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【おまけ】そっちのゴムかい 九条視点



 この俺が特定の女を作る日が来るとはね~。そんなことありえねぇとか思ってたが、まぁ実際は悪いもんでもねぇなとか思ってる自分に吐き気がするわ。キモすぎんだろ、こんなの柄でもねえ。キャラブレも大概にしとけっつー感じなこりゃ。


 なんつーかなぁ、こいつ見てると無性に触れたくなるわ甘やかしたくなるわ……チッ、なんなんだよこれ。無駄にモヤモヤすんのだるっ。


「おい」

「んー?」

「なんか腹立つこと言え」

「は? なにそれ。バーカバーカクーズクーズ。バカは~外、クズも~外」


 うん、ねーな。マジでうぜーわ、こいつ。『は? なにそれ』とか言いながらそんな曇りなき眼でバカだのクズだの連行すんじゃねーよ、つーか豆まきすんな。俺、お前の彼氏な? その以前に俺はあの九条財閥の御曹司な? 誰に向かってバカだのクズだの言って豆撒いてんだよ。ほんっと信じらんねーわこの女。でもまあ、好きなんだよな……こんな女でも。


 つーか、こいつに惚れた時点で俺の負けは決まってる。七瀬には敵わん、かなり癪だけどな。


「ハッ、お前みたいな女がモテる意味が分からん」

「それ、あんたにだけは言われたくないわ。だいたいあんな胡散臭い王子様スマイルでコロッと騙される女も女だと思うけど、ほーんと可哀想。アーメン」


 うぜぇ、どう考えてもうぜぇー。お前、ほんっと俺を苛つかせる天才だよな。マジで才能だわ、あっぱれあっぱれ。


「お前マジで俺の女でよかったな。じゃなきゃ今頃あの世逝きほぼ確だわ~」

「たまには気が合うみたいね? あたしも同じこと毎日考えてるわ~」

「あーそう、もういい黙ってろ馬鹿女が」

「はあ!? だいたいあんたが腹立つこと言えとか言ってきたんでしょ!?」

「あー、はいはい。わかったわかった~」

「ちっ、うざ」


 これが俺達の普通で通常運転、毎日ガミガミ言い合ってよくまぁ飽きねぇなって自分でも関心するわ。つーか俺が寛大だから成り立ってるだけだろこれ。やっぱ俺はそんじょそこいら男とはレベルがちげぇんだよ。


 んなわけでレベチな俺は今、七瀬ん家に来ている。


「あ、つーかさぁ、ご褒美は?」

「は? なに、ご褒美って」

「はあぁん? 忘れたとは言わせねーよ?」

「忘れた」

「お前ナメてんの?」

「だって覚えてないしー」


 なぁんか忙しなく部屋の片付けをしている七瀬。俺の問いかけに適当な返事をしてやがる。つーかさ、俺がいんのに部屋の片付け優先するとか信じらんねぇんだけど。まあ、ちょこまか動いてる七瀬を見てんのも悪くわねぇけど? とか思ってる自分に心底嫌気が差すわ。


 にしても、“ご褒美”とやらはいつもらえるんだよ。キスだってろくにさせてくんねーし、その先のことなんてまあ、無理だわな? どう考えても。


 つーか、七瀬が連れ去れたあの日、俺の唇に指を押し当てて『ねえ、九条。九条が絶対に喜ぶものあげるから……先に帰ってて? 我慢できたらご褒美あげる。ちゃんと連絡するから……ね?』とかなんとか言ってたの、どこの誰だっつーの! お前だろうが!


「俺が絶対に喜ぶものあげるから先に帰ってろってお前が脅してきた時があったろ」


「え? ああー、拐われた日ね~! たしかにそんなようなこと言った気がするようなしないような~」


『え? ああー、記念日ね~!』的な軽いノリやめてくんね? あん時マジで生きた心地しなかったしな、俺。つーかお前だってビービー泣いてたろ。


「で? ねえの? さっさと寄越せよ。そのご褒美とやらを」


 ま、間違えなくキスか……あわよくばいよいよか? 俺どんだけヤってねぇんだろうな。セックスなんてもう数ヶ月してねーわ。この俺がよく我慢してると思わねー? 別にヤろうと思えばヤれるタイミングなんざいくらでもあったんだけど、まぁなんつーか? 七瀬はハジメテなわけだから優しい俺は気ぃ遣ってやってるってわけよ。マジいい彼氏すぎじゃね? 泣くわ。


 いざとなりゃ俺が七瀬の心も体もでろんでろんに愛して……いや、待てよ。なんかすんげぇ緊張すんだけど。なんだこれ、なんでこんなにも緊張してんだ? 童貞でもあるまいし。セックスなんて数えきれないほどしてきただろ? いや、理由なら自分が一番よく分かってんだろ。“好きな女を抱くのはハジメテだから”……どう考えてもコレだろうな。


 ああ、やっべ。なんつーかマジで心臓いてぇ。えっと、まず何をどうすればいいんだっけか? つーか、セックスってどんなんだっけ。いかに自分が今まで適当に女を抱いていたのかがよーく分かるわ。我ながらクズだなとしか思わん。


 ここで抱くのはさすがにヤバくねぇか? こんなボロ家なんざ外でヤってんのと変わんねーだろ、声ダダ漏れじゃね? 七瀬の声は身内にすら聞かせたくねえ。つか、そんな趣味ねーし。となると、ここでヤるのは現実的じゃねぇか。いや、とりあえず今日は家に誰もいねぇし、まあなんとか声を抑えてもらって~的な? もしくは声出せねぇように俺が七瀬の口を塞ぐ……とかか?


