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一触即発?④

「はあ? んなこと知ったこっちゃないっつーの」


 舌をベーッと出してふざけた顔をしながら九条がドアノブに手をかけた。


「少しくらいあたしの頼みを聞いてくれたっていいじゃん。だいたいあんたはっ」


 九条がここから出ようと、ドアノブを握って開けようとした時──。ポロッ……ゴトンッ、ゴロゴロ……コトンッ……。


「「……え」」


 ドアノブが取れて、床に転がった。


「取れたな~」

「取れたね~……って、どぉぉすんのよぉぉ!!」

「うっせえな、喚くなよ。電話すりゃいいじゃん、アホなの?」


 ── うん、確かに?


「まっ、まあ……ちょっとスリリングな感じを出そうかなって思って? わざと大きな声で叫んでみただけ。ただそれだけのこと、別に焦ったわけじゃないし」


 我ながら残念すぎる嘘だなと思いつつ、チラッと九条を見上げると小馬鹿にするような笑みを浮かべていた。


「ププッ。お可愛いこと~」


 だぁぁーー! うっざぁ、このうえなくうっっざぁ!


「あの、さっさと電話してくれる? あんたと密室に閉じ込められてるなんて本当に耐えらんないわ」

「んなこと言っちゃってさぁ、実は喜んでたりっ」

「するわけないでしょ、自惚れんなクズ」

「いや、お前……それは言い過ぎでしょ。俺、お前のマスターな?」

「それは失礼いたしましたー」

「ったく……」


 スマホを手に取って画面をジーッと見つめながら動きが止まってる九条に疑問符が浮かぶあたし。


「電波ねえわ、ここ」

「……へ?」

「圏外だって~。今どき校内に圏外な場所があるとかありえなくね? マジでウケる~」

「……ははっ、あははっ! だねぇ、超ウケるー」


 ・・・って、なるわけないじゃん!! なんっにもウケないんですけど!? 微塵も笑えんわ!!


「まっ、蓮達が捜しに来るっしょ。モーマンタイ」


 その辺に置いてあった椅子に座って、ヘラヘラしている九条に殺意が湧いてくる。


「あんたがこんな所に連れ込むから、こんなことになったんでしょ!?」

「俺と2人きりで密室にいると何か不都合でもあんの~? 是非とも教えてほしいね」


 なんて言いながら立ち上がって、あたしにゆっくりと近づいてくる九条。高校生とは思えない色っぽい表情と雰囲気。


「いやっ、そのっ、それはっ、違くてっ」


 だめだめ、思い出しちゃダメ。忘れてたのに、思い出しちゃったじゃん! 九条とのキスのこと! さいっあく!


「なぁに焦ってんの~?」

「ちがっ」


 後退りしていたあたしの背中にコツンッと何かが当たった。おそらく壁か何かだろう……もう、これ以上は逃げらんない。


「七瀬……お前さ、誘ってんの?」


『誘ってんの?』ってどういうこと? 別に何も誘ってなんかないし、むしろ逃げたくて仕方ないんですけど!


「は? な、なに? 意味分かんないんだけど」

「誰にでもそういう顔するわけ?」

「……え?」

「それとも俺だから?」

「……は?」

「はぁぁ。無自覚ほど恐ろしいもんはないってか。こりゃどうしたもんかね」

「……っ!?」


 九条の大きな手が頬に添えられて、あたしの瞳を覗くようにジッと見つめてくる、相変わらずの距離感バグ男。


 ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ……と煩い心臓。


「なんつーか、甘そうだな」


『甘そう』とは? どういうことなの? え、なに? なんなの!?


「ちょ、あっ、あの……っ!!」


 ガチャッとドアが開いた音がしてあたしと九条がそっちを向くと、そこに立っていたのは宗次郎だった。


「あ、お邪魔でしたか。失礼いたしました」


 あたしは慌てまくって、九条のお腹に思いっきりパンチを入れる。


「んぐぅっ!」

「ちっ、違う違うっ! これは違うの!!」

「へぇー。別にどうでもいいんだけど」


 興味無さそうな反応をしてる宗次郎のほうへ行き、何事も無かったかのように振る舞うあたし。


「おい、七瀬。マスターに腹パンとか前代未聞だぞ。マジでありえねえ」

「腹パンなんて人聞きの悪いことは言わないでくださいませ。手が少し滑っただけです、マスターは大袈裟なんですよ。ね? 宗次郎君。ははは」

「いや、俺に振られても」

「お前だって上杉家の端くれだろ。こいつにサーバントとはなん足るかを教えてやれ、宗次郎」


 あたしと宗次郎は目を見開いて、バッと九条のほうを向いた。


「なんだよ、お前ら」

「九条様が俺の……い、いえ、すみません。何でもないです」


 反応に困ってる宗次郎。名前を呼ばれて一番驚いているのは宗次郎だもんね。


 ・・・もしかして、あたしが『名前で呼んであげてほしい』って頼んだからかな? いや、あたしの頼み事を聞いてくれるようなタイプではないないんだけど、もしかしたら……ね。


「九条」

「んあ?」

「ありがとう」


 九条を見上げながらお礼を言うと、なぜかほんのり頬が赤くなっている。まさか……熱がぶり返したんじゃないでしょうね!? もう看病なんてしたくないんですけど!!


「なんのお礼だよソレ、意味分かんっ」

「ちょ、あんたっ! 熱あんじゃない!?」

「はっ!? いきなりなんだよ、熱なんてねぇわ!」

「顔赤いってば! 調子に乗るから熱がぶり返すのよ!」

「ちっげぇよ、そんなんじゃねえっつーの!」


 そんなあたし達のやり取りを冷ややかな目で見ている宗次郎と、熱を測らせろと騒ぐあたし、絶対測らせないと騒ぐ九条は皆のもとへ向かった。


 一時はどうなることやらと思ってたけど、一触即発は回避……できたのかな? 多分。

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