下ネタ連発
「ちょっ、待って九条!」
「なに」
「なにって、心の準備が!」
「んなもん必要なくね? つか触りてぇって嘆いてたのお前だろうが」
「触りたいだなんて一言も言ってないんですけど」
「あ? 言ったろ」
「言ってない」
「言った」
「言ってないってば!」
とまぁ、なぜあたし達があーでもないこーでもないと言い合いをしているのかというと──
永遠に手を洗っているあたしに痺れを切らした九条。ひょいっとあたしを担いで自室まで運び、ベッドの上にポイッと捨てた。
で、ベッドに腰かけた九条は「上書きすりゃいいだろうが、俺のを触れ」と、とんでもない発言をしながらベルトを緩めはじめ、それを全力で阻止している最中でございます。
「なんなんだよお前、情緒不安定か」
「そうさせているのはあなたなのでは?」
「あ? なんでかんでも人のせいにすんな。ったく、弱者の悪癖だぞ」
「は?」
「は? じゃねえよ、触れよさっさと」
「だから嫌だってば!」
「彼氏のち○こ触れねぇ女がこの世のどこにいんだよ」
「触れないとは言ってない!」
「じゃあ触れよ」
「今じゃなくない!?」
わかってる、わかってるよ? たぶんこれは九条なりにあたしのことを考えてくれての判断だってことは。
あたしのことを大切にして、気持ちを尊重してくれている九条が、なんの考えもなくいきなり『俺のち○こ触れよ』だなんて言うはずがない。
他人のでトラウマになるくらいだったら俺のでって気を遣ってくれているのかもしれない。
今の九条に下心なんてあるはずが……ないとは言いきれないけど、『どうせお前のことだからネチネチぐちぐち引きずんだろ? だったら俺ので上書きすりゃいいじゃん』ってあたしの性格を踏まえてそう考えてくれてるんだと思うのよ、この男はそういう男だから。
「別に急かすつもりはねぇけど、こんなことで立ち止まってたら俺達なんも進まねぇぞ」
ごもっともすぎてぐうの音も出ません。
「わっ、わかってる、です」
「なんだその日本語」
「うっさい」
「ったく、心配すんな。お前ごときにちょっと触れられたくらいじゃ勃たん」
おい、それはそれでどういう意味よ。あたしじゃ勃たんって何事だよ貴様。勃てよ、勃たせろよ。彼女に触れられて勃たん男がこの世のどこにいんのよ、ふざけんな?
勃たせろ……! 勃たせるんだクジョー!
ってすみませんね、ちょっとお下品でしたわね(かなりね)。
「なによそれ、いつも触らなくても勃ってるくせにー」
「あ? そりゃあんだけえっろいキスしてりゃ勃つだろ、普通。だいたいお前だって濡れてんじゃねぇの?」
「だぁーー!! やめろ下ネタは!!」
「だって七瀬ちゃんお好きでしょ? 下ネタ~。『三度の飯より下ネタが好き~♡』って公言してんじゃん」
「してねぇよ。誤解されるだろうが、やめろ」
「ははっ」
ヘラヘラしながら舐め腐りやがって……って、おっと失礼。気をつけなきゃね~、品がないぞぉ? あたし(そんなものあってないないようなもの)。
「で、真面目な話なんだけど、触わんの触わんねぇの、どっち」
「……べっ、べつに、どっちでも」
「んだよその煮えきれねえ返事は」
この右手、珠樹さんの感覚を九条のもので上書きできれば、切り落としたくなる気持ちも、九条に対するちょっとした罪悪感も、きっとなくなる。
でも──
「だ、だって……九条のが勃ってもなにもしてあげられないし、男の人って勃つとしたくなるもんじゃないの? 無駄に勃たせるのも申し訳ないっていうか……」
「だぁから、お前ごときに軽く触れられた程度で勃起させるほどチェリーボーイじゃねえんだわ。なんなら手○キされようがフ○ラされようが騎○位っ」
下ネタ連発すな!!
「ピーだらけになるでしょうが! あたし達の物語をこんな中途半端で終わらせるつもり!? これ全年齢対象!!」
「なに言ってんだ、俺達の夢はまだまだ終わらねぇよ?」
超絶イケてるウインクをカマし、再びベルトに手をかけ緩めようとしている九条。
「かっこつけんな! そして緩めるな!」
「……あぁ、はいはいわかったわかった。じゃあもういいわ、手洗いだのなんだの勝手にやってろよアホくせぇ」
あたしの手を適当に払って、ベッドから立ち上がった九条。
これはさすがにあたしのせいだってことはわかる、謝るのもこの状況をどうにかするのもあたし自身だって、ちゃんとわかってる。
気持ちの整理なんてきっとつかない、いくら待ったって覚悟なんてできる気がしない。だけど、九条を怒らせるつもりも、悲しませるつもりもなくて──
去ろうとする九条の服の裾を咄嗟に掴んだ。
「ごめん九条……あたし逃げてばっかごめん、九条に甘えてばっかでごめんね……」
「……」
「喧嘩したかったわけじゃないの。もっとこう、触れ合いたいって気持ちはもちろんあるよ、あたしにも」
「……」
「ごめんなさい、我慢ばかりさせて」
「……はぁー」
ため息つくほど嫌になった?
やれない女なんて九条には必要ない?
「悪いが今回ばかりは引き下がれねぇぞ」
「え?」
振り向いた九条は真剣な表情をして、あたしを見下ろしている。
「七瀬の性格上ズルズル引きずんだろうが。それに、その手に他人棒の感触が残ってんの俺だって気に入らねぇんだわ。その手も俺のもんだろうが」
「そう、ですね」
「嫌じゃねえならとっとと触れ、別にとって食ったりしねぇから」
「……お、お願い……します……?」
なんのお願いしますなのよこれ。
九条はベッドに腰かけ、ベルトを緩めてスラックスのホックを外し、ファスナーを下ろした。
「んじゃお願いまーす」
「おっ、お邪魔しまーす……」
あたしはしっかり狙いを定め、ぎゅっと強く目を瞑りながら手を伸ばした──
「あの」
「ん?」
「勃ってますけど」
「だな~」
「だな~」じゃねぇよ!!
「勃たないって言ってたのどこの誰」
「さぁ? つかこれ半勃ちだし~」
「知らねぇよそんなこと」
「口わるっ」
貴様のせいだっつーの!!
「で、どうなんだよ、俺のち○こ」
「あのさ、言い方ね。もっとこうオブラートに包めないわけ?」
「おち○ちん」
「ガキなの?」
「アームストロング砲」
「馬鹿なの?」
「で、どうなんだって聞いてんだけど?」
「どうって……あったかい」
「ふっ、なんだそれ」




