行き違い③ 九条視点
「九条も食べる?」
そう言いながらいちごのヘタを摘まんで、チラッと俺を見てきた。
「ん」
「はい」
俺の口にいちごを入れた七瀬の手を掴んで、ひょいっと俺の膝の上に乗せた後、七瀬の体をベタベタ触った。
「ひゃあっ……!! ちょっ、なに!? 急に!!」
「やっぱお前痩せた?」
「はあ!?」
「なんつーか、いつもと触り心地が違う」
「誤解を招くような発言はヤメて」
「……お前、しばらくいちご禁止な」
「は? え、なんで?」
「霧島が『いちごはダイエット効果が~』とか言ってたから。だから禁止」
すると、クスクス笑い始めた七瀬。
「九条って肉付きがいいタイプが好きなの?」
「あ? 別に。肉があるだのないだの気にしねえけど。痩せすぎも太りすぎもシンプルに心配になんだろ。それだけ」
「……あんた、そういうところ""だけ""はいいよね」
なんて余計なことを言いながら俺にいちごを奪われまいと、次から次へといちごをパクパクと口の中へ放り込み始めた七瀬。リスみたいに頬が膨らんでやがる。
「フッ。可愛いな」
── ・・・いや、俺今なんつった? マジで何を言ってんだ?
「いや、お前じゃなくて、その""いちご""が……な?」
「あ、ああ……いちごね。確かにいちごって可愛いよね。ご馳走様でした、美味しかったです」
「ん」
スッと俺の膝の上から降りて、フラフラしながらベッドへ倒れ込んだ七瀬。
「あんたが寝ていいって言ったんだらからね」
「言い訳がほしいってか?」
「そういう言い方するなら寝ない」
「ハイハイ、分かった分かった」
「いいの? 寝ても」
「どーせ使いもんにならん」
「あっそ。ハゲろ」
そう言うとモゾモゾ布団の中へ潜って、ピタッと動きが止まった。
は? もう寝た? チラッと布団を捲ってみると、真ん丸になってスースー寝息を立てながら眠っている七瀬らしき小動物を発見した。
「……ったく、可愛すぎんだろ……お前」
メチャクチャにしてやりたいという衝動を抑えながら、捲った布団をベシッと戻して部屋を出ようとした時、ふと七瀬のスマホが目に入った。
「……いや、さすがに見るのはヤベぇだろ」
とか言いつつも、俺の手は七瀬のスマホへ伸びていた。画面を点灯させてスワイプすると、何かを調べていたのか検索画面のまま。
検索ワードには【処女 初体験 どこも痛くない】だった。
「……は?」
いや、は? どういうこと?
あ、ああ……ハイハイ、なるほどね? これから起こり得ることの知識を得たくて検索してた……そんなところだろう。俺はそれ以上何も見ず、これすらも見なかったことにして、画面を消灯し元の位置へ戻した。
「俺、処女の相手なんかしたことあったか……? いや、おそらくねぇよなぁ。あったとしても把握してねぇし、何も知らねえ……」
俺は自分のスマホを取り出して、検索ワード【相手 処女 どうする】と入力しながら、ベッドの縁に腰かけた。
「いや、馬鹿か俺。何調べてんだよ、意味分かんねえー。やめやめ、アホらしい」
つーか七瀬の相手が俺とも限らねぇだろ、クソが。スマホをしまおうとした時、メッセージが届いた。
《天馬へ行く用事ができたの。少し会える?》
《時間次第》
《11時頃》
11時ならこいつ多分まだ寝てるだろうし、椿川もそう長居はしないっしょ。ま、いっか。
《遅れるようなパス》
《了解》
で、11時ちょっきりに天馬にやって来た椿川。
「サーバントちゃんは?」
「寝かしてる」
「あら、随分と寵愛なのね」
「で、何の用だよ」
「ドラマの撮影で着る予定の制服が可愛くなくて嫌なの」
「はあ」
「天馬の制服って数年前にリニューアルしてるでしょ? リニューアル前の制服が結構タイプなのよ。それをモチーフにしてもらおうかなって。だから、サンプルを貰いに馳せ参じたったわけ」
・・・そんだけの為に俺を呼び出す神経を疑うわ。
「あらそ、ご勝手に」
「少しくらい案内してくれない?」
「その辺のやつに頼めばー?」
「もっとネタあったほうが盛り上がるでしょ? ネット民は」
ま、七瀬も爆睡こいてるっぽいし、適当にネタがあれば愚民共が勝手に騒ぎ立てていいようになるか。
「ちんたら歩くなよ。俺、人に合わせて歩くのとかマジで無理だからー」
「本当に嫌な男ね」
「そりゃどーもー」
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