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真価⑵

「お噂はかねがね。初めまして、私は小宮貴之(こみやたかゆき)と申します」

「あ、ああ、どうも……初めまして、七瀬舞です」


 凛様は冴えない男だって言ってたけど、なんだろう。上杉先輩と宗次郎をミックスさせたような人だな。普通にモテそうではある、というかモテない要素がない。


前田瑞樹(まえだみづき)

「あ、どうも。前田先輩には大変お世話になっております……」


 この人、睨んでるというより目つきが悪いだけっていうか、ちょっと無愛想な人なのかな? 前田先輩は良くも悪くも他人に興味がない人だから、その辺は似てるのかも?


 それともサーバントとして教養のないあたしを毛嫌いしているのか……ま、それ説濃厚。前田先輩に良くしてもらってるとはいえ、弟の前田さんにも良くしてもらえるとは限らない。


「そろそろ柊弥を迎えに行かないと拗ねる頃合いじゃないかな?」

「嫌ですよ、あんな(マスター)迎えに行くの」


 なんて言った時だった。この学園来て一度も聞いたことのない、耳がキンッとするような警告音が鳴り響く。


「不法侵入者あり、不法侵入者あり」


 警告アラームとアナウンスが繰り返され、あたしの足は考えるよりも先に動いた。


「舞ちゃん!」


 そんなあたしを追いかけてきて腕を掴み引き止めたのは蓮様で、あの凛様も慌てて走ってあたしのもとへやって来た。


「待ちなさい舞! 馬鹿なの!? あなたは!」

「九条を……九条のところに行かなきゃ」

「舞ちゃん、こういう時に狙われるのは一軍のマスターである可能性が高い。そもそも天馬のセキュリティを無理やり突破してきた時点で危険人物なのは確定だ。君を1人で行動させるわけにはいかない」


 今、こうしてる間に九条が狙われたら? 守れたかもしれないのに、あたしが九条を置いてったりしたから……なんてうじうじしてらんないのよ。絶対に守る、死なせない、死なないって約束したじゃん。


 あたしは蓮様の制止を振り切って先を急いだ。


 向かった先には人だかりができてて、悲鳴やら怒号が飛び交っている。


「あなた!! 九条様のサーバントでしょ!? 何をしているの!!」

「この役立たずが!!」

「あなたのせいよ!!」

「どうしてくれるのよ!!」


 あたしに気づいた人達が次々と責め立てるように声を荒げてるってことは、この騒ぎの中心にいるのは不法侵入者とそれに捕らわれた九条だ。


 さっきはテンパって『九条を助けなきゃ!』みたいな思考になってたけど、些か疑問なのですが、あの九条がそう簡単にやられる? そんな易々と捕まる? そんなふうには到底思えないんですけど。あいつならヘラヘラしながら取り押さえてるでしょ、不審者くらい。


 人だかりを掻き分けて、あたしの視界に飛び込んできたのは……不法侵入者に捕まってる九条の姿だった。しかも侵入者は鋭利な刃物まで持ってるし、それを九条の首に突きつけてるから若干切れて血が伝ってる。そんな状況を見て、あたしの安易な思考は崩れ落ちた。


「お前!! それ以上近づくな!! 殺すぞ!!」


 なんで、どうしてあの九条が……そう思わずにはいられない。でも、これが現実なんだ。


 怖い、九条を失うかもしれないと思うと、それが何よりも怖い。


「お願い、その人を離して」

「あぁん!? テメェはコイツの何なんだよ!!」

「なんだっていいでしょ」

「クソ生意気な女がよ!! まずはテメェからあの世に送ってやろうか!?」

「そうね、そうしてくれると助かるわ」


 ナイフを持った人に出くわす確率なんて低い。その低い確率を引いてしまった場合はとにかく逃げて、少しでも遠くに離れて安全を確保し、すぐに警察へ通報するのがマスト。


 けど、あたし達サーバントはそうもいかない。マスターがああなってる以上、どうしても犯人に立ち向かう必要がある。まあ、こういう時のためにサーバントはしっかり訓練を受けてるから、さほど問題ではない。問題なのは人質(マスター)を捕られてるってことくらい。こっちへ注意を引ければ勝率は格段に跳ね上がる。


 周りに盾になるような物は……無し。となると、生身でいくしかないか。


「舐めた態度しやがって!! お望み通りお前から殺してやるよ!!」


 九条を突き飛ばして走ってきた侵入者は、真っ直ぐナイフを刺そうとしてきた。こういう安直な動きはやり易くて助かる。上腕を使ってナイフの軌道をそらして、そのまま侵入者の手首を掴む。すかさず自分の体重と遠心力を使って容赦なく顔面をぶん殴る。侵入者がよろめいた隙に押し倒して、うつ伏せの状態で制圧。


「ナイフ、無理やり取られなくなきゃ捨てなさい」

「うるせぇ!!」


 ギャーギャー喚いてジタバタ抵抗する侵入者。せっかく忠告してあげたのになぁとか思いながら、仕方なくナイフを持ってる方の肩を外した。


「うぁぁあーー!!」


 呻き声と同時にナイフを手離すしかなくなった侵入者。そのタイミングで警備員や警察が到着して身柄を引き渡した。


 ・・・腑に落ちない。


 え、弱くない?


 あたしが強い……わけじゃない。


 ちょっと待って。


 あんな侵入者にあの九条が捕まるなんておかしすぎる。なにこれ、ドッキリ? もしかして、嵌められた? そう思いながら九条のほうへ視線を向けると、ほくそ笑む九条(クズ)と目が合った。


 ねえ、やっていいこととやっちゃいけないことの分別(ふんべつ)もつかないわけ? あの俺様御曹司は。


 あたしの心の奥底から出てきた本音は、“う せ ろ”。


 この場合、サーバントは真っ先にマスターのもとへ駆け寄り状態の確認を急ぐだろう。でもあたしはしない、あんなやつにそんなことしてやる義理はない、一っ切ない!


 あたしは汚物を眺める眼差しを九条に向けて視線を戻すと、どうやら蓮様達も一連の流れを群衆の中から見てたらしい。前田さんと目が合ったけどすぐ逸らして、蓮様達に軽く会釈をしてこの場を後にした。


 さすがの蓮様達も九条の悪ふざけに笑えてないっていうか、あたしに同情の目を向けてて、それがせめてもの救いだわ。


「おーい」

「……」

「おーい、気づいてんだろ」

「……」

「いつまで無視すんだよ、サーバントの分際で」


 九条があたしの後をずっと追って来てたのは気づいてた。で、あたしが人気のない場所へ誘導してるってことも、九条なら気づいてるはず。


 ・・・殴ってやる、ボッコボコのけちょんけちょんにしてやる。


「あんた、悪ふざけも度が過ぎると全く笑えないって知ってた?」


 第4体育館裏、ここはあまり人の行き来がない。


「体育館裏とかボコられる定番のやつ~?」


 私は九条に背を向けてるから、どんな表情してるのか分かんないけど、どうせヘラヘラしてんでしょ。

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