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一触即発?②

「あたしの物で、あたしの物ではない……って感じ」

「ふーん」


 宗次郎からは上杉先輩みたいな、あたしに対する“敵対心”的なものはまるで感じられない。むしろ、“九条のサーバントとか同情するよ”的な雰囲気を感じる。少し引っ掛かってたけど、あたしの思い過ごしかもしれないな。


「お前ら」


 ふと振り向いてこっちを見た九条に内心ドキッとした。別に悪いことをしてるわけでもないのにね。


「さっきから何コソコソと喋ってんのー?」


 うわぁ……地獄耳。絶対聞こえないだろうなって声で喋ってたのに。


「九条様のサーバントになれるなんて凄いね、とっても光栄なことじゃないかと話していたんですよ。ね? 七瀬さん」


 うわぁ……嘘も方便ってやつかな。


「はい。何が光栄なのかさっぱり分かりませんけどとお答えしていたところです」

「ふふっ。舞ちゃんって面白いね~、柊弥が気に入るのも分かるかも~。あっ、今日みんなで家に来てよ! パーティーしない!? ね、いいでしょ? 柊弥!」


 九条の腕に抱きついてムギュムギュしている咲良ちゃん。けしからんオッパイだ。


 てか、咲良ちゃんの雰囲気誰かに似てるな~って思ってたけど、きっと未玖に似てるんだと思う。フワフワしてて、可愛らしくて女の子らしい、あたしとは正反対のタイプ。憎めないよね、こういう女子ってさ。守ってあげたくなっちゃう的な?


「別に俺はいいけど、蓮達にも聞いて来いよ~」

「うんっ!」


 九条から離れて、蓮様達のもとへ小走りで向かう咲良ちゃん。


「で、なんでお前は上杉弟と仲良く並んで歩いてんだよ」

「いや、別に仲良く歩いてたつもりはないんですけど」

「七瀬」

「あ、はい」

「俺の隣にいろ」


『俺の隣にいろ』そう言った九条の声が妙に優しくて反応に困る。


「……御意」

「んで、上杉弟。お前は咲良のサーバントだろ? 咲良から離れんな」


 九条にそう言われた宗次郎は、軽く頭を下げて咲良ちゃんのもとへ向かう。去り際、あたしと目が合った宗次郎はニコッと笑みを浮かべていた。その笑みが何だったのかは分からない。でも、一つ言えるのはやはり宗次郎はイケメンだ……ということ。


「俺のほうが何百倍かっこいいっしょ」

「……はい?」

「俺のほうが圧倒的イケメンでしょって話ね~」

「は、はあ」

「なに、お前。あいつのほうがいいわけ?」

「はあ?」

「俺のほうが全て勝ってんだろ」


 何を言ってるんだろう、この人は。もしかして……なかなかなイケメンが登場して、自分のイケメン枠を奪われちゃわないか不安なのかな?


 ププッ、ウケるー! 滑稽滑稽!


 いや、正直言うと圧倒的に九条のほうがイケメンではある。そもそもスタイルがレベチだからね、九条は。うざいくらいに容姿が整いすぎてるし。


 “俺のほうがかっこいいと言え”と言わんばかりの圧力をかけられて、本当に面倒くさい。


「九条様のほうがかっこいいのでー?」

「なんでそんな棒読みなんだよ」

「興味ないんで」


 すると、いきなり顔を近づけてきた九条。


「ちょっ……!?」


 バランスを崩して後ろへ倒れそうになるあたしの腰を支えた九条は、安定の距離感バグ男になっている。


「お前余計なことしか言わないから、いい加減にしないと口塞ぐよ? いいの~?」

「……っ!? い、いいわけがないでしょうが!」

「ハッ。余計なこと言うわ、どんくさいわ、散々だねぇ。お前」

「あっ、あんたが急に顔近づけて来るからでしょ!?」


 ニヤニヤしながら勝ち誇った表情を浮かべ、ゆっくり離れていく九条。


「俺が近づいたら何か不都合でもあんの? お前が俺に惚れんのも時間の問題かもね~」  


 ・・・はあ!? だぁぁれがあんたなんかに惚れるかよ!


「はは、勝手に言ってろ……くださいませ~」

「どんな日本語だよそれ。バカ丸出しだな、ウケる~」


 あんたに惚れることなんて一生ない。断じてない。ありえない!


 ── それからマスター達の授業が始まる。


 相変わらずちんぷんかんぷん過ぎ。というか、サーバントがマスターの横に立って付き添う意味は何なんだろう。一応この授業でお前らも学べ的な?


 本当、なにもかもがハイレベルだわ……なんて思いながら視線をズラすと宗次郎と目が合った。


 すると、口パクで『バカヅラ』と唐突に言われたあたし。いや、急に意味分かんないんだけど。『は?』と返すと『マヌケ女』と返ってきた。しかも、あざ笑っているような表情の宗次郎。これで苛つかないほど、できた人間ではないあたし。言い返そうとしたその時だった──。


「七瀬さん、上杉宗次郎君。君達は廊下に出ていなさい。ここにいる資格はありません」


 先生がそう言うと、全員の視線があたしと宗次郎に向けられる。


「分かりました」

「は? えっ、ちょっ」


 すんなり教室から出ていく宗次郎。あたしは恐ろしくて九条と目を合わせることすらせず、苦笑いしながらペコペコと頭を下げて教室を出た。


「怒られたな」

「誰のせいだと思ってんのよ」

「俺のせいじゃないでしょ」

「宗次郎のせいでしょ」

「ま、いいじゃん。あんな授業聞いてたってどうせ分かんねーだろ? 舞は」

「宗次郎は分かるわけ?」

「だいたいわな」


 あぁそっか。上杉家だもんね……そりゃある程度はできるか。


「ていうか、宗次郎ってサーバントの資格とかあるの?」

「あるに決まってんだろ。上杉家は代々サーバントとしてマスターの奴隷やってんだから」


 “奴隷”て……まあ、あながち間違ってはないかもしんないけど。


「サーバント一家ってやつね」


 バンッ! と教室のドアが勢い良く開いて、鬼の形相で出てきたのは凛様だった。


「あなたね、いい加減にしなさいよ」

「ちょっ、凛ちゃん落ち着いて!」


 凛様を宥めようとする咲良ちゃん。


「どんだけ柊弥に恥をかかせれば気が済むの? あなたの存在自体“恥”も同然なのにっ」

「俺はそうは思いませんけどね」


 あたしの前に出て凛様に楯突く宗次郎。


「は? なによ、宗次郎。この私に口答えするつもり?」

「七瀬さんを“恥”と言うなら、その“恥”を好んで連れて歩いている九条様のセンスが疑われますね」

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