Shall we dance?④ 九条視点
「ったく、なにしてんだ? あいつ」
連絡するっつったくせにどうなってんだよ。もう21時すぎてんぞ。メッセージもなければ電話かけても出ねぇし。
── にしても、あいつがあんな顔するなんてな。
俺の唇に指を当てて微笑んでる七瀬の顔が頭から離れない。息を呑み、呼吸を忘れるほどあの瞳に引き込まれて、そのまま吸い込まれるんじゃねぇかって内心焦った。元々見てくれだけは悪くないと思ってたが、本当に綺麗なんだよな……あいつ。
そんなことを思いながら、メッセージ画面をボーッと眺めていると、メッセージが全て既読になった。
《電話ごめーん。今帰ってきた!》
《こんな時間まで何してたんだよ》
《補習とか諸々~。めっちゃ疲れた~》
《馬鹿は大変だな》
《馬鹿じゃないし。とりあえずお風呂入って寝るね? おやすみ~》
── 無性に七瀬の声が聞きたい。
《風呂上がったら電話して来い》
《元気があったらね》
で、結局あいつが電話をして来ることはなかった。ま、慣れないことして疲れてんのは分かってる。あいつの努力も、頑張りも、ちゃんと分かってる。あいつが自分のため以上に、他人のために頑張れる奴ってこともな。
あいつは今、自分の為つーより俺の為に頑張ってる。自惚れじゃなく、あいつの隣にいてそう感じる。そんな頑張る必要もねぇのにな。
・・・俺が気づかない間に追い込んで、追い込まれて、壊れた時……俺はあいつに何をしてやれる? 本来、そうなる前にあいつを手離せば済むこと。だけど、元よりあいつを手離す……という選択肢が俺の中にない。
「手離せるわけねぇよな」
そう呟きながら目を瞑り、俺は眠りに就いた。
── 翌朝
スマホがガンガン鳴り響く音で目が覚める。
「……ちっ。んだよ、うっせぇな」
スマホを手に取り、ディスプレイに表示されていた名前は霧島だった。
「ったく」
枕にスマホを置いて通話ボタンを押し、スピーカーにする。
〖おい、霧島。お前なんの嫌がらせっ〗
〖やべーぞ柊弥!!!!〗
霧島の焦った声……というより、もろ素が出ていることに対して、これはただ事ではないと察した。すぐスマホを手に取り起き上がる。
〖どうした〗
〖七瀬ちゃんがいなくなった!!〗
『七瀬ちゃんがいなくなった』その言葉に一瞬、全ての思考回路が閉ざされて何も考えられなくなった──。
〖── い。おい、柊弥!! しっかりしろ!!〗
霧島の怒鳴り声で我に返る、ボケッとしてる場合じゃねえ。
〖いなくなったってどういうことだ〗
〖昨日、七瀬ちゃんの親さんのほうに《九条の家に泊まるから》ってメッセージがあったらしい!!〗
つーことは、俺が昨日連絡を取り合っていたのは七瀬本人じゃねーってことか、クソが!!
〖天馬には連絡したか!? あいつ天馬にいたろ!!〗
〖したに決まってんだろ! 20時頃に正門から出ていった記録が残ってる!〗
〖九条の全総力を挙げて七瀬を捜せ、何一つ見落とすなよ。霧島、お前は俺ん所に来い、総指揮は榎本にやらせろ〗
〖了解〗
── こうなったのは俺のせい? 俺のせいなのか? いや、俺のせいか? ……じゃねえ。“俺のせい”でしかねぇだろ、こんなもん。
恐れていた万が一が起きたのは全部、“俺”が原因でしかない。なにしてんだ、俺は。
「クソがよっ!!」
投げ付けた本が窓ガラスに当たって、ガラスが砕け散った。
言い訳も後悔も七瀬を助けた後だ。今はただ、七瀬を助けることにだけに集中しろ──。
「── やる、ひとり残らず……ブッ殺してやる」




