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サーバント②

 九条の声のトーンが低くなって、眼鏡君……いや、眼鏡先輩の顔色が少し変わった。おそらく眼鏡先輩も九条には頭が上がらないのかもしれない。年下の九条にヘコヘコしなきゃいけないのも大変だろうなぁ……と少し哀れに思えてきた。


「申し訳ございません。ですが九条様、サーバントへのペナルティに関しては私に権限がありますので、それに関して口を出されては困ります」


 ・・・わぁーお。眼鏡先輩、結構強気だなぁ。


「あーうん。それに関してあれこれ言うつもりはないよ~。お好きにやってちょ。ま、分かってるとは思うけど、俺が認める範囲外のペナルティをこいつに科すってんなら──」

「重々承知しております」

「そ? なら問題ないっしょ」

「では、私は戻りますので。失礼いたします」


 しっかり頭を下げて、眼鏡をカチッと上げて去っていく眼鏡先輩。


「……七瀬、もしかして泣いてる~?」


 嬉しそうに、楽しそうにあたしの顔を覗き込んできた九条。


「は? 1ミリも泣いてないですけど」

「ちぇ~。つまんねえの~。で? ペナルティは?」

「校舎内すべてのトイレ清掃」

「くくっ、ウケるね~。ま、せいぜい頑張れよ」


 まあ、そうなりますよねー。


「……ていうかさ! ペナルティがあるなんて聞いてないんですけど!」

「あ? だから言ったじゃん。その呼び方で後悔すんなよ~って」


 記憶を遡ってみた……たしかに、確かに言われたわ。


「だっ、だったらそうやって言ってくれればじゃん!」

「ははっ。なぁんか面白そうだな~って思って」

「信じらんないっ! ありえないわ、ほんっと!」


 あたしはプンスカ怒りながら、九条を放置して歩き始めた。


「まぁまぁそんなに怒んなって~。トイレ掃除してるところ、特別に俺が見ててやるからさぁ」

「なにそれ、鬱陶しいだけじゃん。やめて」

「お前が怒れば怒るほど可笑しくて笑けてくるわ~」


 スラックスのポケットに手を突っ込んで、あたしの隣を笑いながら歩く九条にぶっちゃけ殺意が沸いてくるわ。


「あの、隣を歩くのはやめてくれます?」

「はあ? つーかさ、本来サーバントはマスターの一歩後ろを歩くもんなの。お分かり~?」

「……ああ、そうですかー。そりゃ失敬失敬」


 あたしはすかさず三歩後ろへ下がった。


「はぁぁ。お前さぁ……どんだけひねくれてんだよ」

「九条""様""に言われたくはありません」

「ふーん。そういう態度ですかぁ」


 なにやら嫌な予感がしてならない。


「な、なによ……」

「マスターであるこの俺にもサーバントにペナルティを科すことができるってこと……この意味が分かるか?」


 ニヤッと不気味な笑みを浮かべている九条。ゴクリと生唾を飲み込むあたし。


「トイレ掃除……なーんて生半可なもんじゃねぇぞ? 俺のペナルティはなぁ」


 こいつ、絶対にエッチなことするに決まってる! 『お前の体でたっぷり奉仕してもらわねえとなぁ?』とか言いかねない! 変態俺様御曹司め!


 あたしはスッと九条の一歩後ろに移動した。すると、ポンッと九条に背中を押されて一歩前へ──。


「いい」

「え?」

「お前は俺の隣を歩けばいい」

「いや、サーバントとは一歩後ろを歩くもんなんでしょ? だったらっ」

「いいっつってんじゃん。俺が許可する」


 まあ、もうなんでもいいや。


「はあ……そうですか」


 そして、あたし達は溜まり場へ戻った。ソファーには鬼の形相ガールとニコニコ微笑んでいる男が座っていて、そのソファーの後ろに眼鏡先輩と、キリッとした女子が立っている。


 配置的に眼鏡先輩が鬼の形相ガールのサーバントで、ニコニコボーイのサーバントがキリッと女子……といったところか。


「ふんっ。柊弥が執着してるわりには大した女じゃないわね。一体どんな手を使って取り入ったのかしら?」

「まぁまぁ、落ち着きなよ凛。まずは互いを知る為にも自己紹介をしようじゃないか。な? 柊弥」


 ・・・なんかこの2人、めっちゃ似てない!? 性別が違うだけで、顔立ちがそっくりなんですけど! まあ、雰囲気は全然違うけどね。


「これ、俺のサーバント。七瀬舞」


 指差して『これ』言うな!


「七瀬舞です、よろしくお願いします」

「僕は西園寺蓮。よろしくね、舞ちゃん」

「私は蓮様のサーバント、前田志緒理(まえだしおり)と申します」


 シーンッとする室内。ご機嫌斜めな鬼の形相ガールは、どうやら自己紹介をする気はないらしい。


「こちらの方は西園寺凛様……私のマスターです。私は上杉恭次郎(うえすぎきょうじろう)と申します」

「前田さんと上杉さんは3年生で、僕と凛は舞ちゃんと同い年だよ」

「あ、そう……ですか」

「こんな庶民女に柊弥のサーバントなんて勤まるのかしら?」

「凛、そんな言い方はよさないか。舞ちゃんが可哀想だろう? 悪いね、舞ちゃん」

「いえ、別に」


 妙に優しくしてくれる蓮君……いや、蓮様のほうがいいのかな?


「フンッ!」


 プイッとそっぽを向いた凛様。言うまでもなくあたしは嫌われている。アウェイ感ハンパないんですけどぉぉ……。


「そろそろ教室へ行こうか。柊弥、ちょっといいかな?」

「あ? なに?」

「前田さん、舞ちゃんを連れて先に行っててくれるかな?」

「承知いたしました。では、参りましょう」

「え、あ、はい」


 笑顔で手を振る蓮様と、面倒くさそうな表情をしている九条。凛様はぷんすかぷんすかしながら眼鏡先輩……いや、上杉先輩を引き連れて部屋を出ていった。


 ・・・無言で前田先輩の少し後ろを歩くあたし。ぶっちゃけ気まずいんですけど、どうすれば?


「……あ、あのぉ……」

「なんでしょうか」

「あたしって、そのぉ、嫌われてます?」

「そうですね」


 めっちゃはっきり言うじゃん。少しはオブラートに包もうとか思わないのかな!?


「ですが、七瀬さんのせいではありません。九条様のサーバント……というだけ忌み嫌われてしまうので、あまり気にしないことをお奨めします」

「はあ、そうですか」

「些か疑問なのですが、一体どのような手を使ってあの九条様のサーバントに?」

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