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二重人格②

「無駄にあたしの家族と関わろうとするのはやめてくださいませ""マスター""」

「ハッ、嫌みったらしく言うのやめてくんなぁい? つーか、二重人格じゃないし~。俺はTPO……時と場合、要は使い分けてるってだけ。ド庶民のお前とは格がちげぇの」

「はあ? ただの猫かぶりじゃん」

「ははっ。何とでも言えよ~、ド庶民のお前には分かんないだろうし~」

「ああ、そうですか、分かりたくもありませんね」


 ・・・なーんかモヤモヤすると思ったらやっぱりおかしい、おかしいよね? 初めて九条と会った時、なんで猫かぶってなかったんだろう。猫かぶっとけば、あたしも騙されてたかもしれないのにさ。そっちのほうが手っ取り早いじゃん? なのに、なんで? 意外と頭回らないタイプ……なわけないと思うけど。


「ねえ。なんであたしに会いに来た時、素で来たわけ? お得意の猫かぶりすればよかったじゃん。あたしも初見であれなら騙されてたかもよー」


 チラッと九条を見ると、プイッと顔を逸らされた。


「……別に~」


 特に深い意味も無さそうだったから、これ以上ツッコむのはやめた。面倒くさいし、無駄に絡みたくもないしね。


 ── 某スーパーにて


「アレルギーとかある?」

「いや? 特にねぇけど」

「嫌いな食べ物とかは?」

「う~ん、特にないかなぁ」

「了解」


 はぁー、なんでこんなことになっちゃったかなぁ。何が嬉しくて九条とスーパーで買い物してるんだろう。忙しなくスマホをいじってたくせに急に何を思ったのか、あたしからカートを奪って押し始めた。


「""マスター""にそんなことをさせるわけにはいきませんので、そのカート返してくれますー?」

「その""マスター""って嫌みったらしく言うのやめてくんね~?」


 ただでさえ目立つ男がカートなんて押してるもんだから、かなーり注目の的になってる。


「ねぇ、見て見て! めっちゃイケメン!」

「イケメンがカート押してるとか萌える~」

「てかどっかで見たことあるような……?」


 ザワザワし始めた店内。


 ・・・もしやこいつ……コレが狙い!? 周りにちやほやされたいだけのパフォーマンス!? あぁ、ないわ。本っ当にないわー。あたしは無になりながら九条の隣を歩いた。


「なあ、これとかいいんじゃね? やっすいし」


 九条が指を指した先に置いてあったのは約1万もする牛肉だった。しかも、そんなに量が入ってない系のやつ。


「あのさ、あなたの金銭感覚とこちらの金銭感覚は天と地ほどの差があるの。これは""めっちゃ高い""です」

「ふ~ん、貧乏人って大変なんだな~」


 全く悪気の無さそうな顔をしてる九条に何か言い返す気も失せた、というより仕方ないかって感じだった。まぁ、金銭感覚が合わないのは当たり前で生まれ育った環境が違いすぎるからね。九条の普通はあたしにとって異常で、あたしの普通は九条にとって異常ってこと。


「安い材料でどれだけ美味しい物を作れるか……そこがポイントなの」

「へぇ~。いかにも貧乏人の発想って感じだな」


 うん、これもまた悪気の全く無さそうな顔してるわ。


「あの、お願いだから家族の前でその何食わぬ顔をしながら失言するのだけは勘弁してね」

「俺って嘘つくの苦手なんだよね~。思ったことがポロッと口に出ちゃうタイプ的な~?」

「でしょうね」

「いや、お前も大概俺と変わらんっしょ」

「は? 一緒にしないで」


 そんな言い合いをしながら、周りの視線が痛いほど突き刺さりつつレジへ向かった。


「3590円になります」


 うわぁ……やっぱそうなるよね~。かなりの出費だなぁ、そう思いながら財布を取り出した時だった。


「これで」

「クレジットカードですね~。こちらに差し込んでくだ~い」

「ちょっ……!!」


 あたしが止める間も無く、九条がクレジットカードで支払いを済ませてしまった。そして固まるあたし。


「お~い、チンタラすんな。さっさと来い」


 少し先でダルそうにあたしを見てる九条のもとへ小走りで向かう。


「これ」

「あ?」

「だから、これ!」


 あたしは九条に4000円を差し出したんだけど、それをチラッと見てスタスタ歩いていってしまう九条。


「あの、受け取ってほしいんだけど」

「いらん」


 それってあたしが貧乏だから?


 可哀想だから奢ってやるよ、そんくらい……ってやつ? 見下してる? バカにしてる? 哀れんでる? そんな同情必要ない、本当にそういう気遣いみたいなのいらないんだけど。


「惨め扱いしないで」

「はあ?」


『なに言ってんの?』みたいな顔をしてあたしを見てる九条にモヤモヤする。


「あんたに奢られる筋合いはないって言ってるの」

「勘違いすんなよ。俺は自分の飯代を払ったまでだ」

「飯代って……4000円もする料理なんて出せないんですけど」

「その価値があるかないかを決めるのは俺な?」


 それって遠回しに“お前の作る料理にはその価値がある”……そう言ってるのと変わらなくなるけど、それでいいわけ?


 ・・・なんだろう……少しだけ、ほんの少しだけ嬉しかったりもする。自分の単純さに嫌気が差すわ。


「そんなこと言われたら、適当に作るわけにはいかないね」

「フッ。んなこたぁ当たり前でしょ」


 ── そして、買い物から戻ってくると既に全員が集結していた。


「あらっ、ものすんっごくイケメンじゃない!」


 ここぞとばかりに九条を褒めてハイテンションなお母さん。


「おお、どんな手を使ったのやら」


 拍手しながらしれっと失礼なことを言う律。


「フンッ。どーも胡散臭ぇな」


 意外や意外、感の鋭い慶。


「おかえり~」


 ニコニコして可愛い煌。


「まぁまぁ、適当に楽にしててくれよ。あ、俺と1杯どうだ?」


 未成年に何食わぬ顔でお酒を勧めるお父さん。

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