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幼なじみ③

「大丈夫ですか?」

「ふぇ?」


 パンを口いっぱいに頬張りながら、話しかけてきた前田先輩を見た。


「私が黙らせましょうか?」

「ああ、あたし気にしてないんで大丈夫です。何かと言われ慣れてはいるんで。そんなことよりも、より多く食べたいから急がないと!」

「ふふっ」

「……え?」


 前田先輩が、あのキリッとした前田先輩が……めちゃくちゃ可愛い顔をして笑っているだとぉぉ!?


「本当に面白いですね、七瀬さんは。九条様があなたを選んだのが分かる気がします」

「え、ああ……そうですか」


 そして、あたしは人目も気にせず食べまくって、午後の授業は魂と意識がほぼ飛びかけて終わった──。


「七瀬さん、こちらへ」

「……あ、はい」


 上杉先輩に連行され、用意されていたエプロンとなぜか三角巾を頭に付けるはめになり、掃除用具を両手に廊下をトボトボ歩いた。クスクス笑われるし盗撮されるし、最悪。


「あら、とってもお似合いね」

「九条様のサーバントなんて辞めて、清掃のアルバイトでもしたらどうかしら?」

「フフッ、あらごめんなさぁい。溢しちゃったわ、綺麗にしといてくださる?」


 性根の腐りきった笑みを浮かべながら、コーヒーを床にべちゃべちゃと溢すお嬢様。それを見てクスクスと笑う周り、お嬢様方のサーバントは……ああ、そうですか、見て見ぬふりですか。


「これ、捨てといてちょうだいね~」


 コーヒーが入っていた容器をあたしに向かって投げ捨て、勝ち誇ったような顔をしながら去っていく。


 ・・・なんっだあれ、こんなんであたしが泣くとでも?


 あたしは仕方なくコーヒーを拭き取ってゴミを捨てた。それから無心でトイレ掃除をして、トイレの多さに絶望しかけながらもなんとか頑張った。


「……よし、ここがラスト!」


 ここが終われば今日の業務は終了……よく頑張っ……バッシャンッッ!! え? 頭上から水が降ってきた……というより、水が勢いよく落ちてきたという表現のほうが合っているかもしれない。全身びしょ濡れになるあたし。


「はぁぁ、なんっだこれ……」


 自分が濡れたことより、びしょ濡れになった床や便器の掃除をすることのほうが遥かに辛い。あぁもぉー、面倒くさいなぁ。掃除をする気力がなくなり、ただ呆然と突っ立っていることしかできない。


 すると、人の気配が近付いてきて──。


「お~い、まだ終わんねえの? ……って、どんだけ床濡らしながら掃除してん……だ……よ」


 トイレのドアを開けられ、ずぶ濡れのあたしとご対面。


「なにしてんの? お前」

「掃除ですけど」

「……誰にやられたか分かるか?」


 九条の声のトーンと表情からして、おそらく怒ってる。何に対しての怒りなのか、あたしにはよく分かんないけど。


「まあ、聞くまでもねぇか。ほぼ確でさっきすれ違った奴だろうし」


 酷く冷たい目をしている九条。これは、ヤバいパターンなのでは? きっと犯人を取っ捕まえて社会的に抹殺しかねない。それはさすがにやりすぎだし、犯人は多分マスターに逆らえなかったサーバントだろうし。


「あの、あたしは別に気にしてないし、全然大丈夫っ」

「あ? それのどこが大丈夫なわけ?」

「ただ濡れただけじゃん? ははっ」

「お前、これからもそうやって我慢するわけ?」

「……っ」


 言葉が喉の奥につっかえて、上手く出てこなかった。だってあの九条が一瞬……ほんの一瞬だけ、悲しそな、辛そうな、傷付いたような、そんな表情をしたから。


「柊弥~。なんか怪しいのいたから捕まえてみたけど、どうする?」


 この声は、蓮様。


「あらら、やっぱり大変なことになっていたようだね」


 ずぶ濡れのあたしを見て、困ったような顔をして苦笑いをしている蓮様。


「全くだな」


 そう言うと、あたしにフワッと上着を被せた九条がガクガク震えている男の胸ぐらをいきなり掴んだ。


「ちょっ、九条!!」

「……テメェ、誰のモンに手ぇ出したか分かってんのか?」

「ひぃっ!! す、す、すみません!!」

「覚悟はできてんだろうな」

「まぁまぁ柊弥、落ち着きなよ。で? 誰の指示かな?」


 九条と蓮様にガン詰めされて、真っ青な顔をしながら全身を震わせている男。


「……っ、ぼっ、僕のっ……僕の独断です。だ、誰の指示でもありません! マスターは一切関係ない!」

「蓮、上杉呼べ」

「了解」


 ・・・ちょっと、待って、待って、待って!


「ちょっと待ったぁぁ!!」


 そう叫んだあたしに驚いた顔をしてる3人。


「マスターの指示か、そうじゃないか、とかぶっちゃけどうでもいいし、この人の独断かそうじゃないかとかそんなのも知らない。でも、仮に指示だったとして……やっぱサーバントは逆らえない立場にあるとは思う。だから、あたしに対して申し訳ないって思ってくれてるんなら、あたしの代わりに1週間トイレ掃除して」

「「「……は?」」」


 拍子抜けした顔で見事に声を揃える3人。


「あたしのペナルティをこの人に負わせる、それでチャラでよくない? どう……ですか?」


 あたしと九条は見つめ合って、先に目を逸らしたのは九条のだった。


「なんっだそれ。ゲロりそうなくらい甘ぇな」

「本当にそれだけでいいの? 舞ちゃん」

「はい。あ……でも、上杉先輩が承諾してくれますかね?」

「くくっ。いいよ、僕が話を通しといてあげるから」

「ありがとうございます、蓮様」

「いえいえ。じゃ、僕は上杉さんの所へ行くよ」


 蓮様が男を連行していった。去り際に男が『ありがとう』と小声で言ったけど、それすらも気に入らない様子の九条。機嫌が悪いのなんのって……。無言で腕を引っ張られて、そのままシャワールームに突っ込まれた。シャワーを浴び終わる頃にコンコンッとドアをノックする音が聞こえる。


「はーーい」

「七瀬さん、着替え置いておきますね」

「あ、前田先輩。すみません、ありがとうございます」

「いえ」


 ・・・いや、あの、これは、マジで気持ち悪い。


 新品の下着が置いてあったのはいいけど、恐ろしいくらいあたしの体にフィットする。間違えなく九条だろうな、このサイズの下着用意させたの。下着と共に置いてあった制服も……ジャストフィット。

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