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俺様御曹司は逃がさない  作者: 橘ふみの


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【番外編】ガリ○リ君

九条と七瀬が付き合う前のお話です!



「あっち~」


 さっきから「あっち~」としか言葉を発していない図体も態度もデカいこの男は、あたしのマスターで自称……いや、自他共に認める超絶イケメンで超絶お金持ちの御曹司。


「あっち~」

「あぁもう! 何回も何回もうるさい!」

「あ? あっち~もんはあっち~だろうが」

「そうだけどくどいのよ、よけい暑くなるでしょ」

「はっ、んなわけないっしょ~。なぁに言ってんだかぁ」


 隣でダラダラ歩きながらヘラつく九条に苛立ちが隠しきれない……いや、隠そうともしていないあたしは、虚ろな目で九条を睨みつけた。


「んだよ、その反抗的な目は」

「……はぁー。なんであんたと出会ってしまったのか、人生が狂ったわ」

「あ? 大げさかよ」


 大げさでもなんでもない、紛れもない事実。


 でもまぁ、九条と出会っていなかったら今ごろ、つまらない日々を送っていた……“かも”しれない。


「……ていうか、どこよここ」

「知らね」

「あんたがブチギレて車から降りたんでしょうが!」


 あたしをめぐって霧島さんと些細なこと、というかくだらないことで言い合いして、下車した九条をサーバントであるあたしがほうっておくこともできず、とーってものどかな風景が広がっている土地に置いてきぼり状態。


