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行き違い⑦ 九条視点

 


 ── 違和感。ここ数日、ずっと感じていた違和感の正体が明らかになった。


 いつの間にやらあの凛でさえ、七瀬に心を許し始めている。どうやら何かがきっかけになったらしい。俺はその出来事さえも、さっき霧島から追加で送られてきたメッセージで知った。


 まあ、詳しくは知らん。全容を聞くまでもなくだいたいの見当は付く。茶封筒、椿川の父親、椿川と俺がタッグを組む──。一連の流れは全部、宗次郎がそう仕向けてたってわけか。


 宗次郎が仕組んだ罠、俺の中で全てが繋がっていく。


 俺はそれにまんまと“嵌められた”ってわけね。要はしてやられたってこったな。あいつ、俺の性格も加味した上で全部仕組みやがったな……ったく、ナメた真似しやがって。


 まあ、一番重要なのは七瀬に実際手を出したか、出していないか……だ。これ以外はぶっちゃけどうでもいい。よくはないが、この際どうだっていいと思えるほど宗次郎と七瀬が体を重ねたのかが気になる。


 まぁでも、宗次郎のことだからな。そんな非道なことヤれねえとは思うけど。


「すまない、柊弥」

「私からも謝るわ。ごめんなさい、柊弥」

「あ? んだよ、らしくねーな」

「僕がこの事をちゃんと報告していれば、勘のいい柊弥なら何かに気づけていたかもしれない」

「買い被りすぎだっての。仮に言われてたとしても分かんねぇわ。それに、どーせこいつだろ? 『お願いします! あそこで会ったことは九条に言わないで! 絶対に!』とでも言われたんでしょ? お前ら」

「……まさか、宗次郎とそんなことがあった後に私を助けてくれただなんて。貧乏人って本当にタフね」

「蓮様も凛様も約束を守っていただきありがとうございます」


 ま、護衛が2時間ほど七瀬を見失ってたのは宗次郎とのゴタつきと、凛達のこの件を含む時間だろう。しっかし……あの様子だと咲良も一枚噛んでるクサイな。


「おい咲良、なんか言うことはねぇか」

「ご……ごめんなさい。私っ」


 咲良が何かを言いかけた時、ガチャッとドアが開いて、上杉に拘束されながら何食わぬ顔で宗次郎が入ってきた。


 宗次郎を姿を目に捉えた瞬間、七瀬とのベッドシーンが頭を過る。全身の血液が煮えたぎるようにアツい。沸騰した血液が全身を巡って血管がブチブチと音を立て腫れ上がっていく。今にもブチ切れそうになった。


 頭では“冷静に”……そう思ってたはずだ。なのに、気づいた時にはもう体が勝手に動いていた。


「なぁ、覚悟はできてんだろ? まだへばんじゃねえ……。俺のモンに手ぇ出すとどうなるか……お望み通り、殺ってやるよ」

「九条っ!! もうやめて!!」


 その叫び声で我に返った。俺の腕にしがみ付いて必死に止めてる七瀬。俺はどうやら宗次郎の上に乗っかって、何発か殴ったっぽいな。宗次郎の顔は腫れ上がり、所々出血してる。


「はっ、驚いたな……俺を殺るまで止まんねぇかと思ったけど。やっぱあんたの強みも弱みも舞なんだな。大丈夫か? そんなんで。また足元掬わんぞ」 

「あ? ナメた口利いてんじゃねぇぞ、クソガキが」

「もうやめてよ……どうして、なんで誰も止めないの?」

「舞ちゃん、これは当然の報いなんだ。それだけのことを宗次郎はしてしまった。“誰の何に”手を出したか、それは身を持って償うしかないんだよ」

「……ねえ、上杉先輩、先輩はそこで何をしているの……?」

「私はもう、貴女と話すことさえ許されぬ身です……」

「上杉先輩は宗次郎の家族でしょ? ……兄弟なんでしょ? 宗次郎のお兄ちゃんなんでしょ? ……なのに、どうして……なんで守ってあげないのよ」


 すると、俺の腕を必死に掴んでいる七瀬の手が、体が、プルプルと小刻みに震え始めた。


 ── しまった。俺はまた、こいつを怖がらせて泣かせちまったのか? そう思いながら七瀬をチラッと見てみると……は? 泣くどころか激オコ般若モードに変貌を遂げてやがる。


「お、おい、七っ」

「おめぇらさ……マジでいい加減にしとけよ」


 ・・・おいおい。不良少女乱入!? ご乱心の巻! 的なノリになってっけどいいのか? これで。


「どいつもこいつも頭沸いてんのか? あ?」


 ・・・いや、沸いてんのはお前だろ。確実にお前が沸いてんだろ。


「だいたいおめぇら何様なんだよ」


 ・・・そのセリフ、そのままスタジオにお返ししまーす。


「当然の報い……? 身を持って償う……? はっ。おめぇらさ、頭良いんじゃないの? なんで暴力で解決しようとしてるわけ? もっと他にやり方ってもんがあんでしょうが。馬鹿の集まりかよ」


 ・・・いやぁ、お前にガチトーンで“馬鹿”なんて言われたら、しばらく飯食えねぇぞ俺ら。


「九条、あんたさっきから心の声うっさい。黙っててくれる? 黙れないなら物理的に黙らせるけど」

「いや、お前も結局暴力で解決させようとしてんじっ……っ!?」


 胸ぐらを掴まれて、ピューンッと投げ飛ばされた。


「これはあたしと宗次郎の問題なの。なんで関係ない奴らにあれこれ決められなきゃいけないわけ? 宗次郎をどうするか決めるのは、この""あたし""でしょ。あたしはこんなの望んでない。外野は黙っとけよ」

「舞ちゃん、それは違うな。“普通”であればそれが通用するかもしれない。でも、天馬では“普通”なんて通用しない。ましてやあの“九条財閥”の御曹司である柊弥のサーバントに手を出したんだ。そんな道理は通らないんだよ。“郷に入っては郷に従え”……これは鉄則。今の天馬は柊弥そのもので、柊弥が“ルール”なんだ。君は少し、その辺を理解して自覚をしたほうがいい」

「したくもないわ」

「……ん? なんて?」


 真面目に長々と力説した蓮を『したくもないわ』って真顔で即答した七瀬に、目が点になってアホヅラになってる蓮に笑いが吹き出しそうになった。


「だったら言わせてもらうわ。天下の天馬・天下の九条……あいつの意見はなんっでも罷り通って、その“サーバント”であるあたしの意見が全く通用しないなんておかしくない? あんた達、“誰のサーバント”に口答えしてんのよ。ていうか、九条も含めて誰に物言ってんのよ」


 ── こいつ、完全にハイになってやがんな。にしても、発想がブッ飛びすぎて笑けてくるわ。ほんっと、おもしれぇ女。

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