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天下の天馬学園③

 ・・・九条の背中、大きくてがっしりしてたな……なんてそんなことを思いながら九条の背中に触れた両手のひらをジーッと眺めるあたし。パッと見はスラッとしてて細く見えるのに、なんか筋肉質っぽかった……って、いやいや。そんなことはどうでもいい!


 バタバタしながら慌てて制服を着た。


「……」


 全身鏡を見るあたしの顔は無の境地だった。恐ろしいくらいあたしの体にフィットするんだけどこの制服……。鞄には既に必要な物が詰め込められてたから、その鞄を持って部屋を出た。


「柊弥君、車で待ってるって~」

「あーうん。いってきまーす」

「いってらっしゃ~い」


 お母さんに手を振り外へ出ると……もちろん家の前には高級車が停っている。ウィーンッと後部座席の窓が開いて、“さっさと乗れ”と言わんばかりの顔をしてる九条。あたしは車に乗り込み、運転手さんに挨拶をして窓の外を眺めていた。


「ねぇ、九条。聞きたいことあるんだけど」

「あ? なに?」


 眠いのかあくびをしながらチラッとあたしを見てきた九条。あたしは九条の目をジッと見つめた。


「……な、なんだよ」

「この制服、気持ち悪いくらいあたしにフィットするんだけど、なんで?」

「あ? ああ、そりゃお前用に作ったからに決まってんじゃん」

「あたし制服の採寸なんてした覚えないんですけど?」

「だろうね。してないもん」


 だったらなんでこんなにもフィットするんでしょうか?


「だったらなんでっ」

「はあ? んなもん見りゃ分かんでしょ~」

「……はい?」

「だぁから、女のスリーサイズなんて見りゃ分かんでしょ」


 ・・・こいつ、本っ当に最っ低!!


「はは。クズっぽい特技をお持ちなんですねー」

「お前とは違って経験が段違いだからね~。あ、ちなみに俺はもうちょい胸があるほうがタイプ~」


 ヘラヘラ笑ってる九条を殴ってやろうと心に決め、握り拳に力を入れた瞬間──。


「七瀬様、柊弥様に危害を加えるようなことはなきよう、くれぐれもお気をつけください」


 ルームミラー越しに運転手さんと目が合った。“お願いだから坊っちゃんの機嫌を損ねるようなことはしないでくれ”と言わんばかりの顔をして、あたしに訴えてくる。


「……スミマセン」


 ニコッと微笑み、運転に集中する運転手さん。


「え? なに? 俺、なんか気に障るようなこと言った? 言ってないよね~?」

「……あはは、言ってませんねー」

「だよね~」


 気に障るようなこと""しか""言ってこないけどね、あなたは。はぁーあ、朝から本当に疲れるわ。


「なにお前、緊張でもしてんの?」

「いや、別に」


 それから九条のお喋りに、適当に相づちを打って車に揺られていた。今のところ緊張とかはしてないんだよねえ。だって、天馬学園がどんな所かも知らないし分からないし、そういうのって逆に現実味なくて緊張しない。まあ、いくらお金持ち学校とはいえ、そんなべらぼうに規格外というわけでは……ない……は……ず……。


「到着しました」

「……えっと、どこ? ここ」

「あ? なぁに言ってんだよ。天馬学園に決まってんだろ?」

「て……んま……がくえん……」


 ここが、“天下の天馬学園”。


 なんて伝えればこの凄さが伝わるのか分かんないけど、普通にひとつの“町”がある……的な? とにかく広くて、建物もたくさんあるし、道路もあって車の行き来もある。お金持ちとか天才ってこの世の中にこんなにもいるの? ってくらい人も多いし、リアルに“街”っぽい。もう開いた口が塞がんないわ。


「くくっ。すんげえ間抜け面~」

「なにここ、本当に学校?」

「うん」

「人も思った以上に多いし」


 制服を着ている人や着ていない人までたくさんいる。


「ああ、ブランドショップからコンビニから何から何まで基本的に揃ってるからね~。学生以外にもショップ店員とか、学生の身内なら天馬の敷地内に入って買い物したりできるようになってるから、うろちょろしてんのが多くて賑わしく見えんじゃね? ま、俺は滅多にここで買い物することはないけど~」

