表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/150

体力テスト⑤

「あたしがこの子に怪我をさせてしまったんです。だから、責任を持ってあたしがこの子をゴールさせます」

「君は何を言っているっ」

「別に問題ないですよね? だって、ルールとか無いみたいですし、""何でもアリ""なんでしょ? この子が自分の足で走ろうが、あたしの足を使おうが問題ないと思いますけど」


 あたしは上杉先輩を見上げて、一切目を逸らすことなく見つめ続けた。


「……つくづく馬鹿ですね、君は。後悔してもしりませんよ? どうぞ、勝手にしてください」


 眼鏡をカチッと上げて去っていく上杉先輩。すると、キャーキャー歓声が上がり、何事? と思ってそっちのほうを見てみると、こっちへ向かってくる蓮様がいた。


「舞ちゃん、これは一体どういうことかな? 誰に何をされたの?」


 真剣な表情をしてあたしを見ている蓮様。


「いえ、あたしがこの子に怪我を負わせてしまったので責任を取るだけです」

「無謀すぎだよ。この持久走はこのトラックを10キロ走り続けるんだ。合計10㎏の重りを手足につけて……だ」


 ・・・わおっ、マジっすか。


「そ、そんな……舞ちゃん、やっぱ無理っ」

「問題ありません。あたし、気合いと根性だけが取り柄なんで。体力にも自信があります」

「舞ちゃん……君の計測を全部見てた。男女別ランキングでは間違えなく断トツ1位だよ。男子込みでも上位に食い込むレベルで君の運動神経・身体能力は高いと言える。そして、持久走はこの試験で一番重要視される種目っ」

「要は今までの結果が良くても、この持久走の結果次第で全てがパーになるってことですか?」

「そういうこと」

「……なるほど。だったら都合がいいですね」

「なに?」

「これで走りきったら、ほぼ確で不合格なんてありえないし、“結果で黙らせる”を実行できそうですし、学力のほうも少しは免除してもらえます……よね?」


 ニヒッとあたしが笑うと、一瞬目を見開いて困ったような顔をしながら苦笑いをする蓮様。


「舞ちゃん……君には敵わないよ。決して無理はしないでね」


 そう言いながら優しく微笑み、あたしの頭を撫でた蓮様に周りが悲鳴を上げたのは言うまでもない。ていうか、蓮様って妙にあたしに優しいっていうか、なんと言うか……なんでだろう。


「40分以内に10キロを走りきってください。では、開始」


 ・・・・40分以内ぃぃ!?


「舞ちゃん、やっぱりっ」

「胡桃ちゃん。一緒に頑張ろうね」

「……っ、ごめんね……っ、ありがとう」


 胡桃ちゃんがあたしの背中で泣いてるのが伝わってきた。もう見返したいだの何だのとか、ぶっちゃけどうでもいい。


 あの痺れ薬を盛った連中みたいなのが、今まで胡桃ちゃん達を邪魔してきたんだと思う。胡桃ちゃんも純君も、色んな障害があってそれを乗り越えてきたんだと思う。胡桃ちゃんを応援してあげたい。あたしは、この2人の為に頑張りたい。


 どんだけ遠くても、送迎してくれる人もいなければ、車だって無い。いつだって、どこへ行くにも己の足で歩いて、走って生きてきた。


 こんにゃろうが、貧乏人ナメんじゃねえーー!! と気合いを入れたものの、1キロあたり4分以内で走らなきゃマズいよね。走りながら既に『キツい』の言葉しか出てこない。タイマーは常に見える位置にある。これも良いんだか悪いんだか分かんないな。しかも、こういう時に限ってめちゃくちゃ天気いいし、日差しも強くて暑い。体力の消耗が激しいなこれ。


 胡桃ちゃんはあたしを気遣ってか、何も言わずにいてくれている。正直ありがたい。喋ってる余裕なんて一切ないし、集中力が切れるとヤバい予感しかしない。一気に全てが崩れそう。


「ハァッハァッハァッ……っ」

「そんな惨めな姿を九条様に見られるなんて、なんて可哀想なのかしら」

「他人のために頑張ってる自分に酔いしれて、気分はどう?」

「それとも善人アピールでもして気を引くつもり? 貧乏人って小賢しいわね」


 あー、うるさ。マジでどうでもいいから絡んでこないでほしいわ。勝手に言ってろって感じ。


「純様に纏わり付く女狐さぁん? 次のターゲットは九条様ですかぁ? ほ~んと怖い女。大して可愛くもないくせに純様も見る目がないわ」

「胡桃って名前からして男好きそうだもの。お金を持っている男になら誰にだって股を開くってもっぱらの噂よ?」

「その女狐、九条様狙いよ? きっとこれを口実に九条様に近づいて、喜んで股を開くわ」


 は? なに言ってんの? こいつらは──。


「ははっ。あたしからしてみれば、あなた達のほうが誰にでも股を開きそうに見えますけど? 性格の悪さが顔に滲み出て勿体ないわ。せっかく綺麗にっ!?」


 あたしの隣を走っていた女が血相を変えてあたしの胸ぐらを掴んできた。


「このクソアマがっ!!」


 バシンッ!! 脳が揺れるほどの威力で思いっきり平手打ちを食らったあたし。さすがにこれはクるわ。


「あなた、何をしているの?」


 この声は、前田先輩。


「この女が私達を侮辱っ」

「45番、直ちに出ていきなさい……失格です」

「そ、そんなっ!!」

「異論は認めません」

「なによっ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