「まぁべつに大丈夫じゃね~? なんとかなるっしょ」


 なんとまぁ楽観的な。


「はぁ……」


 あたし達は馴染みのない土地(なにもない場所)を炎天下の中歩いている。


 霧島さんがなんだかんだすぐ戻ってきてくれるだろうという期待を胸にブラブラ歩いて待っている……にしても、ちらほら住宅があるだけで本当になにもない。


「つかコンビニあんじゃなかったのかよ、どこにもなくね~?」

「ある……はず」

「『はず』て。なかったらどうしてくれんだよ」

「そ、それは……ご、ごめん」


 さっきスマホで調べたら、この先にコンビニがあるって……え、もしかして潰れた? けっこう田舎だしありえる。


 え、最悪。


「まじ熱中症とかシャレになんねぇし、そこのバス停であの霧島(アホ)待てばよくねえ? もう歩くだけ無駄だろ」

「……すみません」

「はあ? いやいや、マジになんなよ~。これじゃ俺がイジめてるみたいじゃん、勘弁してくんね~?」

「いつもイジめてくるじゃん」

「それはそれ、これはこれ」

「クズが……って、いったぁっ!!」

「ざまあ~」


 あたしに容赦なくデコピンして、痛みのあまり悶える惨めなサーバントの姿を鼻で笑いながら見下ろし、先へ進む九条。


 そんな九条(クズ)に飛び蹴りを食らわす……想像をするだけのあたしは、しごく情けない。



 ──古びたバス停


 屋根があるだけマシか……というか、屋根があるだけ体感温度が格段に違う。


「喉カラッカラなんすけど~」

「……すみません」

「あ? だぁからいちいち謝んなよ、ジメジメするっての~」


 カッターシャツを脱いでインナーのタンクトップをパタパタされる九条。


 ……無駄にいい匂いがする。


 九条の匂いがとても濃くて、夏の暑さとは別のなにかがあたしの身体を支配して、徐々にほだしていく……っていやいや、なにを言ってるのよあたしは、気持ち悪い。


 バッと急に立ち上がったにあたしにピクッと小さく反応する九条。


「な、なんだよいきなり」

「……自販機探してきます!!」

「あ? ちょっ、待てって!」


 走りには自信がある。


 あたしはあの九条柊弥さえ撒いてみせたのだ……死にかけているけれども。


「はぁっはぁっはぁっはぁっはぁっ……はぁーーまじで死ぬ……あ、自販機発見」


 綺麗めなアパートの敷地内に赤い自販機──


「キミこの辺じゃ見かけない制服着てんね~って、うわっ……めっちゃ美少女じゃん! 超ラッキ~」


 駐車場に停められていたスポーツカーから降りてきたのは、九条を上回りそうなクズ臭を漂わせている若い男。


「こんな田舎まで来てどったの~? なに、迷子? 送ってってあげようか?」

「いえ、けっこうです。……あ、そういえばこの辺にコンビニって」

「ははっ、いやぁナンパ失敗ってやつ~? えーっと、コンビニね。コンビニは先月潰れて取り壊されたばっかなんよ」

「あぁ、そうなんですね」

「そうそう。で、連絡先とか教えてよ! つーかスタイル抜群だねぇ、おっぱいっ……ひっ!?」

「??」


 あたしの後ろを見ながら酷く怯えている……なぜ?


「なにしてんの」

「っ!? くっ九条!?」


 慌てて振り向くと真後ろに九条がいて、まるで気配を感じ取れなかったことにも驚き、開いた口が塞がらない。


「なにしてんのって聞いてんの」

「いやいやごめんて! 君みたいなイケメンの彼氏持ちだったなんて知らなかったんだって! 許してよ、な!?」


 いえ、彼氏ではありません。


「あ"?」

「ちょっ九条、相手は一般人! ていうかなんであんたがそんなに怒ってるのよ」

「は? 馬鹿なのお前」


 氷のような視線、奥の瞳は怒りで据わっている。


「っ、あたしだってひとりで対処できるくらい強いっ」

「そういうことじゃねえんだわ。つか男をナメすぎ、いいかげんにしとけよ」

「……なによ、あたしが弱いって言いたいわけ?」


 いつだっそう、あたしは九条に守られている。


 いつもそう、なにかあればあたしは九条の後ろに立って、大きくて広い背中を眺めている。


 ねえ、あたしはいつになったらあんたの隣に堂々と立てるのよ。


 認めてよ、いいかげん。


 平等でいたいの、あたしは。


「いやぁほんっとごめんマジでごめんて! 許して勘弁して! 俺女に困ってねぇし君もそうだろ!? 穏便にいこうぜ!?」

「……は? なに、死にてぇの? 死にたがりか? テメェごときが気安く話しかけていいような女じゃねぇんだわ、こいつは」

「わっわかってるよ! 君の女なんだろ!? 悪かったって! はいっ、これあげるから許して! んじゃ!!」


 手に持っていたガリ○リ君をなぜかあたしに押し付け、猛スピードで走り去る男を追おうとする九条の腕をグッと掴み、引き止めた。


 これ以上はまじで死人が出る、あたしの本能がそう警告してくる。


「ガッ、ガリ○リ君いっしょに食べない……?」

「……」


 ゆっくり振り向き様にあたしを見下ろした九条の瞳は、ものすんごく何か言いたげ。


「お前さ、俺がいないとすーぐ変な男に引っかかんのやめてくんね?」

「だ、だってっ」

「だってもクソもねえ。だから単独行動すんなっていつも言ってるよね、俺」


 ……いや、言われてねぇな。


 そんなこと言われたことありませんけど? まぁそんなようなニュアンスでは言われていますけど。


「でもっ」

「でもじゃねえ。お前の脳みそニワトリ以下なの? 3歩歩いたら忘れるわけ?」

「子供じゃないんだからひとりで行動できるしって、ちょっ!?」


 あたしの手からガリ○リ君を奪い取った九条。


 包装を適当に破って中身を取り出し、いきなりあたしの口の中へ押し込んできた。


「んっ!?」

「お前は黙って俺の言うこと聞いときゃいいの、わかったか? わかんねぇならもっとすごいので黙らすこともできるけど、どうすんだよ。どっちがいいかは選ばせてやるよ、特別に」


 同い年とは思えない色気、嫌でも思い知らされる経験値の差。


 ぶっちゃけ憎たらしい。


 けれど、いつだってあたしは九条に逆らえない──


 あたしがコクコク頷くと、ガリ○リ君を引っこ抜いて自身の口へ運んだ九条を見て、冷めた目をするあたし。


「甘ぇ」


 満足げにニヤリと笑う九条に惨敗したあたしであった。

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