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疑惑⑹

「俺にはそうやってデレデレしねぇじゃん」


 うん、しない。天と地がひっくり返っても絶対にしない。そんなキャラじゃないじゃん、あたしって。


「なに、こんな小さな子にまで嫉妬してんのー?」


 なんてふざけて言ったつもりだったのに、これはおそらく嫉妬してるパターンなのでは? だってめっちゃムスッとしてるし。


「俺はなぁ、年齢だのなんだの関係ねぇの。ガキだろうが老いぼれのジジイだろうが自分のモンにちょっかい出されんのは気に入らん」

「なにそれ」


 九条らしくて思わず笑ってしまった。でもこの笑いは馬鹿にしてるってわけじゃなくて、愛おしくて笑っちゃう系のやつね? 九条のこういう子供っぽいところも好き。なんかもうただただ可愛い。まぁ度がすぎると鬱陶しいけどね?


「ぼく飲み物ほしい」

「じゃあお姉ちゃんが買ってきてあげるから、このお兄ちゃんとここで待っててくれる? もしかしたらママと会えるかもしれないから、ね?」

「うん!」

「すごぉい! 元気のいい返事ですね~! じゃ、そこのコンビニで買ってくるからお願いね、九条」

「へいへーい」


 とはいえ、アレルギーとか心配だよね……とりあえずお茶と水と果汁100%系のジュースが無難かな? 何本か買っていこ。別に無駄遣いじゃないもんね、余ったら持ち帰って律達にあげればいいんだし。


 お菓子とかも買っちゃお。あおくんのお母さんと合流できたらアレルギーの有無確認してあげればいいし。あんなにも小さいのに1人で頑張ってるんだもん、ご褒美くらいあげてもいいでしょう!


 ・・・恐ろしいほどの合計金額にちょっとガタガタ震えながら『臆するな!』と言い聞かせ、支払いを済ませて九条達のもとへ向かった。コンビニで3千円ちょいはさすがにビビるわ。


「お前、なんだそれ」


 両手にパンパンのビニール袋を引っ提げてるあたしを見て呆れてる九条と苦笑いしてるあおくん。


 ── この後、交番へ行ったらあおくんのお母さんがいて、無事に再会を果たした。


 あおくんにいっぱい飲み物とお菓子を持たせてあげて、あおくんのお母さんからお金を受け取ってほしいってお願いされたけど、勝手にしたことだからって断った。


 改めてお礼がしたい、せめて名前だけでもって言われたけど九条もあたしも『名乗るほどでもないです』を貫き通すから諦めてくれたみたい。


 何度も何度も謝罪とお礼を繰り返して、あおくんと離れ離れになって本当に生きた心地がしなかったんだろうなってくらい顔は青ざめて体が震えてた。そんなお母さんのメンタル面が心配すぎて、旦那さんが迎えに来るまで一緒に近くのファミレスで時間を潰してなきを得た。


「じゃあね、あおくん」

「うん! ぼくお兄ちゃんみたいになるね!」


 うん、それはやめてー。絶対にやめとけー。と心の中で思いながら、儚い笑みを浮かべるあたしとドヤ顔の九条。


「でね? お姉ちゃんとけっこんするの!」


 ありがとう、涙がちょちょ切れるよ。是非ともよろしく。


「あおくんっ」

「悪いね、あおくん。残念ながらこのお姉ちゃんは僕のフィアンセなんだ。僕のなの、他探してね?」


 おい、貴様。余計なことを言うな、あおくんの可愛らしい夢を奪うなバカタレが! それにあおくんの両親がいるからって若干猫かぶってるからより一層腹立つわ!


「あら、やっぱそうなのね? お似合いよ、2人とも。美男美女カップルって本当に存在するのね」

「君達の幸せを祈ってるよ。今日は本当に申し訳なかった、ありがとう。この恩は一生忘れない、本当にありがとうございました」


 あおくん達とさよならした時にはもう外が暗くなってて、どうするのー? 状態だった。


「ったく。あんなガキんちょやらクソ陰キャやら幼なじみとやらにチョコだの菓子だのやるくらいなら、日頃お世話になりまくってる俺に寄越せっつーの、こんの馬鹿女が」


 ・・・たしかに、たしかに大変お世話にはなってるよ? たくさん助けてもらっちゃってるし。でも、なんか釈然としない。


「お世話になってるっていうか、むしろお世話してるのあたしじゃない?」

「ハッ、なぁに言ってんだか」


『呆れてものも言えんわ』と言いたげな表情とジェスチャーをしてる九条にイラッとしつつも、九条にも一応バレンタインのプレゼント用意しとけばよかったなってちょっと後悔してる。


 でもさ、だってさ、食べ物は腐るほどあるし? 物って言ってもあたしが買える物なんて知れてるっていうか、大した物買えないから九条に物をプレゼントするってハードル高すぎて、そもそもが無理なんだよね。安物を贈るわけにもいかないし。


 去年と違って今はカレカノって関係なんだから、誕プレはさすがに買ってあげないとなぁ。九条の誕生日に向けて貯金しよ、というかバイトしようかな。いや、無理か。多分体が持たないし、きっと九条が許してくれない。どうしよう。


 ていうか、今日機嫌悪かったのってもしかして、あたし(彼女)からバレンタインのプレゼントが貰えなかったから……とかありえる? いやいや、あの九条だよ? イベント事なんてクソ食らえなタイプの人だよ?


 でも、でもそうだったとしたら? あたしが悪いよね、絶対にあたしの落ち度でしかないよね? たしかにバレンタイン当日、彼氏になんっにも用意してない女ってヤバい……か。ヤバいよね、多分。


「あの、九条?」

「んだよ」

「これ、あげる」


 あおくんが選ばなかった飲み物とお菓子、要は余り物で律達にあげようとしてた物を差し出してみた。


「いらねぇよ」

「いや、あの、一応バレンタイン……みたいな?」

「あ? 余りもんかよ」

「じゃあ今から買いに行ってもいい?」

「ダメ」

「え、なんでよ」

「お前さ、この俺に既存品渡すつもり? 信じらんねえ」


 じゃあもういい、なにもあげない。


「じゃあ……もういい……です」


 既存品がダメって、どうしろっていうのよ。なにもあげれないじゃん、そんなんじゃ。なんか思ったよりもダメージ食らってる自分にびっくりしてる。だいたい用意すらしてなかったくせに、こんな被害者ヅラみたいなのもよくないよね。


 トボトボ歩きながらうつ向いて、この先なにがあっても九条にプレゼントなんて渡せないんだって思ったら悲しくて泣きそうなんだけど。


「はぁぁー。お前さ、馬鹿なの?」


 なんでこんな時にまでそういうこと言うかな。わかってるよ、自分が馬鹿だってことくらい。いちいち言わないでよ、特に今は。


「作りゃいいだろ別に。そんな顔すんな、俺がイジメてるみてぇだろ」


 イジメてるでしょ、実際。


「俺、飯もデザートも食いもんはお前が作ったやつがいい。ド庶民にしちゃあ悪くないんだよね~、味付けが。たまには貧乏くせぇ飯食うのも悪くはないしな。ほれ、ド庶民の気持ちも分かる金持ちっていいだろ?」


 いや、あんたには一生到達できないでしょうね。貧乏人の気持ちとやらには──。



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