Shall we dance?①
── 天馬舞踏会。
「舞踏会とは西洋における正式なダンスパーティーです」
「前田先輩、ここはジャパンです。西洋の真似事はちょっと……ソーラン節でいいと思います。そう、日本の誇り。ソーラン節っ」
「舞踏会で踊られるダンスの種類は10種類以上あり、ジルバ・マンボ・ブルース・スクウェアルンバ・ワルツ・タンゴ・スローフォックストロット・クイックステップ・ヴェニーズワルツっ」
「ちょちょちょちょっ……! 待ってください前田先輩! 横文字が多すぎてあたしの可愛い脳ミソがパンク寸前です!」
「もうキャパオーバーですか? そのキャパシティの狭さ……なんとか拡張しなければなりませんね」
「人の脳ミソ開拓しようとするのはやめてくれませんか。怖すぎます」
だいたい舞踏会なんてそんな場違いな所、あたしは行きたくないんですけどー。どうせあたしだけでしょ? 初心者。踊れて当たり前なんでしょ? 天馬の生徒達は。不慣れなダンス+ドレスにヒール……絶対転けるわ。断言する……いや、宣言する。
・・・あたしは転けるぞ!!
いっそのことあたしだけソーラン節踊っちゃおうかな~。ドレスでソーラン節踊っちゃおうかな~。ソーラン! ソーラン! しちゃおうかな~。
「七瀬さん、死んでもソーラン節など踊らないように」
「ああー!! 前田先輩がソーラン節馬鹿にしてるぅー!! 日本人失格ですよ!? 謝ってください! ソーラン節に!」
「ソーラン節を馬鹿にしているわけではありません。私は貴女を馬鹿にしているんです」
── それはそれで酷くないか。
「もう無理ゲーじゃないですか、これ。あたし無理なことは無理にしない主義なんです、以後お見知り置きを。舞踏会当日、体調不良になる予定なんであたし欠席しまーす。九条様のお相手はてきと~に踊れる人でも充てといてください」
「あら、そうですか……それは残念です。今回クリスマス当日の開催ということもあり、急遽で異例のことですから、サーバントには""特別賞与""がっ」
「ほう、なるほど。その金額……詳しく」
目がお金に変わったのは言うまでもない。だって、あたしにはお金が必要ですから!! さっさと九条に2000万返さないと、あたしは一生あいつから離れられない。そんなの生き地獄でしょうよ。
「舞踏会の開催時間は3時間程度。そして、その3時間で発生する特別賞与額は──」
「額は……?」
ドラムロールの効果音が鳴り響く。
「ざっと、25万円です」
「にっ、にじゅっ、ごっ、にじゅっ、ごっ」
「七瀬さん、落ち着いてください」
「に、にっ、にじゅうごまんえんーー!?」
「クリスマスの“25”日にかけて、“25”万円だそうですよ? くだらないですよね」
── く、くっ、くだらない……だと!? いや、もう規格外すぎて意味分かんないけど、分かりたくもないけど。それを考えた人が天才すぎてあたしは一生頭が上がんないよぉぉー!
「そう……ですか。それは仕方ないですね、そこまで言うのなら……やりましょう」
「相変わらずの守銭奴ですね」
「お金が必要なんです。何とでも言ってください」
「いいのですか? クリスマスですよ?」
── クリスマス。
クリスマスとは、イエス・キリストという人の誕生をお祝いする日……とされている。 世界中の人の幸せをお祈りする日でもあるとか。なのに、そんなクリスマスはいつからカップルの行事と化したのだろうか。街はどこへ行ってもクリスマス一色。カップルの群れ……群れ……群れ!!!!
幸せそうでなりよりだよ。ええ、なによりです。心の奥底から出る本音── リア充め、爆発しろ。
「クリ……スマス……? ああ、クリスマスですか。クリスマスなんて所詮は赤の他人の誕生日ですよ? ぶっちゃけ祝う義理はありません。ウチにそんな余裕ないですしー」
「予定は無かった……という認識でよろしいですか?」
「ええ、よろしいですよ。それ以外に何があるって言うんですか。やめてくださいよ、言わせないでください。ええ、僻みですよ。羨ましいですよ、リア充共が。これ以上傷口に塩を塗らないでください。とても痛くて涙で前も見えなければ、明るい未来も何一つ見えないです」
「大袈裟な……」
「前田先輩は“彼氏”がいるからそんなこと言えるんですよ! 舞踏会終わった後に上杉先輩とイチャイチャするんでしょ!? あたしなんて彼氏いない歴=年齢的な女の気持ちなんて前田先輩には……ま、前田……先輩……?」
ゴゴゴゴーーという地鳴りのような音と共に机が揺れ始め、前田先輩から禍々しいプレッシャーが解き放たれる。
・・・えっと、あたし……なんか……まずった?
「ハハハ。えーっと、前田せんぱぁぁい? 上杉先輩と……何かありました?」
「いえ、特に」
ガタガタガタガタッ!!!!
教室全体が前田先輩のプレッシャーに耐えきれず、凄まじい勢いで震え始めた。
「ま、前田先輩!! おっ、落ち着いてください! 教室が悲鳴を上げています! 教室が……あたし達の学舎がっ! 泣いてるよ!? 前田先輩っ!!」
「……ふぅーー、すみません。少々取り乱しました」
いや、あれで“少々”とかシャレにならん。
「で、どうしたんです~? 恋愛のスペシャリストである、この七瀬舞でよければ話くらい聞きますよ~?」
「彼氏いない歴=年齢の七瀬さんが恋愛のスペシャリストとは……分からないものですね」
「もぉ、冗談ですよ~。真に受けないでください」
「受けていません」
「……前田先輩。最近あたしをイジメることにハマってはいませんか。大丈夫ですか?」
「フフッ」
笑って誤魔化すなぁぁーー!!
「あ、あの……あたしのせいだったらすみません」
「違いますよ。七瀬さんのせいではありません」
「だって、あたしのせいでお二人の時間が……」
「……あの人、私になんて言ったと思います?」
「え?」
「『クリスマスなんて嫌でも毎年来るだろ。今年は舞踏会の成功だけを考えればいい。遊んでいる暇などない。お前も浮かれるな、気を引き締めろ』……だそうですよ?」