 やべっ、勃つわコレ。


「なあ、七瀬」

「ん~?」

「お前さ、ゴム持ってる?」

「え? ああ、うん。たくさん持ってるよ? いる?」


 お、いいね。んじゃヤりたい放題じゃーん……って、は? はあぁぁん!? おいおいおいおい、待て待て。お前処女っつったよな? いや、言ってはねえかもだけど処女だよな!? なんでゴムなんて持ってんだよ、なんで処女がコンドームなんて持ってんだよ、しかもたくさんだぁ!?


「あ? お前なんでそんなもん持ってんだよ。誰と使いやがった。あ? 言えよ。相手は誰だ、殺すぞ」


 洗濯物を畳んでる七瀬の目の前にしゃがみ込んで、顔を覗き込むようにガンを飛ばすとフッと鼻で笑われた。その顔すら綺麗で可愛いとか思う俺はどうかしてんだろうな、もう病気だろこれ。


「なに言ってんの? あんた。そこの棚開けてみてー、たくさん入ってるから」


 は? 俺に開けろってか? 鬼畜すぎんだろ、神経疑うわー。お前のこと処女だと思って気ぃ遣ってた俺の純粋な気持ち返せよ。


 はぁぁー、そうかよ。七瀬のハジメテは俺じゃなかったのかよ──。そう思ったら無性に腹が立ってクソイライラしてきた。


「……ちっ、ああそうかよ! 見ろってか!? お望み通り見てやるよ!」


 ガンッ!! と棚を開けて中を見てみると、そこに入ってたのは大量のゴムだった……まあ、そうだな? ゴムだわなこれは。そう、髪を束ねる""ヘアゴム""な。そっちのゴムかい。ったく、んだよ……紛らわしいにもほどがあんだろうが、この馬鹿女が。


「ゴムなんて何に使うの? まあ、好きなの使ってくれていいけど?」

「……ああ、いや……うん、いいわ」

「そ? あ、九条」


 振り向くと俺の後ろに七瀬が立っていた。なんつーか、すんげえ安心したら無性に欲しくなった、どうしようもなく七瀬が欲しい。七瀬を引き寄せてキスしようとすると……ベチンッ! となにかが顔面にぶつかってきた。


「はい。これがご褒美」

「……は?」

「え?」

「はあ?」 

「ん? だって好きでしょ? 少年誌。あんたが絶対に喜ぶと思って~。あ、安心して? 今日発売されたやつだから。まだ買ってないし読んでないでしょ? 今読んだら?」


 はあーー、こんの女マァジで腹立つわ。でも、可愛くてたまらん。


「サンキュー」

「いえいえ……ねえ、九条」

「ん~?」

「ありがとう」

「あ? なにが~?」 

「色々と」


 穏やかで、綺麗なのにどこかあどけない表情。そんな顔でニコッと微笑んでくる七瀬に胸が高鳴る。柄にもなくときめいちゃったりすんだな、こいつには。


 ああ、なんでこうも愛おしいかね。俺の世界はこんなにも鮮やかだったか? 輝いて見えてたか? こうして俺の世界が色付いて見えんのは、紛れもなくこいつのおかげだろうな──。そんなこいつに俺はなにをしてやれる? もっと、もっと幸せにしてやりてぇ。この世で一番幸せだと思えるほどに。


「なに、どうしたの?」


『どうしたの?』じゃねーよ。好きだの愛してるだのなんて言葉じゃ言い表せねぇくらい、お前が愛おしくて愛おしくて気が狂いそうなんだっつーの。


「はあー。なんだお前、無駄に可愛いのやめてくんね? 我慢すんのキツいんだけど? なあ、わかるか? この意味」

「……さぁぁてっ! 勉強でもしよっかなー? 整数の性質について語らないかい!?」

「お前、整数の性質がなにかも分かってねーだろ」

「は、ははは! 嫌だなぁ九条くーん! よし、忙しい忙しい!」


 七瀬が分かりやすく話を逸らしたのは言うまでもない──。まあ、焦る必要もねぇし七瀬のペースに合わせるけども。無理矢理なんてシしたくねーし? でもまぁそろそろ溜まりに溜まってキツいっちゃキツいんだよなー。禁欲もぼちぼち限界だろ、これは。


「はぁぁ、そろそろ抜くか」

「え? なんか言った?」

「いや、こっちの話~」

「ふーん?」


 俺達が体を重ねるのはまだまだ先の話になりそうだな。ま、仮に七瀬を一生抱けなかったとしてもそれはそれでいい。それ目的で七瀬と一緒にいるわけじゃねぇし、俺はこいつが傍にいてくれりゃなんだっていいらしい。


「ハッ、こりゃ重症だな」

「あんたのクズさが?」

「あ?」

「え、あっ、ちょっ……」


 逃がさねえ、この先もずっと俺の傍にいろ。



『俺様御曹司は逃がさない』一旦完結です!


最後の最後までお付き合いいただきありがとうございました。いつか続編……があれば、またお付き合いいただけますと幸いです!

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