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愛し足りない(1) 九条視点



「あれぇ? 舞ちゃんと柊弥君じゃ~ん!」

「こっ、こんにちは!」


 げっ、でたでた。七瀬のお友達とやらの天然ぶりっ子女とその彼氏のクソ生意気なヤンデレ野郎。


「ええー! 美玖と浅倉君じゃん! こんなところで奇遇だね! なんか嬉しいー!」


 嬉しいー! ね。俺は1ミリも嬉しかねぇけど。こんっな巡り合い必要ねえ。めんどくせーなぁ、さっさと帰りてぇんだけど……いや、帰りてえっつーか七瀬との時間を削られるのが癪に障るっつーか……っておいおい。俺も大概やべぇ男になってねぇかこれ。


 いやいや、俺はこんなヤンデレ野郎とは格が違うんでね。


「こんにちは、美玖ちゃんと浅倉君」


 胡散臭ぇ笑み振り撒いて鳥肌立つっつーの。にしても、相変わらず無駄にデケェなこいつ。また背ぇ伸びやがったんじゃねーの? うぜぇ、このちょっとした身長差すら気に入らねえ。こんな奴が俺より目線が数センチ上っつーのが腹立つわ。


「なんか舞ちゃん会うたびに可愛くなっていくね♡ ね? 真広君!」

「えっ!? あ、あぁうん! 素敵だね」


 あぁん? てめぇは同意すんじゃねぇ、七瀬をそんな目で見んな、殺すぞ。


「そんなお世辞っ」

「ハハッ、僕が愛しすぎちゃってるのかな? あまり可愛くなられると困るんだけど、愛でるのがどうしてもやめられなくて……ね? 七瀬さん」

「ん? 寝言は寝て言え?」


 王子様スマイルの俺に対してブラックホールのような瞳で俺を見上げながら睨みつけている七瀬。俺達はこんなもん、甘い展開だの何だの求めんな。だいたいこの女がデレるはずねぇだろ。


「ははっ、相も変わらず恥ずかしがり屋さんだね。そんな君も素敵だけど……とっても可愛らしくて」

「ははは、嫌味ですか?」

「酷いなぁ。僕は君のこと本当に可愛いなって思ってるよ? メチャクチャにしたくなるくらいに……ね」


 周りにいたモブ共の甲高い悲鳴のような声、『九条柊弥じゃん!』『かっこいい!』『あの子が彼女? やっぱ綺麗な子だね~』『ええ、でも庶民くさくなーい?』等々。


「ギャラリーやばいねぇ、どうするぅ?」

「とっ、とにかく逃げないと!」

「美玖と浅倉君巻き込むのは申し訳ないし、ここで解散しよ? また連絡するね美玖」

「あぁうん、わかったよぉ」

「じゃ、じゃあまた」

「またね~」


 んで、俺を平気で置いていくのが七瀬という女である。


「おい、普通置いてくか」

「ファンサするのにあたしがいたら邪魔でしょ」

「プラベでファンサなんざ死んでもしたかねえっつーの」


 すると、わざとらしいため息を吐いてやれやれと言わんばかりのツラを引っ提げる七瀬。その真似をすると、しれっと目立たないよう脇腹にグーパンを食らわせようとしてきた……まっ、余裕で防ぐけど。


「ったく、おおちゃくい手なこって」

「あんたにだけよ。ていうかさ、もっとファンを大切にしたら?」

「あ?」

「別にあたしのことは気にしなくてもいいよ、気にしてないし」


 いや、気にしろよ。そこは大いに気にするところだろ、馬鹿かお前は。


「なんだお前、可愛くねぇ」

「……九条はあたしの彼氏なわけだし、九条がそれをぶらさない限り、あんたはあたしのでしょ? だから案外平気なの。だって九条、あたしのこと大好きじゃん」


 そう言った七瀬の無邪気な笑顔を見て、『ああ、やっぱこいつじゃなきゃ無理だわ』と思い知らされる。


「それにこんっないい女捨てたら後悔すんのあんただしね~」


 皮肉な笑みで俺を見上げてくる七瀬を見て、『死ぬほど好きだわ』と実感する。


「……な、なによ……いつもみたいに言い返しなさいよ」


 なんつーかもう、好きが溢れて止まんねぇんだわ。


「……な、なに、どうしたの?」


 愛し足りねえ。 

 七瀬への想いはこんなもんじゃねぇだろ。

 もっと、もっと、奥深くまで──。


「ちょっと九条、本当に大丈夫?」

「あ、ああ、なに」

「いや、なにって……顔、こわいけど」

「あ? イケメンの間違えだろ」

「え、ちょっ!?」


 七瀬の腕を掴み、すぐそこにあった映画館に連れ込んだ。


「そんな観たい映画でもあるの?」

「ねえ」 

「即答すな。だったらなんで映画館にっ」

「ここ個室ありますよね、空いてます? いや、空いてなくても空けてください」

「え、えっ!? くっ、九条柊弥!? やばっ!」


 ああ、だりー。俺を見てオーバーリアクションの従業員に嫌気が差す。俺が何だろうとどうだっていいだろ、さっさとしろよ。


「僕が誰だか把握しているのなら話が早い。一部屋空けてください、今すぐに」

「ちょ、九条!」

「申し訳ございません! ただいま予約の一部屋しかっ」 

「てことは今、空いてるんですよね」

「ま、まあ……もうすぐご予約のお客様がお見えに……はい……」

「ねえ、ちょっとあんたさすがに横暴すぎ!」

「君は黙ってて」

「はあ!? いいかげんにっ」


 七瀬のガミガミが飛んできそうになった時、ここを予約してるっぽい若ぇ男女がやってきた。


「うわっ!? 九条柊弥!?」

「やばあ! かっこいい!」

「すみません、少し体調が優れなくて個室で休みたいんですけど、あなた達が予約している個室を譲っていただけませんか」

「ちょっと九条! あ、あの、すみません!」

「え、えっと、別に俺らはいいっすよ。な?」

「うんうん! 生九条と会えただけでラッキー! みたいな!」

「あっ、写真とかいいっすかね!?」

「ああ、すみません。プライベートではそういうの断ってるんですよ。ここを譲っていただける代わりと言ったらなんですけど、九条グループが経営しているホテルならどこでもお好きなように1泊してください」


 そう言って名刺を差し出すと意外と遠慮する男女。さっさとしてくれ、俺は一刻も早く七瀬を愛でたい。


 無理やり男に名刺を握らせ、適当に笑みを浮かべた。


「はい、どうぞ。あ、ちなみに名刺の悪用はしないでくださいね~、怖い思いをしたくなければ」

「「ひっ」」

「ホテルのフロントスタッフにちゃーんと渡してください」

「「は、はい……」」


 七瀬はうちの馬鹿がすみませんと言いたげな顔をして何度も頭を下げていた。俺は死んでも頭なんて垂れねえけど~。


「えーっと、個室に監視カメラは?」

「え? ええ、ついています」

「故障していたということにしておいてください」

「……はい」

「ありがとうございます」


 七瀬は申し訳なさそうに頭を下げ、先を歩く俺についてくると後頭部を1発ぶん殴ってきた。


「暴力へんたーい」

「1発で済んだだけありがたいと思え、この横暴御曹司が」

「口悪っ」

「体調優れなくて~とか嘘でしょ」

「元気ビンビン」

「シバくよ」

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