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チョコレートからのカップラーメン⑵

 検索結果【セクシーランジェリーを着てチョコレートを食べさせてあげる♡これでどんな男も歓喜(イチコロ)~♡】というものだった。


 セクシーランジェリーを着て目が点になってるあたしが洗面台の鏡に映ってて、いやマジでなんなのこれ状態。激しくズレてない? こんなので本当にあの九条が歓喜する? するわけなくない? こんなの恥晒してるだけじゃない? ねえ、誰か教えて。


 だいたいあいつのことだからセクシーランジェリーを着た女体なんて腐るほど見てきたでしょ。あたしのセクシーランジェリー姿を見たとて何っとも思わないでしょ。


 死ぬ、マジで死ぬ。こんなのあたしが恥ずかしいだけじゃん、恥ずかしすぎてシヌ。


「これで既存品のチョコレートも特別なチョコレートになるでしょ♡? はい、あ~んして♡?」


 ・・・。


 鏡に向かってブリブリしながらそんなことをする自分に具合が悪くなる。鳥肌が立って悪寒が止まらない。むりむり死ぬ死ぬ、誰か一思いに殺してくれ。


「はぁ、なにやってんだろあたし。着替えよ」


 セクシーランジェリーを脱ごうと手をかけたその時、ピッと部屋のロックを解除する音が聞こえてきた。


「やっっばい!!」


 テンパったあたしはチョコレートを握り締めたまま、セクシーランジェリー姿でビュンッ! と部屋を駆け抜けベッドに飛び込んで布団の中に潜った。


 ドドドド! とありえないくらい心臓のエンジンが全開で、ハァハァと息を切らしながら目をかっ開いてチョコレートを握り締め、セクシーランジェリー姿で今にも死にそうになってるヒロインのヤバい絵面がこちらです。


 どうしようもないって分かってるけど、どうしても無かったことにしたいあたしは、とりあえず寝たフリ作戦を決行することにした。


「おーい、七瀬」

「……」

「七瀬?」

「……」

「寝てんの?」

「……」

「なーなーせー?」

「……」


 アタシハ、ネテイル、ソレハ、ソレハ、グッスリト。


「んだよ、寝ちまったか。仕方ねぇな」


 よし、これでなんとか──。


「なーんてな! 寝たフリして……ん……だろ……」

「……」


 ・・・オワタ。


 ガバッ! と捲られた掛け布団、しかも全部捲られた。これが何を意味するか分かる? 当たり前だけどまずは九条と目が合うよね? で、当たり前だけどあたしのセクシーランジェリー姿の全容がさらけ出されるよね?


 し ぬ 。


 呆然、唖然、間抜け。全てを混ぜたような顔をして立ち尽くし、あたしをポーッと見下ろしてる九条。あたしは何を血迷ったのか満面の笑みを浮かべ、ウインクをしながら九条にチョコレートを差し出してこう言った。


「はい、チョコレート♡あーんしてあげるね♡?」

「……」

「……」


 バッ!! と勢いよく立ち上がって九条の胸ぐらを掴み、容赦なくガンガン振りまくるあたし。


「殺して、殺してくれぇぇ!! あんたにだったら殺されてもいい!! 心置きなく呪って呪って呪い殺せるからぁぁ!!」

「ちょっ、落ち着けよ馬鹿が! 死ぬわ!」

「落ち着いてられるかぁぁーーい! あたしの幼気な心が死に失せたわぁぁ!!」

「おいって、マジで落ち着け!」


 九条の胸ぐらを掴んでる手をガシッと掴まれて、ピタリと動きが止まるあたし。


「……コロシテ」


 ムンクの叫びバリの顔面をしながら九条を見上げた。さすがの九条も彼女がムンクの叫びヅラってのは嫌らしい、若干引いてる。


「やめろ、そんなツラでこっち見んな。で、なんなのお前」

「チョコレート、歓喜、バレンタイン、今日、男、セクシー、九条、ランジェリー、うぇーい」

「おいおい、日本語がめちゃくちゃになってんぞ」


 ・・・こんなはしたない格好して何を馬鹿なことしてんだ? ってそう思ってるよね。似合わねえ、可もなく不可もない乳しやがってって、そう思ってるでしょ?


「体冷えんぞ~」


 そう言いながらバスローブを持ってきた九条がそのバスローブをあたしに投げてきた。


「さっさと着ろ」


 分かってる、分かってた。そりゃあたしのこんなセクシーランジェリー姿なんて見ても、九条がなんとも思わないことなんて分かりきってたことじゃん。柄でもないことして、女として見られてないってことだけが露呈して、虚しい思いするだけじゃんこんなの。


 こんなこと、するんじゃなかった。


「はぁー。ったく、なぁに泣きそうな顔してんだよ」

「別にしてないし」

「泣きそうになるくらいなら、んなことすんなよなぁ。アホか、お前は」


 なによそれ。色気もねぇくせにそんな格好すんなって? んなもん見せられるこっちの身にもなれよって?


「お見苦しくて大変申し訳ございませんでした! どーせあたしには似合わないし色気もクソもないわ! あんたの好みなんて知んないし、だいたい巨乳なんてなりたくてなれるようなもんじゃないわ! なれたら苦労してないっつーの! 寄越せよ、だったら寄越せよ、あたしに乳を!!」

「だぁから落ち着けって、ドードー」


 あたしにバスローブを着せて、紐をぎゅっと強く締めてきた九条にあまりにも苛ついて思わず手が出た……けど、その手を優しく掴んで包み込んできた。


「ん? なんか言いてぇことあんじゃねぇの?」


 この男、ほんっとズルい。


「……今日バレンタインだし、あたし何も用意してなくて申し訳ないなって、そう思って。ちょっとでも九条に喜んでほしくて、何かしたくて、どうしようって考えた末路がこれです……ハイ」

「だろうな」

「へい」

「分かってる。お前が俺の為に一生懸命してくれたことも、恥ずかしくて死にそうなのも。だけどな、泣きたくなるほど嫌なら俺の為でも無理すんなっつってんの」


 え、そういう意味だったの? 勝手に泣きそうになるくらいだったら余計なことすんなよ、めんっどくせえーって言われてるのかと思った。


「……ごめん。でも、どちらにしろ九条のお気に召さなかったみたいだから、こんなのやり損すぎて今すぐにでも消えたいんですけど。恥ずかしくて死ねる」

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