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九条家②

 まずは正座で待機、茶を出されたらぁ……片手で持って、もう片方の手のひらに乗せて……2回くらいクルクル回して、2口くらいで飲みきるんだっけ? あれ、一気だっけ? いや、そもそもクルクル回すのってどっちに回すとかあるのかな? というか、片手で湯飲み持っていいの?


 あれ? あれ? あれ? あれれ!? そんなことを考えていたら目がグルグル回り始めた。


「舞ちゃん」

「はっ、はい!」

「そんな畏まらなくていいのよ? はい、どうぞ」


 差し出された茶にガタガタ震える手を伸ばした。


「あ、あの……すみません。こういうの初めてで……」

「謝る必要なんてないわよ? ほら、ガシッと湯飲みを持って一気に飲み干しちゃいなさい! ささ、どうぞ!」

「え、あ、はいっ!」


 言われるがまま、一気に飲み干した。


「ねえ、柊弥のサーバントなんてとっても大変でしょ?」

「はい。あ、いえ……そんなことは……」

「本当、誰に似たのか軽薄でよく分からない子でしょ?」


 軽薄っていうだけなら全然いいんですよ。そこまで気にしませんし、軽い人だな~としか思いませんから。軽薄云々の前に横暴ですよ、おたくの息子さん。


「でもね? こんなこと舞ちゃんに言うのは卑怯かもしれないし、不快に思うかもしれないけれど……柊弥が九条家に生まれて、生まれた瞬間からあの子は全てを背負わされているの。周りから見たら恵まれた環境で……と思われるかもしれない。確かに恵まれているのも事実よ? でも、当然それだけじゃないわ。九条家の者として、九条家に相応しい者にならなければならないというプレッシャーを幼い頃から感じていたはず。それと同時に出てくる問題が地位や名誉にすり寄ってくる“人”、要は人間関係ね。柊弥は幼い頃からその辺が凄く敏感で……おちゃらけてるというか、ちゃらんぽらんというか、軽薄になったのはそれが原因だと思うの。親である私達の責任でもあるわ……本当にごめんなさいね? 嫌な思いをさせてしまって」


 悲しそうに笑う九条のお母さん。九条家みたいな次元の違う家柄は家柄で、本当に苦労してるんだろうな。故に我が子に対して責任を感じてしまうのだろう。“もっと、普通の家庭に……”と、そう思わずにはいられないかもしれない。


 うちの親だってもしかしたら“普通の家庭に……”そう思っているのかもしれない。まぁぶっちゃけ、もうちょっとお金に余裕がある家ならよかったなって、そう思ったことは何度だってある。でも、七瀬家に生まれなきゃよかった……なんて思ったことは一度だってない。そんなこと、思うはずもない。


 九条だってそんなことは思ってないと思う。だから、そんな悲しそうな顔しないでほしい。


「たしかに軽薄だし、本当にうざくてイライラもしますけど、根っからの悪い奴ってわけではないですし、優しいところもあるっちゃあります。あたしみたいなド庶民の貧乏人をサーバントに雇ったくらいですし、“九条家”という“縛り”にあの人ががんじがらめになって捕らわれている……なんてことは無さそうですよ。少なからず、奥様が責任を感じてしまう必要が無いほどに九条様は自由気儘に生きています……と、思います……あははは……」


 えー、あたしは何を言っているんだろう。分かったような口を聞いて抹消されないだろうか。そもそも九条がどう思ってるか、何を考えているかなんてさっぱり分かんないし。そもそも“軽薄で本当にうざくてイライラする”なんてさ、その親に向かって言うセリフか? ヤバいでしょ、あたし。


 こりゃ物理的に首が飛んでも仕方あるまい。


「あの、打ち首だけは勘弁してください」


 床に顔面を擦り付けるように土下座した。すると、クスクス笑い声が聞こえてくる。ですよね、惨めですよね、貧乏人の身の程知らずが土下座をしてるなんて、面白おかしくて笑っちゃいますよね、どうか命だけはお助けください。


「もぉ、舞ちゃん。頭なんて下げないで?」


 九条のお母さんが優しくあたしの肩に触れた。ゆっくり顔を上げると、とても綺麗で優しい笑みを浮かべてあたしを見てた。


「本当に面白い子ね。柊弥が執着する意味が分かる気がするわ」

「は、はあ……」

「これからも苦労をさせちゃうかもしれないけど、どうかあの子のことを……よろしくお願いします」


 あたしに向かって丁寧に頭を下げる九条のお母さん。


 や、やめてー! あたしなんかに頭を下げないでー! というか、よろしくされちゃっても困りますー!


「あ、あのっ! やめてください!!」


 アタフタするあたしを見て、クスッと笑いながらもしっかりあたしの瞳を捉えて離さない。こういうところは九条に似てるかもしれない。


「私はいつだって舞ちゃんと柊弥の味方よ。どちらかと言うと、舞ちゃんの味方だけどね? だから辛いことは溜め込まずいつでも私に吐き出して? 可能な限り力になるわ」


 ── 『だからどうか、柊弥の傍にいてあげて』


 そう言われている気がした。


 ・・・あの、あたし……そんな大層な女でもないですし、あまり期待されても困るんですけどね、はい。



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