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償い②

 そして、九条のお父さんのサーバントで在ることに耐えられなくなって自ら命を──。


 でもそれって、九条のお父さんが悪いわけじゃないし、その人が悪いわけでもない。周りの妬み、僻み、嫌がらせに罵声、人の負の感情が渦巻き、それらを受け流すことなくしっかりと受け止めて、自分が悪かったのではないか……と反省して努力して、それでも無情に降りかかってくる困難や試練の数々。少しずつ取り零すようになって、受け止めきれなくなって、自分を責めて──この世を去ってしまったのだろう。


「── 様。七瀬様」

「あ、はい……すみません……」

「大丈夫ですか?」


 霧島さんがティッシュを差し出してくれて、そこで自分が泣いていたことに気づいた。ポツッポツッと頬を伝う涙。


 あたしなんかとは違って、責任感が人一倍強くて、何事も真摯に受け止めて、誰よりも九条のお父さんに見合うサーバントになろうって、一生懸命頑張って生きていた人なんだろうなって思う。あたしはその人じゃないから分からないけど、九条のお父さんを恨んでいる……なんてことは絶対にないと思うし、誰よりも九条のお父さんの幸せを強く願ってるはず。


 それに気づいてあげることができず、何もしてやれなかったと死ぬほど悔いているのは、紛れもなく九条のお父さんだと思う。罪悪感、後悔、未練……苦しんで、悔やんでも悔やみきれなくて──。だから九条のお父さんは、自分のような思いを息子である九条にはさせたくなくて、あたしにも幼なじみさんのような思いをさせたくなくて、あたし達を遠ざけようとしてくれてたんだ。自分の二の舞にならないように……と。そういうことでしょ?


 ・・・なんだ……とっても優しい父親じゃん。九条の不器用な優しさはお父さん似だな……というか、九条は全体的にお父さん似なんだな。


「やっぱ、このままじゃダメだ──」

「え? 何か言いましたか?」

「いや、何でもないです」


 チャンスは一度きり。九条家の敷地内に入る際、門のセキュリティを通過する時、車のスピードが一気に下がる。そのタイミングを狙うしかない。


 あたしはさりげなく窓を全開に開けた。門を通過してスピードを上げる直前、あたしは窓から外へ飛び降りた。


「なっ、七瀬様!?」

「ごめん! 霧島さん! 許して!」


 慌てふためく霧島さんをスルーして、取っ捕まる前に先を急いだ。


「こらっ! お前! ここで何をしている!」

「おい、待て。天馬の制服にそのネックレス……柊弥様のサーバントか?」


 この前は気にしてなかったけど、玄関付近に門番的な人がいるのね……ここ。


「あの、九条様のお父様にお会いしたくて」

「なに? アポイントは」

「ない……です」

「いくら柊弥様のサーバントとはいえ、アポイントがないのであれば通すわけにはいけません」


 すると、結構なスピードで近づいてくる車の音が聞こえる。間違えなく霧島さんだ。


「ああー!! あんなところに今にもポロリしちゃいそうなナイスバディなお姉さんがフラフラしてるー!」

「「なにっ!?」」


 見事に引っ掛かった門番達を潜り抜けて、バンッ!! と玄関ドアを開けた。


「お邪魔しますっ!!」

「こら!!」

「待ちなさい!!」


 大騒ぎになって、ありとあらゆる場所から次々と警備員が出てくる。それらをひょいっ、ひょいっ、ひょいっと躱して九条のお父さんがいるであろう部屋へ突き進んだ──。


「止まれ!! 何者だ!! 貴様!!」

「人に聞く前にまずは自分から名乗りなさい!」

「あ、俺は瀬戸です」

「あたしは七瀬です」

「……じゃなぁぁい! 止まらないと撃つぞ!」


 ── わぁーお! えーっとここ、ジャパンですよね?


「銃刀法違反だぁぁ!」

「九条家は許可を得ている!」

「あ、そうですか、すみません。見逃して!!」

「おう。……じゃねぇよ!」

「あ、それー、弾詰まり起こしてません?」

「ん? そうか?」

「ほら、ちょっと貸してみてくださいよ。直すんで」

「おう、そうか」


 あたしはナチュラルに嘘をついて、何食わぬ顔で拳銃を受け取って、内心『こっっえぇぇーー!!』とか思いながらも拳銃を持ったまま猛ダッシュした。


「ゴルァァァァ! 待て!!」

「その娘を逃がすな!!」

「何を手こずっている!」

「拳銃を盗まれただと!?」


 後方で怒号が飛び交っている。ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい! めっちゃ大事になってるってー! ひぃぃー! こーわーいー! そして、スッとあたしの目の前に現れたのは長谷川さんだった。


「はぁぁ、貴女は一体何をしているのですか」

「あの、すみません。どうしても話がしたくて……っ!?」


 すると、一瞬で拳銃を奪われて取り押さえられた。


「邦一様のお気に入りなので、あまり手荒な真似はしたくないのですが」

「だったら離してくださいよ、お気に入りなんでしょ?」

「全く、前代未聞ですよ。分かってますか?」

「もう上等っすわ、この際なんでも」


 取り押さえられた……とは言っても、向き合ってあたしの両手を握っているだけの長谷川さん。ま、この握られてる手を動かすのは無理だけどね。だってビクともしないもん。となると残るは脚……あたしは躊躇することなく長谷川さんに上段蹴りをきめる。


「おっと、こりゃ驚いた」


 咄嗟に受け身を取った長谷川さんはあたしから手を離した。


「お転婆だねぇ」

「伊達にあいつのサーバントしてないんで」

「こりゃ参ったなぁ。邦一様と柊弥様がお気に召してるのがよく分かる」

「七瀬様!! あなたって人は一体何をしているんですか!!」


 ・・・げ……鬼のような形相をした霧島さんが猛ダッシュでこっちへ向かって来てる。


「これはなんの騒ぎだ」


 その一声でシンッと場が静まり返った。階段から降りてきて、あたしの近くまで来たのは言うまでもなく九条のお父さん。


「君は何をしている」

「見て分からないですか」

「なに?」

「あなたに会いに来て、ひっちゃかめっちゃかになってるんですよ」

「七瀬ちゃん!! マジでいい加減にしろって!!」


 あたしのもとへ来た霧島さんが慌ててあたしの口を塞ごうとしてくる。


「ちょっと、霧島さん! 離して!!」

「マジで馬鹿か! お前は!!」

「九条みたいなこと言わないでよ!!」

「隼人様、誠に申し訳ございません。今後、このようなことは二度とないよう躾ますので。どうか、ご慈悲を……」


 あたしが動かないようガッタガチにホールディングしてくる霧島さん。そして、そのまま引きずられる。霧島さんはこの場からあたしを引きずり出すつもりだろう。


「勘違いしないで。あたしはあなたを侮辱しているわけでも、蔑んでるわけでない。それを大前提として言わせてもらう」

「おいっ!! マジで黙ってくれ七瀬ちゃん!!」

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