最高のおもちゃ② 九条視点
ただの暇潰しおもちゃ、そう思ってたはずなんだけどな。実際に七瀬舞を目の当たりにして考えが変わったっつーか、なんかすんげえモヤモヤすんだよなぁ。いや、“最高のおもちゃ”には変わりねぇし、“最高の暇潰し”にも変わりはねぇんだけど……なんつーかな。その表現の仕方的なもんが妙に引っ掛かるっつーか？ まぁよく分からん、考えんのもめんっどくせ。
なんせこの俺が女をここまで欲しいと思ったことがないからな。女なんてただの性欲処理くらいにしか思ってない俺がここまで女を欲しいと思うとかヤバくね？ もはや執着しそうで自分が怖いわ、きんもっ。
頭ん中は引くほど七瀬舞のことでいっぱいで、あれやこれやとひたすら考えていた。
「──ねぇ、柊弥……ねぇ！ 柊弥ってば！！」
「んあ？ なに～？」
「もぉ、私の話聞いてる！？」
「聞いてなぁい。俺さぁ、今忙しいんだよね～」
「ちゃんと聞いてよ、柊弥！」
俺の隣に座ってぷんすか怒ってるのは西園寺凛、俺の幼なじみ。
「なにか良いことでもあった？ 柊弥。嬉しそうな顔をしているね」
「あ？ ああ、ま～ねぇ」
「へえ、それはとても気になるね」
俺の前に座って胡散臭い笑みを浮かべているのは西園寺蓮、俺の幼なじみ。んで、お察しの通り凛と蓮は双子の兄妹で激似。凛は綺麗と言うよりは可愛い系で、男を惚れさせんのが上手くて悪どい魔性の女。学園内の男大半に告られたんじゃね？ って感じ。蓮は……まあ、俺の次くらいにはイケメンなんじゃね？ 知らんけど。
ま、そんなこんなでこいつらは俺が心を許してるメンツの内の２人で、西園寺も九条ほどではないがそれなりの財閥。蓮と凛も御曹司・令嬢ってわけ。
誰とも馴れ合う気がなかった幼稚園時代に、この２人が妙に俺に懐いて成り行きのまま現在に至るって感じ。んで、そんな俺達が在学しているのは“天馬学園”。
幼稚園から大学までエスカレーター式で、エリートコース(要は超金持ち)と、一般コース(ある程度の金とそれなりの学力必須)という二つのコースで分かれている。で、高校へ進学すると同時にエリートコースには、かな～り面倒なシステムが強制的に導入されて──。
「ねぇ！ 柊弥ってば！！」
俺の背中をバシバシ叩いてくる凛。あのー、地味に痛いんすけどー？
「んだよ、お兄ちゃんに相手してもらってくんねー？」
「いや、僕に振るなよ」
「２人とも酷くない！？」
この天馬学園の中で最も権力があるのが九条＝俺なわけで、その次に西園寺……てな序列になってる。要は俺達のやりたい放題っつーこと。逆らう奴もいなければ、先輩後輩なんて一切関係なーっし。この俺が、この俺達が“絶対的存在”である。そんな俺達を周りは“天馬のビッグ３”とか呼んでて、ちやほやされてるってわけよ。
「もういいっ！ 柊弥のバカっ！」
凛が怒って教室から出て行くのを大あくびしながら見る俺と、大きなため息を吐いてる蓮。
「なんだあれ。なあ、凛って今生理中～？」
そう言いながらチラッと蓮を見ると、心底呆れた顔をしていた。
「はぁ、柊弥。君さ、それは本当にやめた方がいいと思うよ」
「え？ なにがぁ？」
「……いや、まぁいい。柊弥が女の子に気を遣う日なんて訪れることはないだろうから」
はあ？ なに言ってんだ？ 蓮の奴……あ、蓮には一応言っとくかぁ。
「なぁ、蓮」
「ん？」
「俺、最高のおもちゃ見つけた」
「最高のおもちゃ？」
「そうそう。何がなんでも絶対手に入れるわ」
蓮は一瞬目を見開いて、クスッと笑った。
「へえ、君がそこまで欲しがるなんて珍しいね。余程いい女の子だったのかな？ もしかして、本気だったりする？」
なんっだそれ。別に本気もクソない、単なる遊びにすぎない。でも、なんだろうな。自分でもビックリするくらいめちゃくちゃ欲しいし、誰にも触れさせたくもなければ、譲りたくもない。こんな感情が初めてすぎてよう分からん。
ま、この俺が“たかが女ひとり”に本気になるわけもないっしょ、馬鹿馬鹿しいわ。
「ははっ、特に深い意味はないっての～。これでしばらくは暇潰しできそうってやつな～？」
「はあ……まあ、何でもいいけどさ。程々にしておきなよ？」
「だぁれに言ってんだよ」
「君以外いないだろ……というか、そろそろ決めないとマズいんじゃないか？ 柊弥だけだろ、まだ決まってないのは」
あー、だるっ。だから嫌なんだよなぁ、あの無駄なシステム。そう思った時、俺の頭ん中に浮かんできたのは──。
「いたわ」
「え？」
「いいのがいたわ」
── 七瀬舞。
そうか、そうだな、その手があったか。くくっ、アレは七瀬舞で決まりだな。
「決まった」
「ん？」
「もう決まった」
「は？」
「蓮」
「あ、うん」
「俺の“最高のおもちゃ”……時期に拝ませてやるよ」
「は、はあ……？」
『なに言ってるだ？ こいつは』的な顔をして、俺を冷めた目で見ている蓮。ま、いつものことだけど～。
── こうして俺は“最高のおもちゃ”を手に入れるべく、七瀬舞の学校へ訪れ、かくかくしかじかで……現在に至る。不服そうに俺の隣に座って、ムスッとしながら車に揺られてる七瀬舞。普通の女だったら大喜びすんのに、こいつは逆にキレてるっていうか、不機嫌そのもの。
ははっ、マジで面白い奴だな。
「おい、七瀬」
「……」
ムッとして俺の呼びかけをガン無視しながら窓の外を眺めている。マジでなんなんだ、こいつは。
「ったく。何様だよ、お前」
「は？ それ、あんたにだけは言われたくない」
この俺に対してやっぱそういう態度でくるよなぁー。こりゃなかなか思い通りにはならなさそうな女なこって～。ま、いいけど？ 楽しめればなんでも。
こいつが俺のクソつまんねえ日常をガラッと変えてくれんなら、別に何だっていい──。
