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再来②

 ・・・痛っ……くない、首元にフワッとした感覚。


「ププッ。なんだよ、殴られるとでも思ったぁ?」


 ゆっくり目蓋を上げると、ニヤニヤしてる九条があたしの顔を覗き込んでいた。てか近い、とにかく近いっ! 距離感バグりすぎでしょ、バグ男め!


 あたしはササッと後ろへ下がって九条を睨み付けた。気持ち悪いくらいニヤニヤして、どことなく嬉しそうにあたしを見てる九条に悪寒がする。そしてあたしは、ある違和感に気づく。


 ん? 首、首になんか付いてる!? 慌てて触ってみると、いつの間にやらあたしの首にネックレスが付けられていた。


「それ首輪」

「……はい? 首輪?」

「そ、首輪。もう逃げらんないよ? 七瀬舞。お前は完全に俺のモンになったから」

「は?」

「ちなみにそれ、何をしても外れないになってるから~」


 あたしはありとあらゆる手を使って首輪……いや、ネックレスを取ろうとしたけど外れなかった。無理やり引きちぎろうにも、あたしの首が終わりを迎えそうになって断念。


「ハァッハァッ、何よ……このネックレス……!」

「だぁから言ったじゃん。何をしても外れないよ~って。無駄な努力おつ~」

「ちょっと、いい加減にしてよ!」

「お前、俺との約束忘れたわけ?」


『俺の言うことを何でも聞く』……でしょ!? 忘れたかったのに忘れられなかったわ!


「それとこのネックレスがどう関係してるって言うのよ! 関係ないでしょ!? 早く外っ」

「ざんねぇ~ん。それが関係してんだなぁ」

「は? どういうこと?」

「ま、後で馬鹿なお前でも分かるように説明してやるよ。とりあえず一式揃えてやったから、この優しい俺様がお前の部屋まで運んでやるよ。いやぁ、いい御主人様持ったね~? お前」

「は? え、はあ!? ちょっ、ちょっと……!」


 こいつ、自分のことを『御主人様』って言ったよね!? なに、どういうこと!?


 ・・・そして、あれよこれよという間に……というか勝手に大量の荷物を部屋に運ばれた。今、お父さんはいない……おそらくビールを片手にほっつき歩いてるはず。お母さんは仕事でいないし、律達は学校だからいない。誰かが帰ってくる前に、九条をこの家から追い出さないとヤバい。


 そして、偉そうにあたしのベッドへ腰かける九条。


「せっまい部屋だね~」

「あんたがデカいだけでしょ」

「6畳って物置部屋にもなんないっしょ~」


 大量の荷物を勝手に搬入されたせいで部屋のスペースがまるでない。


「つーかさ、お茶くらい出さない? 普通」

「デリカシー皆無男に出すお茶はありません」

「ええ~? 気ぃ利かないね~」

「うっさい」


 やれやれ~みたいな顔をしてる九条。あたしは腕を組み、冷めた目をして九条を睨み付ける。


「さて、本題に入ろうか」


『さて、本題に入ろうか』……じゃないわ。なに気取ってんのよ、イライラする。ベッドに腰かけて脚を組んでる姿が憎たらしいほど絵になりすぎてるから、尚更イライラしてくるわ。


「さっさとしてくれる? で、このネックレスを外してさっさとお帰りくださいませ」

「ああ、その首輪は特殊でね~。外れないようロックがかかってんだよ。ちなみにロックの解除は俺のスマホじゃないと出来ないよ~」


 ふーん? なるほど。こいつからスマホを奪えばいいってわけね。


「あ、ちなみに暗証番号入力しなきゃ解除できないし、そもそも俺のスマホ自体にもロックかけてるから、俺のスマホを奪ったところで何もできないよ~?」


 まあ、そうなりますよねえ。


「こんなネックレス要らないんだけど」

「ふーん。ま、お前にとっても悪くはない話だと思うけどね」

「どういう意味?」

「お前はもう俺のモンって決まってんの。で、お前は俺の言うことを何でも聞かなきゃでしょ? んで、俺がお前に求めんのは、その体ってわけ」


 ── はい? いや、今なんて?


