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一悶着③ 九条視点

『飽きた』この一言がどうやら七瀬の癪に障ったらしい。この俺にこの態度だもんな。本当に面白いわ、こいつ。


「あ? いいわけ? もう逃がしてやんねぇよ?」

「は?」

「逃げるなり辞めるなりするなら今のうちだっつってんのー」 


 俺はもう、お前を逃がすことも手離すこともできなくなる。


「俺様御曹司……? フンッ。上等だわそんなもん」


 ニヒルな笑みを浮かべて、俺よりちっせぇくせに見下すような目で俺を見てくる七瀬がうぜぇ。なぁんでこんな鬱陶しい女にこだわってんだろうな、俺。もっとマシな女なんて腐るほどいんだろ。


「……アホくさ」

「は? 今なんて言った? アホにアホなんて言われたくないんですけどー」


 ジト目をしながら俺を睨み付けてくる七瀬にため息しか出ねぇわ。別にお前に言ったわけじゃねぇよ、自分に言ったんだわ。


「あー、ハイハイ。もう面倒くせぇから絡んで来んな」

「はあ? いっつも無駄に絡んで来るのはあんたでしょうが!」

「馬鹿な奴ほどよく吠えるってまさにお前のことだな。うっせえー」


 そう言って七瀬に背を向け歩き始めた。すると、後ろでブツブツ言いながらもちゃんと俺について来る七瀬。


「だいたいあんたは~ ──」


 グチグチ言いながらムスッとして、当たり前かのように俺の隣を歩いている。“対等”、こいつは俺と対等で在ろうとする。というより、はなっから俺を敬う気が更々ない。これが他の奴なら絶対許さねぇけど、こいつならって思う俺も大概キモい、心底キモいわ。


「ねえ、あんた。人の話聞いてる?」

「あ? ああ、うん。聞いてる聞いてるー」

「なら、あたしが話してたこと一語一句間違えずに言ってみなさいよ」

「お前、ド庶民で超貧乏人なうえに性格までひねくれてるとかマジで貰い手なくなるよ~?」

「あんたに""だけ""は言われたくない。で、人の話は聞いてたわけ?」

「貧乏人の戯れ言なんざ耳に入らん」


 そう言った瞬間、何かに躓いて転けそうになった。


「足元にはお気をつけてくださいませ、マスター」


 フッと鼻で笑って、スタスタ前を歩く七瀬。


 ・・・お前、俺に足引っ掛けただろ。


「おい、七瀬」

「はい、なんでしょう。マスター」


 勝ち誇ったような顔をして俺のほうへ振り向く七瀬が絶妙にうざい。


「随分と躾がなってねぇな。ま、いいけど? 二度とそんなことができないように俺が調教してやるよ」


 そう言うとゴミを見るような目で俺を睨んでる七瀬。こんな目をする奴もこいつくらいしかいないんだよな~。俺が『調教してやるよ』なぁんて言ったら大概の女は大喜びなんだけど。


「ハッ。あんたにそんなことできるのかしら?」


 まぁほぼ確実に思い通りにはいかねぇし、言うことも聞かねぇだろうな、お前は。


「ていうか、病人は大人しく寝てなさいよ」

「あ? 天馬行くに決まってんだろ」

「はあ? 馬鹿なの?」

「もう治った」

「んなわけないでしょ?」


 ── ピピッ、ピピッ……36.6℃。


「言ったろ?」

「いや、でもっ」

「俺シャワーしてくるから適当に座ってろ」

「は、はあ」


 七瀬を部屋に放置して脱衣室へ向かった。あ、霧島に車まわすように言っとくか……って──。


「……ちっ。はぁぁぁ、めんっどくせえ」


 ── シャワーを浴びて部屋へ戻ると、ソファーに座って寝こけている七瀬が視界に入る。タオルで髪を拭きながら七瀬に近づいて、手を伸ばせば届きそうな距離。


 ・・・綺麗な寝顔してんな、こいつ。


「黙ってりゃそこそこイイ女なのに」


 規則正しい寝息を立てて無防備な姿……ほんっと警戒心の欠片もねえな。そんなんで俺のサーバントが勤まんのかよ、まったく。


「……頼むから壊れんなよ」


 七瀬に手を伸ばし、頬にそっと触れた。すると、モゾモゾっと動いて起きそうになった七瀬に焦って思いっきり頬をつねくった。


「……っ!! いっったぁぁいっ! ちょ、何すんのよ!」

「勝手に寝こけてんなよ、サーバントの分際で」

「信じらんない! ほんと最っっ低!!」


 俺を見上げてる七瀬の瞳がうるうるしてて、それがなぜだか無性に欲を駆り立ててムラッとする。


「お前、ソレわざと?」

「は? 何が!?」


 うん、ねぇな。こいつに限ってねぇわな。そんな計算高い女でもなければ、あざとい女でもない。これはこいつの“素”でしかない。いやいや、これが“素”とか厄介すぎんだろ。マジで面倒くせぇ女。


 俺は濡れたタオルを七瀬の頭にかけた。


「ちょっ、冷たっ!」

「ごめんごめーん」

「あーもう、さっさと髪の毛乾かしなさいよ。また風邪引いても看病なんて絶対にしないから!」


 ぷんすか怒りながらキョロキョロしてる七瀬。


「なにキョロキョロしてんの?」

「着替え、どこですればいいの」

「俺の真ん前」

「どうやら死にたいらしいな」


 今にも人を殺めそうなツラして、無言の圧力をかけてきやがる。マジで何様なんだよ、こいつ。


「あー、ハイハイ。俺があっち行くからここで着替えれば?」

「さっさと消え失せてくださいませ、マスター」

「言葉遣いには気をつけろよ? サーバント」

「御意」


 満面の笑みを浮かべている七瀬……と思いきや、確実に目が死んでる七瀬を横目に俺はウォークインクローゼットへ向かった。



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