「……はあ、そうですかあ……」


 あたしは窓越しにキョロキョロしながら、既にものすんごいアウェイ感に押し潰されそうになっている。


 キュッと緩やかにブレーキをかけ停車した場所は、外観からしてレベルの違う高級感が眩しいほどに溢れ出す校舎らしき建物。無駄にキラキラしてて、眼球が痛くなるほどだった。


 まさか、こんな校舎に毎日通うわけ……!?


「では、いってらっしゃませ。柊弥様、七瀬様」


 運転手さんが後部座席のドアを開けて、頭を打たないよう手でカードしてる。それを当然のごとく受け入れ、車内から出ていく九条。


「おーい、行くぞ~」

「……え、あ、う、うん」


 運転手さんにお礼を言って、少し先を歩く九条のもとへ急いだ。


「ごきげんよう。柊弥様」

「今日も素敵ですわ」


 などなど、お嬢様方に挨拶されてるけど、特に言葉を発することなく、胡散臭い笑みを振り撒いているだけ。それ""だけ""なのに、お嬢様方はキャッキャして嬉しそうにしていた。そして、そのお嬢様方はあたしを見るなり鋭い眼光で睨み付けてきて、その瞳の奥が物凄く冷たいものだった。


 あー、なるほど。こういうパターンね。だるぅぅ……とか思ったけど、お嬢様方があたしの首元を見て少しだけ雰囲気が変わった。九条はそそくさ先へ行っちゃうおうとするから、一応お嬢様方にペコッと頭を下げる。


 去り際に『サーバントの分際で調子に乗らないことね』と九条に聞こえないように囁き、去っていくお嬢様軍団。せっかく綺麗で可愛い顔してるのに、なーんか勿体ないな。ひとつひとつの動作は華麗な感じなのに。


「ちんたら歩くな」

「自分の歩幅考えたことある?」

「……プッ。脚短いってのは苦労すんね~」

「別に苦労したこともなければ、そもそも短くはないんですけど」

「見栄張んなよ~、見苦しいし。虚しいだけじゃん」


 “事実を述べたまでだけど何か? ”みたいな顔をして、悪びれる様子もない。ほんっと、デリカシーの欠片もないような奴。そんなデリカシー皆無男についてって、周りからはジロジロとコソコソと見られて視線が痛いのなんのって。


 そして、連れて来られたのは──。


『な、なんじゃこりやぁぁーー!!』と心中でめちゃくちゃ叫んだ。


「ここ、俺らが自由に使ってる溜まり場」


 た、溜まり場……ですか。こんなハイレベルなお部屋が溜まり場って、どんな世界線なんだろうか。


「……は、はあ」


 ていうか、俺""ら""……? めちゃくちゃ広い部屋に大きなテレビ、大きなソファー、大きな冷蔵庫にキッチンも完備。トイレやシャワールーム、仮眠部屋などなど……。もはや我が家より遥かに豪華で笑えるし、泣けてくるし、萎えてくるわ。


 ・・・恐ろしい、これが国内最高峰……“天下の天馬学園”。いや、これが九条財閥の御曹司……“九条柊弥の権力”ってやつなの!? 本当にこいつ何者!? 御曹司って生き物は皆こんな感じなの!?


 ぶっちゃけ世の中不公平すぎるでしょ、不平等にも程がある! ……まあ、単なる僻みだけどね。でも、こんなの僻みたくもなるでしょうよ!


「おーい。心ここにあらずっぽいけど大丈夫そう?」

「……ははは。もう帰っていいかな?」

「この俺が逃がすとでも?」


 ニヒッと不敵な笑みを浮かべている九条に背筋がゾゾゾッと凍る。だぁああ、もう……分かったよ。やる、やるよ。やるしかない、やってやんよ!


 ── かかってこい!! 天馬学園!!

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