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滅茶苦茶② 九条視点

「……さあ、どうだろうな。女は化けるからねー」


 あいつに限って化けている、なぁんてことは一切無いだろうけど。俺を本気で拒絶するあの感じ、俺のことを狙ってる女とは到底思えんし。


「後悔しても知らねーぞ」

「あ?」

「七瀬ちゃん可愛いし、うかうかしてっと他の男に取られちゃうよーって話な?」

「……生憎、女には困ってないんでね~」

「あらそ」


 煙草の火を消して携帯用灰皿にポイッと入れると、ニコッと微笑んで俺を見てくる霧島。


「では、七瀬様と柊弥様の荷物を纏めて来ますので、柊弥様は七瀬様のお側にいてあげてください」

「ま、予定もなければすることねぇし?」

「くくっ。素直じゃない柊弥様が可愛くて可愛くてっ」

「あーーもう、うっせえ。さっさと行けよ」


 ── で、診断結果は極度の疲労、要は過労ってことだな。


 体への負荷がかなりのもんだったらしく、しばらくはまともに歩けない上に酷く痛むとのこと。そりゃ全身重度な筋肉痛状態になるだろうな。


「1週間ほどの入院を要するかと」

「ん、了解~。……ああ、あのさ、さっきは悪かった。ちょっくら虫の居所が悪かった~的な感じで」

「……へ? あっ、い、いやっ、そんなっ! 滅相もございません!!」

「ははっ、もう下がっていいよ~。こいつは俺が見とくし~」

「はっ、はい!!」


 ・・・にしても、死んだように寝てんな。本当に生きてんのか? そんなことを思いながら、俺の手は自然と七瀬へ伸びていき、気づいた時には髪を撫でていた。


「……お前、本当に馬鹿じゃねぇの」


 こうなったのは、こうさせてしまったのは全部……俺のせいだ。お前があの時、俺のサーバントで在ることをあっさり諦めて、辞めようとして……平然としたツラをしてたのがどうしても気に入らなくて、許せなかった。


 お前の口から何も聞きたくなった、受け入れたくなかった。


『根性なし』『期待ハズレ』そう言った時、七瀬は一瞬だけ表情を曇らせた。ほんの一瞬、傷ついたような顔をして、悲しそうにしたのを俺は見逃さなかった。言った後に後悔した……あんなことを言いたかったわけじゃねえ。


 確実に言い過ぎてる、謝ってやってもいい。そうは思っても、七瀬が俺のことなんてどうでもいい……さっさとサーバントなんて辞めたい。そう思っている事実を俺は認めたくなくて、認めきれなくて、その事実にどうしようもなく苛立つ。


 あん時、いつも通り不機嫌そうに俺を睨み付けて、俺の発言も何かもかもが気に入らない……そんなような顔をしてたな。


 思い通りにいきそうにないこの現実に、どうしても逃がしたくない“おもちゃ”に、振り回されっぱなしの俺。


 こんな感情が初めてで、こんなにも何かに執着すんのも初めてで、何がなんだかよく分かんねぇし、胸の辺がモヤモヤして気持ち悪ぃ。


「なぁ、七瀬。悪かったな」


 ほんっと滅茶苦茶にもほどがあんだろ、馬鹿馬鹿しい。でも、その“滅茶苦茶”をした理由の一部に、“俺のサーバントで在りたい”という気持ちが少しでも、ほんの少しでもあったのなら……こいつを褒めてやらねえとな。


 七瀬の綺麗な頬を親指でなぞり、その指を下に滑らせて唇に触れた。あたたかくて、柔らかくて、形のいい唇。


「ちっせぇ口」


 ・・・今だったらこいつの唇に……って、おいおい。なに考えてんだ俺は。


 椅子から立ち上がって、病室の窓から外を眺めては七瀬をチラッと確認してを何度も繰り返した。今日はおそらく目を覚まさないだろう……医者はそう言っていたが、どうしても七瀬が気になって仕方ない。


 ちゃんと息をしているか、七瀬の鼻付近に手をかざして確認したり、落ち着きなく病室内をうろちょろして、いよいよ俺もイカれたらしいな。マジでどうかしてるわ。今の俺の行動を客観視するとめちゃくちゃダセェし恥ずいわ。こんなの霧島に見られたら、見られたら──。


 嫌な予感がしてドアのほうへ視線をやると、微妙に開いているドアの隙間から、こちらを覗き込んでいる奴がいた。普段なら人の気配に気づかない……なーんてことはほぼ無いが、今は状況が違うらしい。全く気づけなかったわ……最悪なパターンな、これ。


 大きなため息を吐いてドアを開けると……すんげえ鬱陶しい顔をしながら荷物を持ってる霧島が突っ立っていた。


「柊弥様、随分と落ち着きがないようで……いや、随分と余裕がないと言うべきか」

「ちっ、うっせぇー」

「くくっ、お荷物をお持ちいたしました。私も院内にはいますので、何かあれば何なりとお申し付けください。七瀬様の寝込みを襲う……なんてことはくれぐれも無きように。では、失礼いたします」

「おい霧島、おまっ」


 ビュンッと光の速さで消えた霧島。ったく、逃げ足だけは速ぇな。だいたい、こんな状態の女を襲うほど飢えてねえっつーの。


 七瀬が寝ているベッドの隣にあるベッドに腰かけて、スマホを確認すると蓮からメッセージが入っていた。



 《舞ちゃんはどう?》

 《極度の疲労だってよ》

 《お見舞いに……と思ったんだが、遠慮したほうが良さそうかな?》

 《まあ、今日は目ぇ覚ますこと無いだろうし、目ぇ覚めても全身激痛すぎてキツいんじゃね?》

 《そうか……。なら、退院日に会いに行くよ》

 《了解~》

 《じゃ、舞ちゃんのことはよろしく頼むよ》

 《へいへーい》

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