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チョコレートからのカップラーメン⑶

「はぁーあ。ったく、なんっも分かってねぇなお前は。好きな女がそんな格好してたら我慢できずに理性ブッ飛ぶに決まってんだろ、いちいち言わせんな。それともなにかぁ? 俺に抱かれる覚悟できたんかよ、今ならブッ壊れるほど抱いてやる自信しかねぇけど? それでもいいか? あ?」


 あたしは全っ力で首を横に振った。


 ていうか、あたしのこんな不格好な姿でさえ受け入れてくれる九条って、はなまる満点すぎる彼氏なのでは? あたしの彼氏って案外いいやつすぎやしないか? ヤバい、好きが止まんない。こんなの好きが加速しちゃうじゃん、やめてよ。


「一丁前に煽ってきてんじゃねぇよっつーこと、オッケー?」

「オ、オッケーです」

「ったく、いつになったら自覚すんのかねえ? 自分のビジュの良さに。ほんっと厄介な女だな、お前は」

「え? ちょ、ひゃい!?」


 子供を抱っこするように、ひょいとあたしを抱っこできちゃう九条ってマジでゴリラだと思う。


 で、あたしを抱っこしたままソファーに座って口をパカーッと開けてる九条に『え、なにしてんの、この人』って疑問符が飛び交って、それをぽけーっとした間抜け顔で見つめるあたし。


「あの、なにしてんのあんた。口なんて開けて」

「お前、マジでブチ犯すぞ」

「え、なに」

「ちっ。だぁから、あーんしてぇんだろ? させてやんだよ、仕方ねぇから!」


 いや、別にあーんがしたいわけではないんだけどね? どっちかって言うとぶっちゃけしたくはない。でも今、ちょっと恥ずかしそうにしてる九条を見て気分が変わった。照れ臭そうにしてる九条がどうしよもなく愛おしい。だから今日くらい、いいよね? 柄でもないことしちゃっても。


「あーんしてほしいの間違えなのでは?」

「あ? おまっ!?」


 チョコレートを唇で挟んでそのまま九条の唇にコツンと押し当てると、あたしの唇ごとパクッと食べてきた。そんな九条の頭を軽くベチッと叩くと、フッと優しく鼻で笑ってあたしを抱きしめながら唇を奪ってくる。


 互いに舌を絡め合って、九条の大きな手は頭を撫でたり、耳を撫でたりして、あたしの体を絆していく。チョコレートの甘さなんて分かんなくなっちゃうほど、九条とのキスは濃厚でひどく甘い。


「……んっ、九条……」

「はぁっ……ん?」

「好き」

「ふーん」

「好き」

「へぇー」


 いつもなら『あ? 俺のほうが気持ち勝ってんだよ』とか『俺はその百億倍』とか無駄に競ってくるのに、なんで今日は『ふーん』とか『へぇー』とか素っ気ないの?


「……ねえ、好き?」


 ちょっと不安になりつつ聞いてみると、ニヤニヤし始めた九条。


「くくっ、お前ほんっとチョロいな」

「は?」

「お可愛いこと」

「コロス」

「はいはい、落ち着け落ち着け。ほんっと可愛くて死ぬ。マジで俺以外に好きだのなんだの言うなよ」

「なにそれ、言うわけないでしょ」

「ま、お前がデレるのなんて俺の前だけだしな?」

「デレてないし」

「よっ! ツンデレ七瀬ちゃーん!」

「うっさいわ!」

「んぐっ!?」


 あたしがありったけのチョコレートを九条の口の中へ突っ込んだのは言うまでもないよね? で、九条がそのチョコレートをあたしに分け与えてきたのも言うまでもないよね? もちろん濃厚なキスで──。


 チョコレートと共に舌を絡め合って、その絡め合う感覚と音に体の芯がぞくぞくして、ただただ九条とのキスに酔いしれて溺れていく。互いの体温や息遣い、唇や舌の感触、愛を確かめ合うようにキスを重ねる。


「んっ、もうむりっ……!」

「あ? もうへばんの~? ザコすぎ~」

「はあ? 別にへばってないし、全然余裕だし!」

「へえ、ならもっとしてやるよ。クソ甘ぇやつ」

「なっ、んんっ!?」


 逃げたくても後頭部をがっしり掴まれてるし、抱きしめられてるしでビクともしない。こりゃもう、逃げらんない。


 九条とのキスは、愛されてるなって実感して幸せな気持ちに包まれる。だから九条にもあたしと同じ気持ちになってもらいたいって、そう思う。


 自分なりに伝える、このキスで。


「……はぁっ、ふっ」

「……っ、なに?」


 急に鼻で笑った九条に疑問符が浮かぶあたし。何かおかしかったかな?


「いや? なんか必死に伝えてくんなぁって思って。可愛すぎて笑えた」

「なによそれ、うざい」

「可愛い」

「やめて」

「なに、照れてんの?」

「照れてない」

「顔真っ赤だけど?」

「もういい、黙って」


 パクッと九条の上唇を甘噛みして、唇を舌でなぞると甘噛みの仕返しを食らった。


「もうっ!」

「積極的な七瀬もたまんないね~」

「うっさい!」


 無駄に顔面整いすぎだし、無駄にスタイル良いし、無駄にいい匂いするし、無駄に頭良いし、無駄にイケボだし、無駄にハイスペだし、無駄にしごできだし、クズだし、うざいし、鬱陶しいし、ストレスだし、変態だし、下ネタ大好きマンだし、気持ち悪いし、キス魔だし、距離感バグだし、境界線バグだし、空気読めないし、俺様だし、横暴だし、もう挙げたらキリがないけど── 好きだから、ずっと傍にいて。


「七瀬、愛してる」

「愛してるよ、九条」


 ── 数時間後


「馬鹿か、お前は」

「ご、ごめん」

「アホなの?」

「ごめんって」

「はぁーあ。マジで脳足りんだな、お前はよ」

「だからごめんって!」


 あのイチャイチャ? から数時間後、ふと目が覚めたあたしはどうしてもカップラーメンが食べたいという謎の衝動に駆られて、この際時間なんてどうでもいい、食べてやる! という暴挙に出る決意を胸に九条を起こさないよう、こそっとベッドから出て、そーっと部屋を抜け出した。


 もう補導される時間帯ではないし、ギリセーフでしょ。なんて思いながらすぐそこにあったコンビニでカップラーメンを買ってホテルへ戻ろうとした時。


「ちょっと君」


 ・・・げ、警察かな? そう思いながら振り向くと、警察ではなくてホッと胸を撫で下ろす。


「そこのホテル?」


 この人もきっとそうだと思う。だって、同じ格好してるもん(ホテルのルームウェア着てる)。しかも2人してカップラーメン片手に持ってるとか、どういう絵面よこれ。

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