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契約① 九条視点

 


 俺が『天馬に来い』そう言った瞬間から微動だにしなくなった七瀬。ま、いくらなんでも“天馬学園”くらいは知ってんだろ。てか、知ってるからこの反応してんのか。


「おーい、聞いてんの~?」


 今にも口から魂が抜けそうになってるアホヅラの七瀬に一応声をかけてみたものの、もはや俺の声も存在もスルーされる始末。ほんっとこの女面白いわ、なんなんだよマジで。


 んで、抜けかけていた魂が戻って正気を取り戻したっぽい七瀬。


「あの……本当にごめんなさい。もう許してください」


 すべての感情を捨てました的な顔をしながら、俺に頭を下げている。おそらく感情を捨てないと、俺に頭を下げるって行為ができなかったんだろうな、癪に障って。分かりやすい女でなりより。ま、裏表がほとんど無さそうだし、こういう女ほど扱いやすいんだよなぁ……本来なら。


「謝ったって意味ないよ~? お前にするってもう決めたし」


 すると、ものすんごく嫌そうな顔をしながら頭を上げて、心底嫌いなものを見るような目で俺を見る七瀬。俺にこんな眼差しを向けてくんのは間違えなくこいつ以外はいない、そう断言できる。


 だいたい俺に靡かない女なんて今までいなかった、ただこいつ……七瀬舞を除いてはな。おかしい、きっとどうかしてんだよ、そうに違いない。貧乏すぎて目も何もかもが貧相になってんだろうな、そのせいだろ。可哀想にな、なーんて思ってもねぇけど。


 この俺様がこんなぞんざいに扱われるなんて、ありえないっしょマジで。


「確かに、たしかに約束はした……したよ? でも、さすがに度が過ぎてると思う。それに天馬学園って……あたしみたいなパンピーが行ける場所じゃないじゃん」

「うん、そだねー。到底無理だろうねえ」


 俺がそう言うと、露骨に顔をひきつらせた七瀬。イラッとしたけど我慢してます的な感じだろうな、ほんっと分かりやすっ。大丈夫かよ、こいつ。


「来いって言われて行ける場所じゃないの、分かる?」

「俺が来いって言ってんだけど~?」

「だからさぁ……あたしにはそんなお金も学力も到底無いって言ってんの! 九条ひとりの権限であたしを入学させる、なんてそんなことができるわけないでしょ!? どうやってっ」

「できるけど?」

「……は?」

「だぁから、できるっての」


 すると、サーッと血の気が引いて顔色が悪くなっていく七瀬。本当に分かりやすい女だな、マジでウケるんだけど。


「さ、さすがにこんなパンピーを無条件で入学って、そんなことできるはずがぁ……?」

「俺""は""できちゃうんだなぁ~、それが」


 七瀬は真顔で俺を見て、ゆっくり目を瞑りながら額に手を添えて何やら考えている様子。ま、何をいくら考えたって現実が変わることはないし、この“運命”から逃れることもできないんだけどね。


 俺はやっと手に入れた“最高のおもちゃ”を手離すつもりは毛頭ないし、逃がしはしない。


「九条」

「ん?」

「あたしね、死ぬほど貧乏なの」

「だろうな」

「弟達の為にも働かないといけないの」


『弟達の為にも』……か。それってどうなんかね。自分の人生を犠牲にしてまで弟達の為にってか? 俺にはよう分からん。

 この女、マジでアホじゃね?


「だから、九条の遊びには付き合いきれない」


 俺の目を真っ直ぐ見て、そう言い放った七瀬。


 遊び、遊びねえ……。なんだろうな、七瀬のその一言になぜか無性に腹が立った。らしくもねえ、でも苛つくもんは苛つく。


「つーかさ、弟達が~とか言って自分の人生を棒に振るつもり~? 生き方ヘタクソすぎね? 自分の好きなように生きればっ」

「何も知らないくせに分かったような口利かないで! あんたに何が分かるの? 分かるわけないでしょ!? 何でも与えられて、何でも手に入って、何不自由なく、気儘に生きて来たあんたに!」


 声を荒げて、苦しいと言わんばかりの表情で俺を睨み付ける七瀬。別にそんな顔をさせたかったわけじゃない。うつ向いて、強く握り締めた拳と震えている体。


 こいつは強い……いや、強がりで俺なんかに意地でも弱みを見せたくないタイプなはずだ。きっと、何かが溢れ出さないよう必死にこらえてんだろ。


 女が泣こうが喚こうが、別にどうだってよかったし気に留めたこともねえ。だが、こいつに泣かれるのはなんつーか、気に入らねぇな。


「悪かった」


『悪かった』そう言った自分に驚くと同時に七瀬もかなり驚いてる様子。目を見開いて、未確認生物でも見てるような表情で俺を凝視してる。どうやら涙も引っ込んだようで何より。


「九条、あんた……謝れるんだね、びっくり」

「はぁ、んだよそれ。だるっ」

「……いや、あの、ごめん。あたしも言いすぎた」


 チラッと俺を見て、申し訳なさそうな顔をしてる七瀬。随分と素直だな。


「ま、いいんじゃね? お互い様ってことで~」

「なんか嫌だ」

「あ? なんでだよ」


 目と目が合って、クスッと笑い合う俺達。やっぱこいつ、悪くねぇなって思っちまうんだよなぁ。こーんなガサツそうな女のどこがいいのか、俺にもさっぱり分かんねぇけど。


「九条……あのさ、お願いがある」

「あ?」

「約束は守る、守るけど……やっぱ天馬に行くなんてあたしには無理。あたしはっ」

「金が必要だから働きたいっつーことでしょ?」

「う、うん……。だから、言うことは聞くけど他の案にしてくれない? できることなら何ともするから」


 働きたいだの金だの、そんなことなんの問題もねぇんだけどなー。そんなもん天間に来れば全て解決すんのに。ま、お馬鹿なこいつにも分かりやすく簡潔に説明してやるかぁ。

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