行き違い⑧ 九条視点
ま、この俺が選んだ女だからな。“普通”なわけがねえじゃん？ そんな“普通”をことごとくブチ破ってく七瀬に、この場にいる全員が“開いた口が塞がらない”状態になっている。
「ハイハ～イ。お前ら～、""七瀬様""の言うこと聞かないとブッ飛ばされんぞ～」
なんて言いながら七瀬の肩を組もうとしたら、ノールックグーパンが顔面に飛んできた……ま、防いだけどね？
「おっかねぇな、お前」
「だと思うなら馴れ馴れしく触れて来ないで」
「なぁに言ってんだかぁ～。お前に触れていいのはお前の“マスター”であるこの俺だけだろ？」
「あんたがなに言ってるのよ。寝言は寝てから言ってくれる？」
「へいへーい。で？ どうしたいわけ？ もうお前の好きなようにしろよ。お前の馬鹿さに心底呆れ返ってなーーんも言えん」
「……ありがとう、九条」
「えらく素直だな」
「うっさい」
ああ、やっぱこの女マジで欲しいわ……七瀬の全てが欲しい。喉から手が出るほどこいつが欲しい……そう再認識するこになっちまったな。
全部ブッ壊して、全てかっさらっていく──。何もかもが覆させられるわ、ほんっと。
「あのさっ……！！ 私が、私が宗次郎君に話をっ」
「俺が叶さんを巻き込みました。ま、叶さんも色々とあったみたいだったし、利用する手はないかなって。あっさり戦線離脱しちゃって使い物にならなかったけどね。叶さんは俺の言う通りに動いた……ただそれだけ。ね？ 叶さん」
「ち、違っ」
「ほら、やっぱ宗次郎はそういう人じゃん」
「は？ なにが」
「あたし、ずっと引っ掛かってた。宗次郎にあんなことは絶対にできないって」
「なにそれ。この期に及んでまだ俺を信じようとしてるの？ 舞」
「だって、あたしに触れようとするたびに躊躇してた。迷ってた、戸惑ってた。そんな人があんなこと、できるわけがないでしょ。もう根が優しすぎて悪役なんて向いてないよ？ 宗次郎」
── 宗次郎がしたかったことは何となく分かる、兄貴に対する嫌がらせってとこだろ。ま、度が過ぎてるわな。
「舞はさ、俺にどうしてほしいの？ 俺、あの人に殺られる覚悟でここへ来たんだけど」
「あたしはあの時、何もなかったって宗次郎の口からちゃんと言ってほしい。あたしの望みはただそだけ」
「……あぁそう。ないよ、何もなかった。あるわけないじゃん」
七瀬を真っ直ぐ見て、そう言い切った宗次郎の目に嘘はない。
「そっか……そっか。だよね、そうだよね……」
ホッと胸を撫で下ろしている七瀬。ぶっちゃけ俺もホッとしてるわ、だっせぇけど。
「舞の服を脱がしたのも、キスマークを付けたのも俺じゃないから安心してよ。ま、俺の言うことなんて信じられっ」
「あたしは信じるよ。今まであたしのことフォローしてくれて、言葉をオブラートに包むってことが全くできない宗次郎が、本当の宗次郎だってあたしは思ってるから」
「……本当に甘いね、舞は」
まったくだな、ゲロが出そうなほど甘ちゃんだわ。
「九条様、七瀬さん、私を処分してください。責任は全て私にあります」
「ねえ、上杉先輩。目を逸らして、背を向けて、見ないふり、知らないふり……それはもう今日で最後にしてください。宗次郎もだよ。いつの間にか入ったしまった亀裂が徐々に拡がって、修復できたのに、それをしなかった……してこなかったのは、あなた達兄弟の問題でしょ？ でも、大丈夫だよ。戻れない、戻らない亀裂って当たり前に存在すると思うけど、上杉兄弟は大丈夫。だから、しっかり向き合って」
こいつはいつだって“自分”のことより“他”を優先にする。根っからのお人好しだな。
「ま、それがお前ら兄弟に課せられた罰と思えばいいんじゃねーの？ いいじゃん。こんだけ拗れた兄弟で話し合えってさ、結構鬼畜だよね～。で、俺からも１ついいか？ まず、上杉。お前はこのまま凛の為に、天馬の為に、そして……俺の為に働け。異論は認めん、以上。で、宗次郎。お前はマジで気に入らん。だから、もういっぺん“サーバント”として、天馬を受け直せ。んで、上杉より好成績で入って来い。お前に“地獄”を味わわせてやるよ。簡単に上杉を超えられると思うな？」
「あたしもそれがいいと思う。だって宗次郎、サーバント向いてるよ。あたしなんかよりもずっとね」
「「「「「「当たり前だろ/でしょ」」」」」」
全員が総ツッコミしたのは言うまでもない。
── こうして仲違い、行き違い、全てが丸く収まった。
「は？ いや、まだ収まってないでしょ」
「あ？」
「いや、あんたの“彼女疑惑”。あれ、どう説明してくれるわけ？」
「ヒ ミ ツ」
「はあ？」
「大丈夫だって～。んな心配しなくても～。俺は誰の“もの”にもなってないから～」
「はあ～？ 別に心配なんてしませんけど？ どうぞご自由にー」
「ったく。素直じゃないね～」
「うっさい」
結局、七瀬にドラマのことは言わないと心に強く誓った──。
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