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滅茶苦茶① 九条視点

 


「柊弥、もう限界だろ。舞ちゃんをっ」

「あ? あいつがやるって決めたんだ。黙って見とけよ、蓮」


 限界なんてとうに越えてるだろうな。あいつの苦しむ表情が俺の心臓をギュッと握るように締め付けてくる。この感情は一体なんなんだ?


 今すぐにでも辞めさせてやりたい……そう強く思うこの気持ちは一体なんなんだよ。目を逸らしてしまいたいくらい、あいつを見ていると息苦しくて仕方ねえ。


 ガンッ! と音を立てて立ち上がって蓮にも無性に腹が立つ。


「おい、どこ行くんだよ」

「決まってるだろ? もう彼女は無理だ」

「お前が勝手に決めんじゃねぇよ」

「どう見ても限界を越えているだろ? 柊弥、君は本当に彼女のことを大切に思っているのか? さっきもそうだ。揉めて、理不尽に平手打ちをされているのにも関わらず、彼女を助けにいかないなんて……どうかしているよ。柊弥」

「あいつはそんなことじゃっ」

「『そんなことじゃ折れない』そう言いたいのか? 君が思っているほど彼女は強くないよ。すぐに壊れてしまっ……!?」


 俺の意思とは関係無く、体が勝手に動いていた。蓮の胸ぐらを掴んで壁に押し当てながら俺は今、どんな顔をして蓮を睨み付けてんだろうな。


 あいつはこの俺が選んだ“最高のおもちゃ”だ。そう簡単に壊れはしない。分かったような口利いてんじゃねぇよ。なんでお前があいつのこと分かったような風に語ってんだ。あいつは、あいつだけは……俺だけのモンだろ──。


「ちょっと柊弥! 蓮も蓮よ! なんであんな女の肩を持とうとするわけ!? てか、2人ともどうかしてるわ! あんな女のどこがいいのよ!」


 凛のその言葉にすらイライラして仕方ない。『あんな女』……? 俺のモンに向かって『あんな女』だと? ふざけんな、どいつもこいつも俺をイライラさせやがって。


 って……俺は何に対して苛ついてんだ? “たかがサーバント”だろ? ちょっとした暇潰しだろ? 俺は何に対してイライラしてんだよ、アホか……馬鹿馬鹿しい。少し冷静になって掴んでいた蓮の胸ぐらからパッと手を離した。


「悪い悪い、ついつい反射的な~?」

「柊弥……それが答えなんじゃないのか?」

「はあ? なんだそれ、答えって」

「君の中に渦巻いた“感情”が、彼女に対する“気持ち”ってことなんじゃないか? どうでもいい“たかがサーバント”に対して、君がそこまでイライラすることはないだろ? 僕の胸ぐらをあんな勢いで掴むなんて、今まで無かったじゃないか」

「別にそんなんじゃねぇし。反射的なもんだっつったじゃん?」

「……そうか」


 ピーーッ!! 終了のホイッスルが鳴り響いた。


「……ねえ、あの女……本当にゴールしちゃったんですけど? いや、化物でしょ。ありえない」


 凛は唖然としている。俺も蓮も『マジか……』としか出てこない。フラフラしながら紐をほどいて、背負っていた女を降ろそうとしている。“あいつ、絶対に倒れる”……そう思った俺は、観戦室から飛び出していた。たかがサーバントの為に、たかが女の為に、なんでこの俺がバカみたいに走ってんだよ。マジで意味分かんねえ!!


 ── 会場内へ入る前に上がって息を整えて、何事も無かったかのように会場へ入った。ザワザワしていた会場が一気に甲高い声で溢れる。人がひとりブッ倒れてるっつーのに、キャーキャー喚く女共に虫酸が走るわ。


 で、俺の視線の先にいたのは……上杉に抱えられているあいつだった。女共の甲高い声なんて書き消すほど、俺はあいつのぐったりしている姿に目を奪われていた。そして、上杉に抱えられているあいつを見て、無性に腹が立ってモヤモヤする。


 俺の存在に気づいた上杉がこっちへ向かってきた。いつもの俺だったら“あ、悪いね~”的な軽いノリでヘラヘラすんだろうけど、今は全くそんな気分じゃねえわ。


「おい、上杉。許可無く俺のモンに触んな」


 一瞬、目を見開いて驚いたような顔をする上杉。


「申し訳ございません」


 上杉から七瀬を受け取って抱き抱える。パッと見、顔を打ち付けた痕跡が無いってことは……地面にぶつかる前に上杉がフォローに入ったってことか。


 ・・・ああ、何だろうな。それすらも気に入らねぇわ……ダル。それにしても、かなり状態が悪いな。


「上杉、こいつは俺が病院へ連れていく。後は頼んだぞ」

「承知いたしました。霧島さんには連絡済みです。会場の外で待機されていますので、そちらで病院へ向かってください」

「相変わらず仕事が早いね~。サンキュー」

「いえ」


 足早に会場の外へ出ると、霧島が車から降りて後部座のドアを開けた。


「柊弥様」


 俺に抱えられてぐったりしている七瀬を見た霧島は、眉間にシワを寄せて顔をしかめた。


「霧島、急げ」

「承知いたしました」


 病院の裏口に着くと、数人のスタッフが待機している。


「九条様っ」

「挨拶とかどーでもいい、さっさとどうにかしろ。万が一、こいつに何かあったら……分かってるよな?」

「ひぃっ、は、はい!!」


 七瀬を担架に寝かせると、ビクビクしながら七瀬を運んでいった。


「柊弥様、あのような言い方は如何なものかと」

「あ? なにお前。俺に説教するつもりー?」

「この病院、ここの医師は優秀です。もちろんスタッフも。九条家はっ」

「あー、ハイハイ。分かった分かった。“九条家はここに世話になってる、融通が利く~”とか言いてぇんだろ? んなこと分かってるっつーの」


 すると、“やれやれ”と言いたげな顔をして煙草に火をつけた霧島。


「だったら脅すような言い方はお辞めください」

「ったく、九条家の飼い犬とはまさにお前のことだな」

「それ、お前を育てたと言っても過言ではない俺に言っちゃう? クソガキが」


 はい、これがこいつ、霧島の本性ね。


「育てられた覚えもねえっつーの」


 ── 霧島はいつだって俺の側にいた。


 昔、かなりのヤンチャをしていたらしく、その界隈ではそこそこ有名だったとかで、調子に乗った霧島のピンチを救ったのがジジイだったらしい。ま、詳しくは知らんけど。その恩的もんで俺の世話係をしてるってことだわな。


「なぁ、柊弥」

「あ?」

「七瀬ちゃん、いいんじゃねーの?」

「は? なに言ってんの? お前」

「柊弥のことを心底嫌がってるあの感じ、ゴミを見るような目……今までの子とは全然違うじゃん。家柄とかルックスとかにマジで興味無さそうだし。悪い子じゃないっぽくね?」



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