過ち①
── 月日は流れ11月
文化祭の季節がやって参りました。とはいえ、ぶっちゃけエリートコースには関係ない。いや、関係ないっていうか一般コースの生徒達が準備をして、それにエリートコースの生徒達が招待される……というシステムらしい。
その日、全サーバントはマスターの元を離れて、民間警備や警察と共に外周や敷地内の警備にあたるとのこと。あ、ちなみに体育祭もそんな感じだった。エリートコースの生徒は観戦するだけ。体育祭は一般公開されず、生徒関係者以外の立ち入りは原則禁止だったから、大きな問題はなかった。
でも、今回の文化祭は一般公開される=なんだと思う? そりゃピリピリムードにもなるよね、とくに上杉先輩が。毎日毎日あーでもない、こーでもないと叱られ、ペナルティを課せられる日々。もはやイジメなんじゃないかって思い始めた今日この頃。
「君は口だけか? 体術強化訓練も中途半端な結果で終わり、筆記試験は常に赤点。君は一体なんなんだ、何をどうすればそうなる」
「いやぁ、なんなんだ……と言われましてもぉ」
そう、体術強化訓練の審査員は小島さん……そして、天馬学園トップ3の九条・西園寺兄妹が執り行うことに──。
「んー、悪くはないけど免除ラインは越えないかな。ごめんね? 舞ちゃん」
「ま、せいぜい泣きべそかきながら勉学に励むことね。哀れな貧乏人さん」
「お前は圧倒的にパワーが足りん。取っ捕まえられた時、逃げられませんじゃあ話にならん。それ以外はまぁ、悪くはないな。センスはあるほうじゃね? 知らんけど~」
いや、あんた達(小島さん・九条・蓮様)みたいな馬鹿力ゴリラに、パワーで勝てるわけないでしょ? そんなの無理ゲー。だいたい、サーバントとしての教育を受けてきたわけでもないこのあたしが、あなた達に勝るわけがないよね? 本来は。
「なぜ貴女のような人があの九条様から寵愛を受けているのか、理解に苦しみますね」
それはそう、あたしだって理解に苦しんでるよ。あいつの考えてることは理解不能。
「は、はあ……そんなこと言われましてもぉ」
「すみません、七瀬さんに用があるのでもういいですか?」
「……勝手にしろ」
上杉先輩の説教からあたしを救ってくれたのは──。
「ありがとう、宗次郎」
「別に? 貧乏人なうえに毎日あんな説教食らって、あまりにも不憫だなって思っただけ」
おい、そういうのやめてよ。せめて思っても口には出さないでほしい。同情するなら金をくれ……とまでは言わないけど。
「ま、一言余計だけど感謝するわ。持つべきものは同期だね、やっぱり~」
「……感謝される筋合いはない」
? なんか意味深な言い方をする宗次郎にちょっと違和感を感じつつも気にしないことにした。
「で? 用ってなにー?」
「俺、一般じゃん?」
「ああ、なに、文化祭のこと? 宗次郎は文化祭参加するんでしょ? いいね、青春っぽくて~。羨ましいわ」
『俺、サーバントやってっけど青春するぜ? エンジョイするぜ?』ってわざわざ報告してくれてどうもありがとう。
「あんなもん面倒なだけだろ、つーことで買い出し付き合って」
「はあ? なんであたしなの?」
「買い物とか上手そうじゃん? 貧乏人って」
だぁから一言余計だし!
「ま、まあ、別にいいけど」
最近、よく分かんないけど九条も謎に忙しそうにしてるし、行きも帰りも別行動をすることが増えた。ま、気楽でありがたいけどー。ということで、前より格段に単独行動がしやすくなってるってこと。
「舞ってあの人と喧嘩でもしてんの?」
「え? なんで? 別にしてないけど」
「夏、ドチ喧嘩したって噂聞いたけど~」
はぁぁー。いやぁ、やめてくれ頼むから。記憶から抹消しようと思ってたのに思い出させてくれるな、同期よ。
「あ、ああ……あれはまあ、喧嘩……なのかな?」
「いや、知らねぇし。最近あの人と一緒にいなくね?」
いや、それとこれは関係ないのよね。
「んー、あたしもよく知らないんだけど、なーんか忙しいみたいだよ? マジで知らないけど」
「ふーん」
急に黙って何かを考え始めた宗次郎。なんか宗次郎って不思議なんだよね~、ぶっちゃけ敵か味方か分かんないっていうか。まあ、害があるわけでもないし、何だかんだフォローしてもらってるから、なんでもいっか~みたいなノリだよね。
「なぁ、知ってる? 最近あの人の熱あっ」
「あーー!!!!」
「なに、うるさい」
「胡桃ちゃんに漫画貸して貰う約束してたんだった!」
「ねえ、舞。お前さ、漫画読んでる場合?」
「……漫画は時に世界を救うのだよ、漫画万歳」
あたしがそう言うと、急に死んだ魚の目をして……というより、心底残念なものを見る目であたしを見つめてくる宗次郎。
「あーそう、さっさと行ったら?」
「ん、また連絡するねー。んじゃ、後で落ち合お~!」
そう言いながら走って、あたしは胡桃ちゃんのもとへ向かった──。