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一悶着① 九条視点

 


 ── カーテンの隙間から差し込む光が眩しくて、重い目蓋をゆっくりと上げた。


 熱が引いたのか、すんげぇ体がラクだな。起き上がって何やら不穏な空気が流れてくるほうへ目をやると、今にも死にそうな顔をしてる七瀬が部屋の端っこに突っ立っていた。


「なんだお前、気色悪っ」

「は? それが夜通しで看病したサーバントへ向かって言うセリフですか? 信じらんないわ」

「ああそう、そりゃご苦労さ~ん」


 立ち上がって七瀬のほうへ行くと……なぜか手で口元を塞いで俺から逃げようとしている。ま、そんなの俺が逃がすはずもなく壁に追いやった。


「で、なにしてんの? お前」


 全力で口元を隠してる七瀬。夜通しの看病で頭がイカれちまったのか?


「あっ、あのっ、これはっ、あのっ、違くてっ」


 顔を真っ赤にしながらしどろもどろで、それがなんつーか……可愛いとか思う俺も確実にどうかしてんだろうな。


「ふーん? 何が違うわけ~?」


 少し屈んで七瀬の顔を覗き込んだら瞳をうるうるさせて、すんげぇ色っぽい顔してやがる。うん、なんつーかエロい。


 つーかさ、なんなの? こいつ。こんなの襲ってくれって言ってるようなもんじゃね? バカなの? バカだよな、こいつ。マジで意味分からんすぎでしょ。俺にどうしてほしいわけ? 触らないでって言ってみたり、俺に迫られてこんな顔したりさ……マジで意味不すぎんだろ。明らかに様子がおかしいし。


「あのっ……!」

「あ?」

「なんで九条の部屋って洋室なの!?」


 ── は?


 いやいや、今!? その質問、今!? タイミング違くね? それ、今じゃなくね? なんなのお前、謎すぎんだろ。呆気に取られている間にススッと俺から抜け出した七瀬、俺は何もない壁に手を付いてる状態。


「お前の思考回路どうなってんの? マジでビビるわ」

「ははは~! いやあ、和風な家なのに九条の部屋だけ洋風だな~って」

「それ、今言う?」

「うん、今言う」


 俺が一歩近づくと、一歩下がる七瀬。


 ・・・いや、マジでなんなの? なんかおかしくね?


「おい」

「はい、なんでしょう」

「俺んとこ来い」

「……え? すみません、よく聞こえませんでした。残念です、あたしはこれで失礼いたします」

「待っ」


 ビュンッと猛ダッシュで逃げた七瀬を掴み損なった。ったく、逃げ足速すぎんだろ。スマホを取り出して霧島に電話をかける。


 〖はい〗

 〖全ロック~〗

 〖承知いたしました〗


 電話を切るのと同時に、外に繋がるありとあらゆる場所の鍵が自動でロックされていく。ちなみにこれ、手動じゃ絶対に開けられないやつね?


 すると、どこからともなくガンガンッと叩く音が聞こえ、あいつの『開けて』って声も聞こえる。つくづく馬鹿だな、本当に。


「だからさぁ、俺から逃げられるとでも思ってんの~?」

「ひぃっ!?」


 振り向き様に化物でも見るような目で俺を見る七瀬に呆れるしかない。


「あ、あ、あのっ! ごめんなさい、許してください!」

「あ? 何しでかしたんだよ、お前」

「しでかしたのはあんたでしょ!?」


 そう言った直後、“あ、しまった”みたいな顔をして、キョドり始めた七瀬を見て俺は確信した。俺が寝てる間に何かがあったな、絶対に。


「しでかしたのは俺ってどういうことだよ。俺、死んだように寝てたんすけどー?」

「きっ、きっ、きぃぃーー!!」


 急に叫び出す七瀬にぶっちゃけ引いた。


「……お前、マジで大丈夫かよ」

「大丈夫です」


 いきなり正気を取り戻したみたいにスンッと真顔になんのもやめてくんねぇかな。こえーんだけど、普通に。どんなホラーよりもホラーになってんぞ、お前の顔面。


「で? 『きぃぃーー』が何なんだよ」

「き、きっ、霧島さんが九条様にキスをしていました」


 ── は?


「いや、マジで意味分からん」

「ははは」


 そこへ猛ダッシュしてきたわりに息一つ切らしてない霧島がやってきた。


「七瀬様、それは一体どういうことでしょう」

「霧島さん!? 聞こえてたんですか!?」

「ええ、聞こえてますとも」


 全ロック状態になると屋敷内の音声録音も開始されるからな。それを監視してる霧島にはツーツーってわけ。


 すると、七瀬が霧島に必死こいてウインクをし始めた。それを見て霧島はあからさまに嫌そうな顔をしている。


 ・・・こいつら、なんつーか親しげになってね? しかも、あの霧島が俺以外の奴にこんなにも露骨に嫌そうな顔をしてるのは初めて見た。


 お互い気を許し合ってる、そんな感じがして胸クソ悪ぃわ。


「霧島」

「あ、はい」

「お前クビ」

「「……え?」」


 霧島と七瀬が似たような間抜け面をしながら俺を見ている。


「同じこと二度も言わせんな」

「いや、あの……柊弥様、“クビ”とは……?」

「あ? はっきり言ってほしいわけ? もう要らねえっつってんだよ」

「ちょっ、九条!! そんな言い方っ」

「お前は黙ってろ」


 俺のモンにちょっかいを出す奴は誰だろうと許さん、例外はない。俺のモンを俺から奪おうとする奴は誰であろうが切り捨てる、それが霧島でもだ。


 ・・・こいつは、七瀬舞は……俺だけのモンだ。


「柊弥様。私が柊弥様の世話係を解任せざるを得ない理由は、一体なんなんでしょうか? 理由も無しでは納得しかねます。あまりにも横暴すぎませんか? だいたい柊弥様はっ」

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