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一難去ってまた一難③

 〖はい、もしもし。どなたっ〗

 〖もしもし!? 七瀬ちゃん!!〗


 この声、霧島さんだ。しかも『七瀬ちゃん』呼びになってるしただならぬ予感。


 〖霧島さん? どうしたっ〗

 〖俺の首が飛ぶ!! おそらく物理的に!!〗


 ・・・いや、マジで意味分かんない。


 〖あの、落ち着いっ〗

 〖助けて七瀬ちゃん! 柊弥が死にそうなんだって!〗


 九条が死にそう……? 死にそう……死にそうっ!?


 〖はあ!? 一体どういうことですか!?〗

 〖今すぐ屋敷に来て!! 今すぐ!! 迎えはもう行かせてるから正門にダッシュ!!〗


 いや、あたし病み上がりなんすけど──。


 〖あの、さすがにダッシュはっ〗

 〖つべこべ言ってないでさっさと動け!!〗

 〖あーーそうですか! 分かりましたよ!〗


 イラッとして、何か言おうとしていた霧島さんをスルーして通話をブチッと切った。溜まり場のドアを開け、ひょこっと顔だけを覗かせる。


「あのぉ……すみません。お坊っちゃまの世話役から呼び出されたので、あたしはここで失礼いたします」


 それだけを言ってドアを閉め、少し痛む体に鞭を打ちながら正門にダッシュした。


 正門にキィィッとブレーキ音を立てながら停まった1台の高級車。すると、後部座席のドアが自動で開く。あたしはそこへ飛び込むように乗り込んだ。


「ハァッハァッハァッ……こっちが死ぬわ!」

「すみません、急ぎます」

「……っ、ああ、はい。どうぞ」


 ── そして、九条家の離れに連れて来られたあたし。


「七瀬ちゃん!! 柊弥が、柊弥がっ!!」


 玄関先でアタフタしてる霧島さんがあたしの肩をガシッと掴んで頭部を吹き飛ばす勢いで揺すってくる。


「……っ!! きりしまぁぁぁぁ!!」


 あたしの叫び声は九条家の敷地内に轟いた。


「落ち着いてください!! あたしが死ぬっつーの!!」

「あ、ああ……ごめんごめん」

「それにキャラ設定がブレブレになってますけど、いいんですか? いつものクール執事キャラはどこへ!?」

「……申し訳ありません」

「で? なんなんですか?」

「柊弥様が……柊弥様が……高熱で」


 ・・・ああ、風邪かな? あたしは霧島さんの隣を歩きながら、九条の部屋へ向かっている。


「高熱……ですか。病院は?」

「柊弥様が行かないと仰ってて」

「そうですか。ちなみに何度なんですか?」

「37.5℃です」


 は? あ、いや……まあ、人によっては微熱ライン。高熱とは……言わんでしょ。霧島さんがこんなにも取り乱しているから、もっと高熱を想像していたんだけどもぉぉ……ぶっちゃけ反応に困るわ。


「柊弥様は風邪知らずです。私が旦那様から“柊弥に風邪ひとつ引かせるな”と脅されっ、いや、申し付けられていたので……」

「は、はあ……そうですか」

「もうどうしていいか分からず、七瀬様なら免疫力めちゃくちゃ高そうですし、何かと詳しいと思いまして……育った環境的に」


 あの、しれっとディスんのやめて。まぁ自分の風邪、弟たちの風邪、親の風邪……全部あたしが面倒見てきたけどもさ。


「まあ、基本は学園外で関わりたくないんですけど、あたしは一応九条様のサーバントなので病人のお世話はお任せください」

「助かります」


 ── コンコンッ。九条の部屋のドアをノックしたけど応答なし。


「失礼します」


 ガチャッとドアを開けて部屋に入ると、布団に埋まってる風邪引き九条を発見。やれやれと思いつつ、九条のもとへ歩みを進めた。


「九条様っ」

「お前、声デカすぎ」


 ああ、さっきの『きりしまぁぁぁぁ!!!!』か……。


「ああ、申し訳ございません」

「つーか霧島。こいつは呼ぶなっつったよね? 俺の一言でお前のクビが飛ぶってこと忘れんなよ」

「柊弥様、そんなこと仰らずに……。私の首が物理的に飛んでしまうのを阻止するべく、七瀬様をお呼びしたんです」

「ったく、大袈裟なんだよ……お前は」


 ムクッと起き上がった九条が不機嫌そうにあたし達を見てる。でも、やっぱしんどそうだな。


 ・・・ていうかぁぁ……これは一体なんなの? あたしの視界に入ったのは、病人が食べるとは到底思えない豪勢な料理達。


「あの、霧島さん」

「はい」

「この豪勢な料理達は一体なんなんでしょうか」

「柊弥様が元気になるよう、この私が腕によりをかけて作りました」


 めちゃくちゃドヤ顔の霧島さんにげんなりするあたし。


「霧島さん」

「なんでしょう?」

「全っ部、片付けてください」

「なっ!?」

「こんなの病人が食べられるわけないですよね?」

「ですがっ、食事を摂らないと柊弥様が死んでっ」

「死にません、直ちに片付けてください」


 シュンッとして片付ける霧島さんを横目に九条の額に手を当てた。これ、結構熱上がってるんじゃないの?


「九条様、もう一度熱測ってもらえます?」

「あ? めんどくせぇからっ」

「さっさと測ってくださいねー」


 体温計を無理やり口の中へ突っ込んだ。


 ピピッ、ピピッ……38.5℃。


「食欲は?」

「ない」

「そうですか。あの、霧島さん。氷枕と冷えピタと解熱剤と水分お願いできますか?」

「承知しました」


 霧島さんが部屋から出ていくと、九条は再び布団の中へ潜った。


「もう帰れよ」

「いえ、そういうわけには」

「移るっつってんのー」

「……へえー。九条でもそんな気を遣うことなんてあるんだねー」

「お前さ、俺を何だと思ってんの?」


 “俺様(クズ)御曹司”……とは言えない。


「失礼いたします。七瀬様、お持ちしました」

「ありがとうございます。霧……島……さん……」


 振り向いてワゴンを見てみると氷枕に冷えピタに薬、そして病人が飲むとは到底思えないジュースの数々。霧島さんって意外と抜けてる?


「あの、霧島さん。そのジュース達は?」

「これは柊弥様がお好きなジュースっ」

「スポーツ飲料もしくは経口補水液にしてください」

「いや、やはりこういう時は柊弥様がお好きなっ」

「霧島さん。スポーツ飲料もしくは経口補水液です。スポーツ飲料ならその辺の自販機にも売っていますので、ひとっ走りしてみてはどうでしょう」


 真顔で霧島さんを見つめると、ガクッと肩を落として部屋から出ていった。


「おい」

「ハイハイ、なんでしょう」

「お前、霧島と妙に仲良くなってね?」


 九条は布団の中に潜ってるから、今どんな顔をしてるのかは分からない。

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