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俺様御曹司は逃がさない  作者: 橘ふみの


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ライバル再来!?(4)

 だいたいさっきから気になってたけど、九条の腕にむぎゅむぎゅとけしからんおっぱい押し当てるのやめてくれない? 九条も九条でまんざらでもなさそうなのが余計に腹立つわ。


 どーせあたしにはむぎゅむぎゅできる乳なんてありませんよ、可もなく不可もない乳しかありませんよ。


「あらあら、聞いていた話とは少し違うようね」

「なにがですか」

「意外とヤキモチ妬きじゃない?」

「ヤキモチ云々の前に自分の彼氏が他の女と腕組んでたらいい気なんてしなくないですか」

「なにお前、こいつに妬いてんの~?」


 あんたはなぜそうもヘラヘラしてんのよ、まじでぶん殴りたい。逆の立場だったら怒って拗ねてグチグチネチネチうるさいくせに、ほんっとあたしを苛立たせるプロね貴様は。


 そもそもなんでこうも試されないといけないわけ? そりゃ九条のサーバントだし九条の彼女だし、一筋縄じゃいかないってことも承知の上だったけれども、部外者がしゃしゃり出てくるのって違くない?


 なんであたしが得体の知れない女に試されなきゃなんないわけ? で、それを許可する九条も九条よ。あんたは楽しいかもしれないよ? そりゃ楽しいでしょうね、どんな男にも靡かず誘いもちゃんと断る健気な彼女の姿が観察できて。


 じゃあこっちも仕掛けてやろうか? まったく同じようなことを。どうせあーだこーだって怒るくせに、「俺のこと信じてねぇのかよ」とかなんとか言って。


 ていうか信じてもらえるだけ奇跡だって思いなさいよ、どうしようもないクズだったくせに。


「で、あたしは合格ですか? 満足しましたか? まあ、不合格って言われてもどうしようもないんですけどね。お隣のお坊っちゃまがこんな女を自ら選んだわけですし不満があるならそちらに言ってください、あたしには関係ないので。もういいですかね、帰りたいんですけど」

「あ? なんだよそれ」


 不機嫌そうな低い声、咎めるような瞳、少し冷めた表情……あたしも言い方ミスったなとは思ったよ。あんな言い方じゃ、あたしの意思じゃなくて九条の意思でサーバントも恋人もやってるって捉えられてもおかしくはない。


「俺がサーバント辞めれつったらあっさり辞めんのかよ」

「違っ」

「俺が別れるっつったら「はいそうですか、さようなら」ってあっさり引き下がんのか?」

「だから違っ」

「お前の意思ってなかったわけ?」

「こらこら柊弥、そんな言い方ないじゃない」

「てめぇには関係ねえ、引っ込んでろ」


 なんでこうなっちゃうかな、いっつもそう。すぐ喧嘩になっちゃって、べつにそれが悪いとも思ってないけどさ、あたし達らしいやって。


 でもやっぱりもうちょっとほんわかしてたいっていうか……まあ根本的に相性が悪いっていうか、いがみ合う星の元に生まれてるっていうか、これがあたし達カップルの良さだとすら思ってるけど……なんかこうもっと、ラブラブな時って続かないわけ? あたしたちは。


 いいかげん喧嘩ばっかでみんな飽き飽きしているのでは?


「あたしの意思であんたと一緒にいる決まってんでしょ、そのくらいあんただってわかってるよね」

「お前時々なに考えてんのかわかんねぇんだわ、自己完結させる癖いいかげん直せよ」


 九条にそう言われてハッとする。


 たぶん家柄だろう、自己完結させることが癖になってたのは絶対にある。言っても無駄、どうしようもない、期待するだけ損、まあ諦めよ── いつだってそうやって生きてきた。


 あたしは九条を不安にさせていた?


「はいはいもう喧嘩しないの~、ごめんね舞ちゃん。でも安心して? 実は私……」

「え、ちょっ」


 九条から離れてあたしの元まで歩み寄り、優しく掴まれた手はなぜか美女の下半身へ── もにゅっとしたナニか、もっこりしてあたたかい……ってこれって……ひぇっ!?


「おい珠樹(たまき)てめぇ!」

「男なの♡」


 九条は慌ててあたしの手を掴み、そのへんの店先に置いてあったアルコールスプレーの蓋を開け、ドバァ! とアルコールをあたしの右手にかけた。


「ばっちぃから消毒しとけ」

「テ、モニュッ、モッコリ」

「おい大丈夫……ではなさそうだな。ばっちかったな、落ち着け七瀬。もう消毒したから大丈夫だ」

「カンショク、キエナイ」

「そうだな、お前にはまだ早かったな……って七瀬の初めてがよりによって他人棒かよ……おい珠樹、死ね今すぐに」

「もう大袈裟ね~♡」

「サヨウナラクジョウ、マタライセデ」


 儚くも美しい笑みを浮かべ、砂になって消えゆくあたしの残骸を1粒も残さずかき集めてくれる九条が大好きです。



 結局、面倒になりそうなのを察した珠樹さんはしれっと姿を消し、珠樹さんは女装が趣味ってだけの男で、九条の親戚なんだとか。


 まあ、そんなことはこの際どうだっていいの。


 消えない、消えないのよ、右手に残る感触とぬくもりが。


「っ、やだやだ……もうやだ」

「おい七瀬、いいかげんにしとけ」

「だって」

「やめろって、手ぇ赤くなってんだろ」

「やだぁ」

「やだじゃねえ、もうやめろ……ってお前、なに半泣きになってんだよ」


 砂の状態で九条家に運ばれたあたしを錬成したのは九条で、元の姿に戻ったあたしはすぐさまキッチンへ向かい、シンクに置いてあったスポンジに洗剤をたっぷりつけて手を擦り続けている。


「──して」

「あ?」

「落として」

「なにを」

「切り落としてーー!!!!」 

「ちょちょちょ、馬鹿かお前は!! 落ち着けよ!!」


 包丁を九条に差し出して取り乱すあたしを九条が押さえ、見かねた霧島さんが包丁を奪って去っていく。


「なにお前、そんなウブな女だったか?」


 はじめて触るのが赤の他人のって、そんなの正気でいられるわけがないでしょ。


「なによ、いいわけ!? あたしがあんた以外のイチモツ触っても!!」

「イチモツて。いいわけねえだろ、絶対触んな」


 はじめて触るのは、どうせなら九条のがよかった……なんて言ったらきっと笑われる。


 でも、はじめては全部九条がいいの。


「こん"なことに"なるな"らぁ"、九条の"触っとけばよかったよぉ"」

「おいおい、号泣するとこ間違ってねえ?」

「間違ってな"ぁ"い"」

「……お前、無自覚なんだろうけどほんっとクソ可愛いよな。泣くなよアホヅラで、ぶっさい(ツラ)になってんぞ~」

「それ"って褒めてるの"ぉ、貶してる"の"ぉ、どっちよぉ"!!」

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