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行き違い② 九条視点

「でしょうね。適当に遊ぶタイプでしょ? で、ちゃんと説明してくれるかしら?」

「説明……ねえ。ま、簡潔に言うと俺のモンがちょっかい出されそうなんで、一旦引っ込めようかなってだけ。要は君を利用させてもらうよーってやつ。いいだろ? 別に。お互い様なんだし~」

「それもそうね、お互い様だから特に言うことはないわ。天馬学園、エリートコース。『俺のモン』ってサーバントのことかしら? 随分とお気に召しているようね、そのサーバントとやらを。貴方の寵愛を受けるなんて相当なっ」

「おい、いちいち詮索してくんな」

「なによ。こわっ」


 あいつのことに関しては、誰にも何一つとして情報を与えたくねえ。特に今は……な。


「つーか、なんで俺なわけー?」

「貴方は私に全く興味が無さそうだったから」

「更々ねーな」

「でしょうね。それにパパを大人しくさせるにはビックネームが必要不可欠」

「ほーん」

「あと、貴方は話が通じそうだったから」

「あっそ。利害の一致っつーことでオッケー?」

「ええ。何かあれば随時報告、互いのNGはその都度ってことで」


 ── まあ、こんな感じで何やらかんやらあって今に至るってわけ。


 あいつ、世間の情報やら何やらに死ぬほど疎いから、俺がドラマに出ることを知ることはほぼないし、椿川のことを知ることもほぼないはず。黙っときゃいい。ドラマのことも、椿川のことも、あの紙っ切れのことも、あいつが知る必要ない。


 つーか、恋愛ドラマとかマジで一番やりたくねえタイプのやつだし。とにかく見られたくない、あいつだけには。馬鹿にされるだの何だのもあるが、なんつーか……見せたくないんだよな。俺が他の女とベタベタしたりしてんのをあいつには見せたくねえっつーか、あいつがそれをどう思うのか……とか、無駄なことを気にすんのがシンプルにダルい。まっ、あいつのことだから何とも思わねぇだろうけど。


 正門を過ぎて正面玄関口に着くと七瀬……と宗次郎が立っていた。うーん、最近こいつら毎朝一緒にいねぇか? まあ、咲良が俺と似たり寄ったりな時間帯に来るから……だろうけど。


 ・・・なんつーかな。釈然としねえ、なぁんか引っかかんだよなぁ。


 だいたい俺の車を視界に捉えるなり、急にこの2人の雰囲気が変わるように見える……まあ、遠目からだけどな。それに若干、七瀬が宗次郎を警戒しているようにも見える。ま、でも……それは俺が散々言ってるからか。ちゃんと言い付け守ってるってやつ? だといいんだけど。


「霧島」

「はい。なんでしょう」

「今日から見張れ、七瀬を」

「え? いや、七瀬様には既に護衛をっ」

「そういうことじゃねー。七瀬の“行動”を見張れ」

「……と、言いますと?」 

「いや、なんつーか……違和感」

「違和感?」

「それと、七瀬に護衛をつけてから今日まで出来事に1つも報告洩れがないか全員に聴取しろ」

「承知いたしました」


 霧島が車のドアを開けてると七瀬が1歩前へ出てきた。


「おはようございます。九条様、霧島さん」

「おはようございます。七瀬様、本日も柊弥様をよろしくお願いいたします」

「おはようございます。九条様、霧島さん」

「おはようございます。宗次郎君」


 日に日に目の隈が酷くなってる七瀬。心なしか少し痩せたような気もするしな。ダイエット……なわけがない、多分。ダイエットなんて全く必要のない体型だからな、こいつ。 


 黙って俺の隣を大人しく歩く七瀬。こいつ、やっぱおかしいよな、どう考えても。この俺が気づかないはずがない、この俺が見落とすはずかない、ないはずだ……なのに、何か見落としたのか?


「おい」

「なんでしょうか」

「何があった」


 俺がそう言った瞬間、一瞬だけ表情が強張った。それをこの俺が見逃すはずがない。


「……何のことでしょう。特段これといって何もないですが」

「お前、最近ちゃんと寝れてんの?」

「はい。それはもうぐっすりと」

「じゃあその覇気のないツラはなんなわけ?」

「元からですけど」


 なんだそれ。俺には言えないってか? それが無性に腹立った。


「来い」

「え、ちょっ!?」


 七瀬の腕を引っ張って溜まり場へ向かった。


 バンッ!! とドアを開けると、蓮達の視線が一斉にこっちへ向けられる。


「俺の部屋付近に誰ひとり近づくな」


 そう言い捨てて部屋に入って鍵を締めた。


「ちょっ……な、なに……?」


 ・・・は? なんでそんなに怯えてんだよ、お前。


「なにお前。俺が怖ぇの?」

「ちっ、違う。ごめん、そうじゃなくて……」


 俺が近寄ると、その分後ろへ下がっていく七瀬。


「はぁぁー。もういい、とりあえず寝ろ。お前」

「え?」

「どっからどう見ても寝不足だろ」


 とりあえず顎で“ソファーに座れ”と合図すると、ちょこんと大人しく座った七瀬。俺は冷蔵庫からいちごを取り出して、それを七瀬に差し出した。


「まず食ってから寝ろ」

「……いちごってあたしの為に常備してくれてるの? なんか毎日食べさせてもらってる気がする」

「あ? 別にお前の為じゃねーし」

「でも九条、あんま食べないじゃん。食べても1粒2粒くらいだし」

「お前ほど好きってわけじゃないからねー」

「……あたしの為だったらありがとうって言いたかっただけ。あたしの為じゃなくてもありがとう……なんだけどね」


 とか言いながら疲れたような顔をして笑って、俺からいちごを受け取り黙々と食べている七瀬。

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