、どうすればいいの? これは。正直あたしのせいでもあるからちょっと責任感じてるんだけど。


 今日九条のお母さんに連絡して、霧島さんと会わせてもらおうかな。あたしが原因っぽい感じではあるから、あたしがどうにかするしかないよね。そもそもあたしがいなければ、こんなことにはなってなかっただろうし。

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