「……は?」


 か、かっ、からだぁぁ!? あたしは勢いよく体を両手で覆った。こいつ、やっぱり体目当てだったの!? あたしを売り飛ばす気?


 それとも『俺の性欲処理機になれよ』『いやっ、やめてぇ!』みたいな? 背筋が凍るような想像をしてしまった。すると、吹き出すように笑い始めた九条。


「なぁに期待してんだよ。ま、お前がその気なら相手してやらんこともねえけど……どうする?」


 妙に色っぽい表情を浮かべてる九条に不覚にもドキッと胸を弾ませてしまった自分を殴りたい、ボコボコに。


「ばっ、馬っ鹿じゃないの!?」

「フッ、お可愛いこと~」


 無意識……いや、反射的に? なのか分かんないけど、九条にビンタを食らわそうとするあたし。そんなあたしの手首をガシッと掴んで、ビンタを何食わぬ顔で阻止した九条。


「ほんっとお前さぁ、もっと女らしくしたら?」

「……っ、別にどうだっていいでしょ。あんたには関係ない」

「関係ない……ねえ。ま、俺はお前みたいなタイプ嫌いじゃねぇし、関係ないかもね~」


 次の瞬間、あたしの手首を掴んでる九条がグッと引っ張ったもんだから、バランスを崩して見事によろけた。


「なっ!? ちょっ……!」


 ・・・どうしてこうなった? あたしが九条をベッドに押し倒している地獄絵図の完成。


「へぇ~、随分と大胆だな」


 余裕そうにニヤッと笑ってる九条と、己の失態を心の中で嘆きまくっているあたし。とりあえず起き上がろうとした……けど、九条があたしの腰を押さえ付けているせいで、うんともすんとも起き上がれそうにない。てか、よくよく考えたらこの体勢……ヤバくない? よくよく考えなくても分かることだけど、とにかくヤバい。


「……俺の人生、面白おかしくしてくれよ」


 は? いや、意味分かんない。もう十分すぎるくらい、面白おかしい人生なんじゃないの? 知らないけど。


「は? ちょっと、どうでもいいから離して」

「嫌だって言ったら?」


 優しく微笑み、目を逸らすことなく見つめてくる九条を見て納得した。はあ、なるほどね? こりゃ落ちない女はいないかも。でも、あたしには通用しません。


「嫌だって言われたら……」


 あたしはニコッと微笑み、躊躇することなく九条のご尊顔を鷲掴みした。


「……おまっ!?」

「その手、離してくださる?」


 まさか顔面を鷲掴みされるとは思ってもみなかったのか、すんなりあたしを解放した九条。あたしはフッと鼻で笑って立ち上がった。


「お前、マジで信じらんねぇわ」


 呆れた表情を浮かべながら起き上がって、少し乱れた髪をかき上げながら、大きなため息を吐いている。そのまま呆れ返って、いっそのこと全てを白紙に戻してくれないかな。


「あのさ、九条なら女なんていくらでも選びたい放題でしょ?」

「うん」


 即答かよ。まあ、即答するとは思ってたけど。


「だったらさ、他にもっといるでしょ。なんであたしなわけ?」

「うーーん、さあ?」


 ・・・ふっざんけんな! あたしの人生めちゃくちゃになりかけてるんですけど!? ほんっとお金持ちの思考は読めん!


「はぁ。で、あたしは何をすればいいわけ? どうせ『俺の言うことを何でも聞く』が終わらない限り、あたしに付きまとうつもりでしょ? あんた」


 さっさと終わらせて、九条とは完っ全に縁を切りたい。


「お前、天馬学園に来い。んで、俺の御付き(サーバント)になれ。以上」


 ── は? お付きって……はぁあん!?


 なによそれ、マジで意味分かんないじゃん! お付きって要は使用人的なやつでしょ!? しかも“天馬学園”なんて……あたしですら聞いたことがある。いやいや、ありえない。


 待って、待って、待ってっ……! そんなの無理だし!

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