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Shall we dance?⑥

 グンッと近づいてきてほぼ並走して走ってる。高速道路だから100キロ以上余裕で出てるよね? なのに、車からあんなにも身を乗り出している九条は……きっとイカれてる。でも、それがあたしの為なんじゃないかって……そう思うと胸がアツくなって苦しい。


「七瀬!! 飛べ!!」

「うん!! ……て、はあっ!?」

「飛べ!!」

「はあ!? む、無理に決まってんでしょ!?」 

「さっさと飛べ!! こっちに来い!!」


 いやいや、無茶言わないでよ!! 馬鹿じゃないの!? こんなところで飛んだら死ぬ、マジで死ぬって!!


 そんな無茶振りをしてくる九条は車から身を乗り出して、必死にあたしへ手を伸ばしている。


「俺がお前を受け止める、絶対に離さん。死んでも離してやらん。だから、俺を信じて飛べ!!」

「お、おいっ!! その女を逃がすな!!」


 そっか……簡単なことじゃん。あたしはただ、無条件に九条を信じればいい。だって九条がいれば、なにも怖くない。


「九条っ!!!!」

「来い、七瀬!! 大丈夫だ、俺がいる!! 信じろ!!」


 あたしはもう何も迷わない。だから、躊躇することなく九条のもとへ飛んだ。


 ── そして、しっかりあたしを受け止めてくれた九条は、あたしを衝撃から守る為に包み込むようにあたしを強く抱きしめた。あたしが飛び付いた反動で後ろへ勢いよく倒れて、ドアにダンッ!! と激しくぶつかる。


「……く、九条……」

「っ!! ……霧島、スピード落としてどっかに停めろ」

「おう。柊弥……よくやったな」

「お前を運転手に選んでよかったわ」

「泣かせんじゃねーよ」


 あたしをギュッと抱きしめて、頭を優しく撫でてくる九条。


「七瀬、悪かったな。怖い思いさせて」

「ううん。平気」

「震えてんぞー」

「うっさい。怖くないし武者震いだし」

「はっ。やっぱ強ぇなお前」


 九条という存在がどれだけあたしを安心させて、弱くも強くもするのか……きっと本人は知らないんだろうな──。


「……っ、ごめん。本当は怖かった……九条……っ、会いたかった……っ」

「珍しく気が合うな、俺も怖かった。お前に会いたくて、声が聞きたくて、気が狂いそうで仕方なかったわ」

「あたしもっ、九条にまた会えて声が聞けてっ……よかったぁぁ……っ」


 泣きじゃくるあたしを九条は何も言わず、ただ強く、そして優しく包み込んでくれた。霧島さんは路肩に車を停めて、気を遣ってくれているのか外にいる。


「お前、手首……足首も怪我してんじゃねーか。さっさと言えよこの馬鹿が!! 血が滲んでっ」

「そんなことより! 舞踏会! 行かないと!!」

「は?」

「いや、『は?』じゃなくて! 行くよ!? 早く!」

「お前、それマジで言ってる?」

「うん。大マジ」


 目が点になって間抜けな顔をしてる九条。


「こんなことがあって怪我もしてんだ。行く必要なんてっ」

「ある! あたしの怒涛の1週間を無駄にするわけにはいかない! それに、どうせなら特別賞与が欲しい!」

「お前、こんな時まで守銭奴すぎるだろ。つーか、タフすぎてドン引くわ。マジかお前」

「いいから行くよ!? あたしと踊りたいんでしょ? あんた。仕方ないから相手してあげる」

「……ああーーマジでお前、ほんっと可愛くねぇな。相手してやるのはこっちな?」


 お互いフッと鼻で笑って、あたし達は体を伸ばすべく一旦車から降りた。


「いってぇ、大丈夫か? 七瀬」

「いたたぁぁ……うん。あたしは全然大丈夫」 

「本当に大丈夫なのか?」


 あたしを見つめる九条の瞳は、心配と不安で揺らいでいた──。こんな弱々しい瞳をする九条もなかなか珍しい。あたしが不甲斐ないせいで、九条に責任を感じさせて背負わせてしまったかもしれない──。


「ふんっ。余裕だっつーの、貧乏人ナメんな」


 そう言ってニヒッと笑うとデコピンされた。


「バケモンか、お前は」

「はいはい、なんとでも言ってください。ていうか、あたしのドレス姿を見て鼻血噴射しながらブッ倒れても、絶対に助けてやんないからね~」

「そりゃこっちのセリフだっての~。俺のタキシード姿見て、悶絶しながらキュンキュンしとけよ」


 あたし達は向き合って、ガンを飛ばし合う。九条を見上げながらフンッと鼻で笑い、あたしを見下ろしながら小馬鹿にするように笑ってる九条。


「「絶っっ対にキュン死させてやるから」」

「お前らソレ、主旨が変わってきてねーか?」


 そう言いながら笑って煙草を吸っている霧島さん。それにつられて九条もあたしも笑い合った。


 ── そして、あたし達は急いで九条家へ向かう。


 九条家へ着くと心配そうに出迎えてくれたのは、邦一さんと隼人さんと和美さんだった──。


「大丈夫か? 小娘」

「すまないね。君を危険な目に遭わせてしまった」

「舞ちゃん……本当にごめんなっ」

「あたし、この人のサーバントになるって決めた時に、ある程度のことは覚悟したし、していました。今回の件だって正直予想の範囲内です。あたしが不甲斐ないばかりにしてやられました、すみません。なので、九条家の人達が悪いわけじゃない。それに、この人(九条)が助けてくれた……だから、謝ったりしないでください。あたし、九条のサーバントは絶対にやめないし、死にませんから意地でも! 何が来たって受けて立ってやりますよ! どんと来やがれって感じです!」

「だってよ。こいつ、ちょーっとイカれてんだよねえ」


 “頭くるくるパー”のジェスチャーをしながらヘラヘラ笑ってる九条の足を踏みつけると、その場にいた全員が笑って場が和んだ。


 それからしっかり手首と足首の手当てをしてもらった後、ドレスに着替えて髪のセットやメイクを全てしてもらう。


「あの子ったら、廊下でうろちょろしてるわ」

「『おっせぇ』とか思ってるんじゃないですか?」

「ふふっ。それはどうかしら……もう準備はいい?」

「あ、はい」

「とっても素敵よ? 舞ちゃん。本当に綺麗だわ……柊弥には勿体ないくらい可愛い」

「いやいや……」

「謙虚ね~。なら、柊弥呼んでもいいかしら?」

「あ、はい。どうぞ」


 ルンルンで部屋から出ていった和美さん。


 そして、ガシャッと音がして後ろへ振り向くと、そこに立っていたのは……タキシード姿の九条。


 周りの音も何もかも、全てがスーッと消えていって、このフワフワしてキラキラと輝いてる空間に、あたしと九条だけが取り残された──。九条以外なにも見えなくて、九条しか視界に入って来なくて、この世界にはあたしと九条だけ。


 あたしの世界があなたの色に染まっていく──。


 あたしの瞳に映るあなたがとても愛おしいと思えた。


「馬子にも衣装だな」


 ──・・・その一言で一気に現実へ引き戻される。きっと、“愛おしい”……そう思ったのは気のせいだろう。うん、ナイな、ナイナイ。うざいとしか思えないわ。うん、うっざい。


「あんた、本当に容姿""だけ""は無駄にいいよね。カッコいいよ? 見てくれ""だけ""は」

「あらそ~。そんな褒めてもなぁんもないよ~?」

「褒めてない、貶してんのー。だいたいあんたはっ」


 優しく引き寄せられて、フワッと九条に包み込まれたあたし。



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