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チョコレートからのカップラーメン⑷

「あ、ごめんごめん。ナンパとかそういうんじゃなくて! 結構若そうだったから心配でさ、大丈夫?」


 はい、大丈夫です。ただただカップラーメンを買いに来ただけの、しがないJKです。


「最近この辺で女子大生の連れ去り未遂あったみたいだから、ちょっとスルーすんのもモヤモヤしちゃって。ごめんね? 急に」


 この人、シンプルにいい人なパターン? 本人が言ってる通りナンパとかではなさそうな?


「そうなんですか、知らなかったです」

「犯人捕まってないって言ってたし物騒でしょ。ホテル何階? 近くまで送るよって、どう考えても今の俺が怪しくて怖いかぁ。どうしようかな……あ、俺の財布人質にしとく? 免許証とか全部入ってるし!」


 いや、あたしそんなか弱い女でもないんで大丈夫です。なんなら馬鹿力ゴリラ(九条)の彼氏も寝てはいるもののホテルにはちゃんといますのでモーマンタイ。  


「お気遣いありがとうございます。でも大丈っ」

「おい」


 ・・・げ、この声は……振り向くとそこにいたのは不機嫌を通り越して“無”すぎる九条の姿があった。


「僕の彼女に何かご用で?」

「え? え!? 九条、九条柊弥だよね!? え、もしかして君の彼氏!?」

「あ、ああ……はい」

「うわっ、生九条かっけぇね! そっかそっか、ごめんごめん! シンプルに心配で声かけただけだから! もう大丈夫そうだね、じゃ」


 霧島さんと同年代くらいかな? 爽やかな笑みを浮かべて手を振りながら去っていくその姿を無言真顔で見つめる九条と、控えめな笑みを浮かべて軽く頭を下げるあたし。


 その姿が見えなくなった途端、ベシン! と後頭部をぶっ叩かれた。そんなことを平気でするのは、もちろん九条しかいない。


「なんか言い残すことはあるか」

「そんな物騒なこと言わないで」

「お前さ、マジで何してんの」

「スミマセン」

「あ? 謝罪なんていらねぇんだよ、何してんだって聞いてんだけど」


 無駄に長い腕を組んで、目を細めながらあたしを見下ろしてる九条にキョドりながらもカップラーメンを盗られないよう必死になってるあたしに気づいた鬼(九条)は、あたしから一瞬でカップラーメンを奪った。


「お前さ、今何時だと思ってんの?」

「……よ、4時ですね。あ、あの……カップラーメっ」

「まだ暗ぇし危ないだろうがよ、んなことも分かんねぇの」

「すぐそこだしって思って……あの、カップラーっ」

「すぐそこだのすぐそこじゃねぇだの、距離の問題じゃねえんだわ。1人でうろちょろすんなっつってんだよ。だいたい何も言わずにいなくなんじゃねぇよ、焦んだろ普通に」


 怒ってるような、呆れてるような、心配してるような、安心してるような、複雑そうな表情を浮かべてる九条に罪悪感を感じるのと共に、どうしてもそのカップラーメンを返してほしいと思う気持ちが入り交じる。


「ごめん、すぐ戻るしって思って……あの、カップっ」

「なんでこうもアホなわけ? お前。普通起こすくね? 俺のこと」

「いや、わざわざ起こすのも悪いなって……あの、カッ」

「変なところで気ぃ遣ってんじゃねぇよ。ったく、結局こうやって出向いてりゃ変わんねぇじゃん。だったら最初っから連れてけよ、無駄に苛つかせんなタコ」


 ま、まあ、たしかにそうだけどさ、あたしの落ち度でしかないけども……あの、カップラーメン返して……?


「馬鹿か、お前は」

「ご、ごめん」

「アホなの?」

「ごめんって」

「はぁーあ。マジで脳足りんだな、お前はよ」

「だからごめんって!」


 これはエンドレスパターン? 何時間もこのやり取りを繰り返す感じ? あたしが悪いのは百も承知だけど、さすがに勘弁してほしい。せっかく期間限定のカップラーメン買ってきたのに、なんなら一緒に食べようかなって思ってたのに、永遠にこの説教がつづくの?


「ほんっと呆れるわ、お前の馬鹿さに」

「以後気をつけます……あの、そのカっ」

「あ? 『以後気をつけます』だあ? そのセリフ何回目だよ。聞き飽きてんだけど」


 ダメだ、今何を言っても九条は絶対に突っかかってくるに違いない。ま、あたしが悪いんだけどぶっちゃけダルい!


「はぁ、だからごめんって」

「あ? なんっだそれ。ナメてんの?」

「いや、ナメてるとかそういうことじゃっ」

「お前さ、過信しすぎてんだよ。所詮は女だろ、男に勝るわけねぇじゃん」


 ・・・なによ、それ。あたしが弱い女だって言いたいわけ? あんたにはあたしが弱い女に映ってるの? この約1年、あんたはあたしの何を見てきたの? あたし、そんっな役立たずなサーバントだった?


「んだよ、そのツラ。お前が逆ギレできる立場にあると思ってんの? 怒りてぇのはこっちな」

「なにそれ、カップラーメン買いに行っただけで何でこうも言われなきゃなんないわけ?」

「あ? 買いに行った“だけ”?」


 咎めるような視線、それであたしが怯むとでも?


「鬱陶しい」

「あ?」

「だいたいコンビニ行くのに許可なんている? ちょっとコンビニ行くのに彼氏(あんた)の同行が必要? 過保護にもほどがあんでしょ、ダルすぎ」

「お前、忘れたとは言わせねえぞ。あん時ホイホイ連れ去られたのどこのどいつだよ、あ?」


 そんな言い方なくない? あれは防ぎようがなかったし、連れ去られたくて連れ去られたわけじゃない。


「ホイホイって……あれは不意を突かれてっ」

「不意もクソもねえ、それが全てだろ」


 あの時のことをツッコまれると、強く言い返せない。不意を突かれたとはいえ、まんまと拉致られたのは紛れもなくこのあたしだし、九条に心配をかけて不安にさせてしまったのも、紛れもなくこのあたしだから。


「ごめん」

「……冷える、戻るぞ」

「うん」


 ── しばらく何をするわけでもなく、ただソファーに腰かけて沈黙が続く。


 静寂に包まれる室内、それに痺れを切らしたのは九条だった。というより、こういう時なんだかんだ最初に折れてくれるのが九条だったりもする。


「悪い、言いすぎた」

「……ごめん、あたしも言いすぎた」

「頼むから黙っていなくなるのだけはやめろ、心臓に悪い」

「うん、本当にごめん」

「はぁーあ、腹減った」

「ならカップラーメン一緒に食べよ?」


 この後、2人でカップラーメンを食べてあーでもないこーでもないと言い合いながら仲良く? 二度寝して、この騒動は落ち着いた……ま、しばらくはネチネチ言われそうだけどね?

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