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疑惑⑸

 だって、だってさ! 拓人は友達だよ? 幼なじみだし! 九条でいうところの凛様だよ!? 別に悪いことじゃないじゃん。それに九条だって凛様から貰ってたじゃん、バレンタインの高級プロテイン!


「九条だって凛様から貰ってたよね? それと一緒だよ? 深い意味なんてないし、毎年恒例だし」


 と、何もない床を一点集中で見ながら喋るあたしは情けない。でも、殺されたくもない。


「あらそ、まあいいわ。来年はこの俺が選んだやつあいつに渡せ」

「ぎょ、御意」

「んで?」

「えっと、それから霧島さんっ」

「あぁん?」

「に渡そうとしたけど『面倒なことになるのは御免なので』って受け取ってくんなかったから自分で食べた!」

「ほう、で?」

「んーっと、あとは隼人さん和美さん邦一さん」


 色々あったけど九条家のみんなには本当によくしてもらってて、九条がいなくてもワイワイやっちゃう仲になってる。そんなあたし達に九条は若干呆れてるけど。


「で」

「あと宗次郎にっ」

「は? お前っ」

「あげようかなって考えたけど考慮してやめた!」

「利口だな。で?」

「上杉先輩っ」

「あ?」

「にあげようかなとも考えたけど前田先輩の彼氏だしやめた。前田先輩には渡したけど」

「あらそ。で?」


 ええ、このやり取りもうこの辺でよくない? とか思うけど、それを九条が許すはずないもんなぁ。


「凛様と蓮様」

「蓮にまでやったわけー?」

「そりゃそうよ。お世話になってるし、あたしだけじゃなくあんたも」

「ちっ、そうかよ。で?」

「あとは胡桃ちゃんと胡桃ちゃんに許可を得て純くんにも」

「あぁん!? 純くんだぁ? ふざけんな、あんなクソ陰キャにまでやったのかよお前は」

「クソ陰キャとか言わないで! 全然そんなじゃないし! それに純くんにもお世話になってるし!」

「はあ、もう呆れてものも言えん」

「え、あ、ちょっ、待ってよ」


 ムッとしたまま部屋から出ていった九条の荷物と自分の荷物を持って慌てて追いかけるあたし。なんで不機嫌なの? ちゃんと全部話したし、嘘なんてついてないし、聞いてきたのそっちじゃん。


 チラッと見上げると、機嫌が悪そうなもののどこか上の空状態な九条。これは何を考えてるのか全く分からない時のやつね。ていうか、常に何を考えてるのかさっぱり分かんないんだけどね? きっと脳の造りが違いすぎて理解ができない。悲しいことに。


「あれ、霧島さんは?」


 いつも迎えに来てるはずの霧島さんがいない。こんなこと基本的にないはずなんだけど。野暮用がある時は別の迎えが来るし、あたしか九条に必ず連絡があるはずなんだけど。


「知らん」

「いや、知らんって……迎えどうするの? 霧島さんから連絡あった?」

「知らん」

「え、ちょ、歩いて帰るつもり!?」

「知らん」


 ・・・結局歩いて帰るっぽい。まぁ歩けない距離ではないけど、七瀬家に行くなら2時間ほどかかりますが?


 なんだかんだこうやって機嫌が悪くても、あたしを置き去りにして先を歩いていくことはない。というより、1回くだらないことで大喧嘩してあたしが九条を置いてったら、しつこいナンパ男に絡まれて……ってことがあったから、それ以降なにがあってもあたしを1人にはしない。九条のそういうところも好きなんだけどな、あたしは。


 バレンタインデーってことも相まって人通りが多い街。カップルやらカップルやらカップルだらけ。で、変装も何もしてないし、天馬の制服だからまぁ周りがザワザワしてる。


 “ザ! 九条柊弥”のまますぎてプチ騒動になりそうな予感しかしない。もう説明はいらないと思うけど、知らない人のために……九条は表に出てちょっとした活動をしたりしてて、若者を中心に人気で~って感じ。あたしその辺疎いからあまり把握できてないし、ぶっちゃけ興味もない。


 だって、あまり知りすぎても不安になっちゃうっていうか、嫉妬? みたいなのしちゃいそうだし。綺麗で可愛らしい子が多いじゃん? そういう業界って。だからあたしは無駄に詮索しないって決めたの。


 にしても九条も馬鹿だから普通に『彼女います』宣言しちゃって、そういう活動してるなら言わないほうがよかったんじゃないの? とは思ったけど、逆に好感度爆上がりしたみたいで『彼女大切にしてるってめっちゃ素敵~、最高!』的なムーブになったんだって、知らないけど。まあ、そういうのも九条っぽいっていうか、あたしのこと優先にしてくれてる感じが嬉しかったりもする。


 ・・・なんか無性に好きって伝えたくなってきた。でも今は違うかな、機嫌悪い時にそんなこと言われても『あ? 機嫌取りかよ鬱陶しい』とか思われそうだし、九条ならそう言いかねない。


 そんなことを考えながら歩いてると小さな男の子が泣きながらキョロキョロしてるのが視界に入った。パッと見た感じ周りに保護者がいるような気配はない。煌くらいの大きさだし、もしかして迷子?


「あれ迷子じゃね~?」

「うわー、かわいそー」

「でも今のご時世話しかけるのもなー、ダルいよな」

「ま、なんとかなんじゃね?」


 行き交う人は見て見ぬふり……というか、やっぱ時代かな。人を助けようと思ってもかなりの勇気と覚悟がいる。でも、ほっとけない。


「ごめん九条、あの子……」


 あたしの手を取って、何も言わずその子のところまで引っ張ってってくれた九条。あたしがあの子を助けたいって言わなくてもきっと分かってくれたんだと思う。『どーせお前のことだから助けてぇだのなんだのって言うだろ』って、そう言われてるみたい。


「九条、ありがとう」

「ん」


 大好きが止まんないな、ほんっと厄介な男。


「おいこらガキんちょ。泣くな、男だろ」


 いや、その脳筋思考やめなさいよ。ほら、この子怯えてんじゃん、馬鹿。あんた黙ってても図体大きくて威圧感半端ないんだからもっとこう優しく──。


「迷子か? ガキんちょ。そんなひっくい位置からじゃ見つかるもんも見つかんねぇだろ。高いの平気か?」


「う、うん」

「おら、乗せてやる」


 ひょいっと持ち上げて男の子を肩車する九条に心の中で拍手喝采。あんた完全に人の心を溝に捨てたんだと思ってたけど、ほんの少しは残ってたのね。ブラボー! ブラボー!


「おら、パパかママか知らねぇけどいるか?」

「ママいない」

「そうか」


 人多いし、多分交番に連れて行くのが無難かな。もしかしたらはぐれちゃったお母さんが来てるかもだし。にしても、煌みたいで可愛いなぁ。名前なんていうのかなぁ、聞くのって今の時代じゃマズい? まず自分の名前名乗れば問題ないかな?


「ねぇねぇ、お姉ちゃん舞って名前なんだけど、君は?」


 九条が肩車してるからめちゃくちゃ見上げなきゃいけない。男の子も肩車が嬉しいのか心なしか元気になってるし。


「あおくん」

「あおくんって言うんだぁ。かっこいい名前だね」


 可愛い、めっちゃ可愛い、天使ですか? あぁ、煌に会いたくなってきたなぁ。


「デレデレしてんじゃねぇよ」

「はあ? 別にしてないし」

「フニャフニャな顔してよく言うわ」

「してませーん」

「うぜぇ」

「なによ、意味分かんない」

「俺にはしねぇくせに」

「?」



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