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許嫁②

 テーブルマナーとかそういうのがまだよく分かんなくて、1人だけテンパりながら食事をしている。しかも、席順が謎すぎて。


 凛様・九条・咲良ちゃん・蓮様

 上杉先輩・あたし・宗次郎・前田先輩


 マスターとサーバントが向かい合って食事をするという、何とも言えない絵面。


 あたしのテーブルマナーが気になりすぎるのか、上杉先輩はさっきから舌打ち連発してるし、凛様は嫌みったらしく笑ってるし、九条は呆れてるっていうか笑ってるし、咲良ちゃんと蓮様は苦笑いしてるし……もうダルいな、こういうの。


 なんだろう、この劣等感は。美味しいはずの料理も全く美味しくないし、楽しくもない。空いてたグラスに肘がトンッと当たって、グラスが床へ落下して割れた……と思ったけど──。


「悪い、俺がそこにグラス置いたかも。大丈夫?」


 床に落ちる前に宗次郎がグラスをキャッチしてくれた。しかも、あたしのせいなのに謝ってくれてるし……。


「ほーんとそそっかしい女ね。恥ずかしい」

「……申し訳ございません」


 宗次郎に気を遣わせてフォローしてもらったのが、無性に恥ずかしくて嫌になった。


「まっ、そそっかしいのも見てる分には面白いからいいんじゃね~? だいたい、こいつにテーブルマナーとか分かるわけないっしょ。こんな飯食うことねえんだから。気にすんなよ、好きなように食えばよくね~?」


 は? なにそれ。なんのフォローにもなってないんですけど。面白いって……見せもんじゃないっつーの。


「はぁぁ、柊弥……。舞ちゃん、柊弥と凛がすまないね。あまり気にしないでっ」


 帰ろう……そう思って立ち上がろうとした時だった──。


 ガンッ!! いきなり立ち上がった宗次郎。そして、あたしの腕をガシッと掴んだ。


「おい、何してんの?」


 こっちを睨んでる九条の顔が少し怖かった。


「すみません、実は七瀬さん体調悪いんですよ。だからもう失礼します」

「あ? なんだそれ。だったら俺がっ」

「いえ、俺が送っていきます。九条様は叶様達と引き続きお楽しみください」

「は?」 

「……ぶっちゃけ俺と七瀬さん、このメンツに縁もゆかりも無いですし」

「いい加減にしろ! 宗次郎!! なんでお前はっ」

「あ? 恭次郎、テメェは黙ってろよ。何でもかんでも言いなりになってやがる犬がよ」


 酷く冷めた目で上杉先輩を睨み付け、あたしを引っ張って歩き始めた宗次郎。


「ちょっ……!?」

「おい!! 七瀬っ!!」


 九条が怒ってる……でも、あの場にいたくなかったのは事実で、あの場から連れ去ってくれる宗次郎に感謝しかない。


 あたしの腕を強く握って引っ張る宗次郎。もう少しにで外に出られる、これで解放される……そう思ったけど、本当にこれでいいのかなってモヤモヤする。半強制的とはいえ、自ら九条のサーバントになるって決めたのに逃げ出していいの……?


「宗次郎、ごめん」


 あたしは宗次郎の手を払った。


「……舞。気づいてんだろ? お前はただの“九条柊弥の暇潰し”にすぎないって」


 そんなこと分かってる、分かってるよ。分かってるけど……それでもあたしはあいつのサーバントで在ることを選んだ。


「それでもあたしは九条のっ」

「七瀬」


 振り向くと、そこにいたのは言うまでもなく九条柊弥。紛れもなくあたしのマスター。


「あ、あの、九条っ」

「宗次郎、お前は戻れ。こいつは俺が送ってく」

「お言葉ですが九条様っ」

「戻れっつってんだろ。聞こえねぇのか」


 九条の地を這うような低い声、表情が氷のように冷たい。機嫌の悪さがひしひしと伝わってくる。


「ごめん、九条。あたし戻るから」

「あ? 体調悪いんだろ」

「ううん。大丈夫」

「あっそ。じゃ、帰んぞ」

「うん……え? ちょっ……!?」


 鞄を肩に掛けるように、あたしを軽々と肩に担ぐ九条はバケモンだと思う。


「あっ、舞ちゃん!! ごめんね? 嫌な思いさせちゃって」


 走ってきて、申し訳なさそうな表情を浮かべながらあたしに謝る咲良ちゃん。


「あ、いえ、そんな……あたしこそすみません。そそっかしくて……」

「咲良。宗次郎連れて戻ってくんね? 俺、こいつ連れて帰るわ」

「うん、分かった。行こっか、宗次郎君」

「はい」


 不服そうにしている宗次郎君と、それを気まずそうに見ている咲良ちゃん。


「あのっ、宗次郎君! ありがとう」


 宗次郎が何を思ってあの場でフォローしてくれて、あの場からあたしを連れ去ってくれたのかは分からない。それでもあたしはあの時、紛れもなく宗次郎に救われた。


「別に」


 ぶっきらぼうな宗次郎、本当に何を考えているのか分かんないな。


「咲良ちゃん、本当にごめんなさい。せっかくの食事会を滅茶苦茶にしちゃって」

「ううん。舞ちゃんは気にしないで? 私の配慮が足りなかった。本当にごめん」

「さっさと帰んぞ~。じゃーな」


 適当な九条は相変わらずあたしを担いで、そのまま平然と歩いている。どんだけ馬鹿力なのよ、あんたは。……ていうか高校生にもなってこの担がれ方は非常に恥ずかしいんですけど。


「あの、降ろしてくれません? 恥ずかしいんだけど」

「お前の恥ずかしいとか知ったこっちゃねえっつーの」


 ・・・九条が何に対して怒っているのか、機嫌が悪くなっているのか、あたしにはよく分かんない。あたしがあの場から逃げようとしたこと? 宗次郎と関わってること? それとも、俺に恥をかかせんなってこと? うん。圧倒的後者な気がするわ。


「ごめんなさい」

「は?」

「だから、ごめんってば!!」

「あ? 何が?」

「……あんたに恥をかかせてごめんって言ってんの」


 だってあの時、『まっ、そそっかしいのも見てる分には面白いからいいんじゃね~? だいたい、こいつにテーブルマナーとか分かるわけないっしょ。こんな飯食うことねえんだから。気にすんなよ、好きなように食えばよくね~?』ってヘラヘラしながら言ってたけど、内心はめちゃくちゃ怒ってたかもしれないし……。自分のサーバントがあんなんじゃ、そりゃ恥ずかしくなっても仕方ないとは思う。


 すると、ピタリと止まって乱雑に降ろされた。


「ちょっ、もう少し丁寧に降ろしなっ」

「お前、俺があんなことで怒ってるとか本気で思ってるわけ?」


 腕を組み、少し屈んであたしと目線を合わせてくる九条。目力が半端ないし、妙に圧力を感じるし、嫌な汗がジワッと出てくる。


「そっ、そうなんじゃないの?」

「あ? 俺があんなことで怒る“みみっちい男”だと思ってるわけ? お前は」

「うん」

「シバくぞ」

「ゴメンナサイ」


 大きなため息を吐いてあたしを見下ろしてる九条。それをただ見上げるあたし。


「……はぁぁ、悪かったな」


 え? え?? ええっ!? あの九条が……謝ったぁ!?



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