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一難去ってまた一難②

「ありがとう、拓人。心配かけてごめんね?」

「……舞」

「ん?」

「もう天馬なんて辞めちゃえよ」


 あたしと拓人の間に微妙な空気が流れて気まずい。


「入院するほどの出来事ってなに? おかしいじゃん、どう考えても。ねえ、舞……やっぱあの男に騙されて、いいように使われてるだけなんじゃないの? 俺、心配なんだけど」


 “そんなんじゃない”と全否定できないから恐ろしいよね、あの男のことは。


「……そんなことないよ? まあ、確かにお金持ち学校だからアウェイ感半端ないけど、それでもあたしに良くしてくれる先輩も、普通に接してくれる同学年の子達もいるから」

「舞はいつだってそうだよな」

「え?」

「いや、こっちの話。いつか本当のこと話してくれよ……友達だろ? 俺達」


 寂しそうに笑ってる拓人に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。でも、九条のサーバント……なんて言えないや。話がとんでもなくややこしくなるから。


 去っていく拓人の後ろ姿をしばらく眺めた。あんな寂しそうな後ろ姿はじめて見たな──。


「な~に見てるの? 舞ちゃん」

「ひっ!?」


 驚きながら振り向くと、そこにいたのは蓮様だった。


「ごめんね? 驚かすつもりはなかったんだけど」

「あ、いえ……すみません」

「ねえ、舞ちゃん」

「はい」


 ニコッと優しく微笑んで、妙に色っぽい雰囲気が漂わせている蓮様。この人も相当おモテになるんだろうなぁ。九条みたいな暴君さは一切感じないし、ルックスも抜群。そして、家柄も申し分無い……ということは、九条よりモテるんじゃないかな?


「僕のサーバントにならないか?」

「……はい?」

「ん?」

「え?」


 周りの雑音が消え、シンッと静まり返る。『僕のサーバントにならないか?』……って、え? ええ? ど、どういうこと?


「柊弥のサーバントなんて辞めて、僕のところにおいでよ。君を“物”みたいに扱ったりはしない。僕さ、舞ちゃんのこと気になってるんだよね。純粋に気に入ったんだ、君のこと。ちなみにサーバントは“ひとりだけ”って規則はないから、前田さんをクビに……とか、そういうことはないから安心して?」


 “逃がさない”と言わんばかりに、あたしの瞳を見つめてくる蓮様。蓮様のサーバントになったほうが絶対いいに決まってる。九条みたいな扱いを受けることもないだろうし。


 ── でも……。


「すみません、お断りします」

「え?」


 あたしは蓮様の瞳から一切目を逸らすことなくそう言うと、蓮様が呆気に取られたような顔をしている。


「あたしは九条様のサーバントです。あの人以外のサーバントになるつもりは微塵もないですね。あの人のサーバントを辞めるのなら、あたしには天馬にいる意味も理由も一切ないですし、サーバントで在り続ける必要がない」

「……くくっ、ハッハッハッ!!」


 突然笑い始めた蓮様に若干引くあたし。そんな笑えるようなことでも言っただろうか?


「あ、あのぉ……なにか?」

「いやぁ~、ごめんごめん。さすが柊弥の選んだ子だなあって思って。悪いね、試させてもらったんだ」

「……はい?」


 ・・・試す……って何を?


「君がルックスや地位などの目的で、僕達に近づいて来た子じゃないかどうかを一応試させてもらったんだ。悪いね、すまないと思ってるからそんな顔はしないでくれ」


 苦笑いする蓮様と、ジトーッと目を細めて睨みを利かせるあたし。


 あー、でもそれでようやく納得できるわ、なるほどね。だから妙に優しかったり、甘ぁいマスクであたしを見つめてきたりしてたわけか。


「あの、失礼だとは重々承知の上で一言物申して宜しいでしょうか?」

「ん? うん、いいよ?」

「自意識過剰も大概にしてください」

「……え?」

「世界中の女が蓮様やあいつのルックスや地位に釣られる……という考え方はやめたほうがよろしいかと。少なくともあたしはそういうの一切興味ないんで。あいつに関してはマジで無駄に顔がいい""だけ""。無駄にスタイルがいい""だけ""。心の底から""クズ""だなーとしか思っていませんから」

「ははっ! いやぁ~、舞ちゃんって本当に面白いなぁ」


 いや、別に面白くもないし、面白いと思ってほしいわけでもないんだけどな。


「すみません、失礼なことを……」

「いや、気にしなくてもいいよ。悪いね、今までろくな子が周りにいなかったもんだから。九条家の柊弥なんて特にね……」


 少しだけ悲しそうに笑う蓮様を見て、今まで九条自身を見てくれる女がいなかったんだろうなって察する。貧乏も貧乏でかなり大変だけど、こういう人達はこういう人達なりの苦労ってものがあるんだな……。


「これから九条様のサーバントとして、がめつい女共はこのあたしが排除して参りますので、どうかご安心ください」

「くくっ。それはとても頼もしいね」

「お給料を貰う身として、少しでもお役に立てればな……とは思っています」

「これは柊弥も苦労するね」

「え?」

「いや、こっちの話さ」


 ── そして、あたし達は天馬学園へ向かった。


「じゃあね、七瀬さん」

「またね、舞ちゃん」

「うん、またね~」


 純君と胡桃ちゃんは三軍? らしい。一軍だの二軍だのよく分かんないけど。


「舞ちゃん」

「はい、蓮様」

「柊弥のことなんだけどさ、最近機嫌が悪いから大変かもしれないけど、何かあったらすぐ僕に言いなよ。力になるからね」

「あ、はい。ありがとうございます」


 ・・・こりゃ大変そうだなあ。最後に会ったあの日、なんか怒ってたし。げんなりしながら雑談しつつ、あたしと蓮様と前田先輩は溜まり場へ向かう。


「やぁ、柊弥……って」

「蓮、柊弥なら来てないわよ。あなた退院したのね、そのまま辞めちゃえばよかったのに」

「そんな言い方はよさないか、凛。で、柊弥は?」

「知らないわよ、来てないもの」


 もしかして、不登校!? これは大問題になるんじゃ……。“ド庶民貧乏サーバントのせいで、あの九条柊弥が不登校に!?”……的な!?


 やばいよ、これはヤバいよ。あーーもう! 一難去ってまた一難じゃん! めんっっどくさぁぁい!


 心の中が荒ぶってる最中にあたしのスマホが鳴った。チラッと確認してみると、画面に表示されているのは登録されていない番号……ていうか、九条以外このスマホに登録されてないから、当たり前なんだけどねー。


 あまり知らない番号は出たくない。でも、なんだか出なくちゃいけない気がする。


「……あのぉ、ちょーっとすみません」


 蓮様達に頭を下げてススッと部屋から出た。そして、通話ボタンを押す。

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