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体力テスト②

「……っ、あ、あのっ」


 声が震えるわ、顔がアツいわ、もう最っ悪です。


「なに、緊張してんの?」

「ちがっ」

「お前、それは反則だわ」

「え?」

「他の男にそんな顔すんじゃねぇぞ」

「え? それはどういうぅうんぐっ……!?」


 ベッドからコロンッと落とされたあたしは、床にベチャッと張りついた。何事もなかったかのように立ち上がって、大きなあくびをしてる九条。


 あのさ、女子を足で蹴ってベッドから落とすとかありえなくない?


「ああ、ねえ~むっ。あ、お前これから毎日俺を起こしに来い」

「は、はあぁ!? 自分で起きなさいよ!」


 立ち上がって身なりを整えながらイライラするあたし。


「お前に起こされると、すこぶる気分がいいんだよ」

「え?」


 九条を見ると、悪魔のような笑みを浮かべていた。これは間違えなく腹が立つようなことを言ってくるに違いない。


「ド庶民から起こされると気分がいいって言ってんの~。優越感に浸れるからね~、最高の朝ってやつ~?」


 ・・・ほらね? 余計なことしか言わないでしょ? 性格悪っ。


「ま、これが最後だと思いますけどねー」


 そう言って、あたしは九条に背を向けて歩き始めた。


「あ? それ、どういう意味だよ」


 振り向くと、機嫌の悪そうな顔をしてる九条が腕を組んであたしを見ている。


「知ってるでしょ? サーバントの体力テスト」

「ああ、今日だな。それがなんだよ」

「不甲斐ない結果しか出せなかったら、あたしは天馬にいられないでしょ? だからっ」

「あ? なんっだそれ。はっ、くだらねえ。つーか努力しろよ、根性ねぇな」

「……は?」

「お前がそんな根性なしだとは思わなかったわ。期待ハズレもいいとこ」


 冷めた目であたしを見下すように見て、スーッとどこかに消えていった九条。


 てかなんなの、あいつ。こちとら我慢・気合い・根性だけが取り柄でやらせてもらってるんですけど? 『根性なし』『期待ハズレ』……? はぁあん!? 何様よ! ふざけんなぁぁ! 仮にもあなたの“サーバント”なんですけど!? 励ましの言葉とかないわけ!? それを根性なしだの期待ハズレだの言われたら、こっちだってヤル気失せるっつーの!


「なによあれ、馬鹿馬鹿しい」


 あたしは九条の部屋から出て玄関へ向かった。外に出ると車にもたれながら煙草を吸ってる霧島さんと目が合う。


「あれ、柊弥様はっ」

「知りません。さようなら」

「ちょちょちょっ!」


 煙草を片手に慌てながらあたしを引き止めた霧島さん。


「ちょ、待って七瀬ちゃん! 何があったの!? 柊弥に何かされた? つーか、逃げるのだけはマジで勘弁してくんない!?」

「……」


 ・・・いつものクール執事のようなキャラはどこへやら、めちゃくちゃ焦ってる様子の霧島さん。すると、“しまったぁぁ”と言いたげな顔をして苦笑いしてる。なんだろう、もう男という生き物が本格的に嫌になってきたかもしんないわ。


「素はこっちなんですね」

「……いや、あの、すみません」

「まあ、いいんじゃないですか? そもそも年下であるあたしなんかに敬語を使う必要なんてありませんので」

「いえ、そういうわけには……。あの、柊弥様と何かありましたか?」

「いえ」


 “勘弁してくれよ、めんどくせーから”的な顔を隠しきれていない霧島さん。それほど九条が面倒くさいってことだろうね。でも、そんなこと知ったこっちゃない。


「七瀬様、どうかこの場に留まってはくれませんか?」

「ごめんなさい」


 霧島さんの目を見て謝ると、掴まれていた腕が解放された。


 ── あたしはとにかく走った。何に対してこんなにもイライラしているのか、何に対してこんなにも虚しい気持ちになっているのかが分からない。九条に“頑張れよ”って言われたかったから? 励ましてほしかったから?


 あたしは九条に、どんな言葉を求めていたの? いや、違う。あたしはきっと、九条に信じてほしかっただけのかもしれない。“お前なら余裕でいけるっしょ”……そう思ってほしかったと、心の片隅で思っていたのかもしれない。


「はぁぁ、本当に馬鹿馬鹿しいわ」


 それから走ったり、歩いたりを繰り返して、時間ギリギリセーフで天馬学園に到着したあたし。溜まり場へ行くとあたし以外の人は集まっていた、もちろん九条もね。


「あなた、柊弥を馬鹿にしているのかしら。サーバントがマスターより遅れてくるなんて、本当信じらんないわ。ま、今日であなたとはお別れだと思うけど。教養も何もかも無いあなたが生き残るには、体力テストでズバ抜けた運動能力や才能を見せるしかないもの。無理でしょ? あなたには」


 チラッと九条を見ると、そっぽを向いてあたしを見る気配はない。なによあれ、自分からサーバントに誘ったくせに、興味が無くなったら知らん顔ってやつ? ていうか、飽きるの早すぎない? ふざけてんの? あんだけ脅してきたくせに、もうあたしに飽きたって? はは、これだからクズは……嫌い。


「凛、そんな言い方はよさないか。悪いね、舞ちゃん」

「お言葉ですが凛様。我々は毎年恒例のことですし、サーバントには事前に通告があり、この体力テストに向けて体作りをする猶予が与えられています。ですが、七瀬さんはこの試験を昨日把握したばかりです」

「はあ? だから? あなた私に文句でもあるわけ? 蓮のサーバントがこの私にっ」

「凛、前田さんに当たるのはやめろ」


 いつもニコニコしている蓮様からは想像できないほど、冷たい目をしていた。


「……っ! なによ……」


 きっと前田先輩はあたしのフォローをしてくれたんだと思う。本当に優しい先輩だ。それが気に入らない凛様が前田先輩に噛み付こうとしたけど、蓮様がすかさず前田先輩を守った。やっぱ蓮様、前田先輩ペアはいい関係性だなぁ。


 相変わらず上杉先輩はタブレットをかまって、あたしのことは完全スルー。


「七瀬さん、会場へ案内します」

「はい」

「僕達も応援に行くから頑張ってね、舞ちゃん」


 結局、最後まで目も合わせなければ何も言わなかった九条に心底嫌気が差した。あたしは笑顔で手を振ってくれている蓮様に頭を下げて、前田先輩と共に部屋を出た──。



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