ライバル再来!?(1)
「はぁ」
わかってる、みんなが言いたいことはわかってるよ? 『ケンカップルも好きだけどもっとイチャイチャしてほしい!』とか『いいかげん九条にヤらせてあげたら?』とか『さすがにガード堅すぎでしょ、貞操観念高すぎ七瀬』とかとか……みんなが言いたいことはちゃんとわかってますとも!
でもさ、初めてってめちゃくちゃ痛いって言うじゃん? 美玖も梨花も『初めてした時は痛いって感想しかなかった、血も出たし。慣れるまであんま気持ちよくもないし早く終わってほしいとか思ってた』なんて脅してくるんだもん(事実を述べているだけであって、決して脅しているわけではない。by美玖・梨花)。
「はぁー」
要するにビビってるのよ、ビビり散らかしてるのよ、悪い!? あたしだって一応女だしそりゃ初めての営みって怖いじゃん! 九条の九条Jr.ってたぶんその……おっきいっていうか、他のを知らないから基準とかわかんないけど、押しつけられた時の感覚的にかなりおっきいのよ、たぶん。だから余計に怖いっていうか、あたしに九条の相手が務まるのかな? とか思ったりして、なにも進まない……そう、なにも進まない、キス止まり。
九条が「俺の触る?」とか冗談っぽく聞いてくるけど、一度も首を縦に振ったことはない。九条はそれに対してヘラヘラ笑ってるだけだと、内心どう思ってるのかな……『触ってくれてもよくね?』とか思ってるよね、きっと。
「九条の優しさに甘えてばかりじゃいられないよね。九条Jr.に触れるところから始めてみようかな……うん、それがいい。九条も九条Jr.もきっと喜んでくれるはず、触って慣れれば怖さも半減するかもしれない……し……」
トイレの手洗い場の鏡に向かって卑猥な決意を表明するあたしと鏡越しに目が合った近くにいるおばさんは、苦笑いをしながらそそくさと去っていた。
「しまった、自分の世界に入り込んでて周りが全く見えてなかった。気をつけよ」
早く戻らないと九条にどやさせる……けどもほっとけないんだよなぁ、ああいう現場を見ちゃうと。
個室に戻ろうとしていた最中、綺麗な女の人がしつこそうな男2人組にナンパをされているところが視界に入ってきてしまった。
九条に『お前ってさぁ、なんでこうも巻き込まれ体質かねぇ』とかなんとかネチネチ説教を食らいそうだけど、ほっとくのは無理。九条にあーだこーだ言われそうになったらキスして黙らせればオッケー(九条はとっても単純である、時と場合によるが)。
「いいじゃんお姉さん、遊ぼうよ」
「俺ら結構自信あるぜ?」
「ごめんなさい、興味ないの」
「ははっ、大丈夫大丈夫!」
「その気にさせるからさぁ」
「あのすみません、しつこくないですか」
後ろからそう声をかけるとバッと振り向いた男2人組はあたしを見て一瞬目を見開いた。
「わーお」
「うおっ、なんか可愛い子きたじゃん」
「てかその制服あれでしょ、金持ち学校の!」
「ああ、なんだっけ……天馬だわ天馬!」
「何々キミお嬢様!?」
「マジか! ねぇ俺達と仲良くしない?」
あたしがお嬢様に見えるなら今すぐ眼科行け、心配だわあんたらの目が。
「あたしがどうにかしとくんでもう帰っても大丈夫ですよ」
綺麗な女の人にそう声をかけるとあたしの首元をじっと見ていた。この人、このネックレスの意味知ってたりする? あたしが九条のサーバントである証。もしかして天馬の関係者かな、見るからにお上品そうな感じだし。
「あなたもしかしてっ」
「なぁなぁ、君達2人でどうよ」
「いいねぇそれ」
よくねぇよ、この一言に尽きる。
もお、早く戻りたいのにー。なんなら九条が探しに来そうな予感しかしないんですけどー。
「ああ、あたしは全然平気なんで気にしないで行ってください」
「……ねえ、君達。本当に私を満足させられるのかしら」
えーっと、なにを急に問い始めたんですかあなたは。話がややこしくなる前に武力行使でもなんでもいいから物理的にこの男2人組を黙らそうとしてたんですけどね、あたしは(脳筋バカすぎる)。
「そりゃ満足させるぜ?」
「どうやって?」
「まぁ、俺達になりに考えがっ」
「ええ? なにそれ~。なりに~だなんて随分と弱気ね。さっきまでの威勢はどこへいったのかしら。だいたい「俺ら結構自信がある」「俺達なりに」って、中途半端な口説き文句よね。絶対的な自信もないのに私やこの子を丸め込もうなんて到底無理よ、レベルが違うもの私達は。ね? 可愛い子ちゃん」
え、あたしですか。
「あ、あぁはい……ですね」
綺麗だし大人しそうなのにかなり強烈だな、この人。こういう人嫌いではないけど、敵に回ると厄介そうな人ではある。
「んだよ、ちょっと綺麗だからって調子こきやがって」
「ちょっとレベルに見えてるのならそんな目ん玉いらないでしょ、使い物になってないじゃない」
うん、あたしとほぼ思考が一緒。
「大した女でもねぇくせに偉そうによ!」
「ふふっ、大したことない女に声をかけてきたのは誰でしょうね。ねえ?」
またあたしですか、もう振らないでくださいよ。
「まぁはい、そうですね」
あの、これあたしが首突っ込む必要なかったのでは? でもまぁ口は達者でも男2人相手に力では敵わないだろうから無意味ってことはないか。
「ていうことで、はいさようなら」
「「ちっ! もういいわ! くそババアがよ!」」
「はいはいクソばばあですよ、さようなら」
くそばばあって、まだ20代半ばくらいじゃない? まぁそんなことはさておき、大事にならなくてよかった。というこであたしもさようならしたいんですけどぉ、えーっとこれは一体どういう状況ですか?
「あのー、あたしもこれで」
「もうそんな急がなくてもいいじゃない」
なにこの人、素の力が強い。手を握られている感覚でわかる、ただ者ではないということが。
「おい、なにしてんだよ」
その声に振り向くあたし達、そしてこっちを見るなり目を見開いて驚いた様子の九条に疑問符が浮かぶあたし。
「あら、やっぱりね」
「え?」
「なんでここにいんだよ」
「ふふっ、久しぶり柊弥」
え、なに、まさかの知り合い? え、なに、元カノとか言わないよね? いや、元カノなんていないはずだけど……修羅場とか勘弁して。
「おい七瀬、こっち来い」
「え、あ、うん……って、あのぉ……離して?」
「こっちに来るのはあなたでしょ? 柊弥」
「ちっ、触んなそいつに」
「あらやだこわぁい、ってことで七瀬ちゃん」
「え、あ、はい」
「ちょっと柊弥借りてもいいかしら?」
「え?」
借りてもいいかって、それはどういう意味で?
「俺は用なんてないんですけど~」
「私はあるのよ。で、いいかしら七瀬ちゃん」
いいもなにも九条に聞いてよ、あたしは知りません。
「……九条に聞いてください」
「だって、柊弥」
「あ? だぁから俺はお前に用なんてっ」
「いいの? 私にそんな態度とって。まあいいわよ? どうなっても知らないから」
「ちっ」