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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

無口な姉が妹を助けるために犯罪者に制裁を加える話

作者: ゆりかもめ


涼しくなってきた10月中旬の夜のこと。


「姉さん・・・ちょっといい?」


自室のドアの開く音に目を向けると、そこには、妹がおどおどとした様子で立っていた。


私が読んでいる途中の漫画を机の上に置くと、妹はどこか不安そうな表情を浮かべて入ってくる。


そして、椅子の横のベッドに腰を下ろして暗い表情を浮かべ、おもむろに口を開いた。


「姉さんも知ってるよね。あの男の事件・・・」


あの事件。


そう言われて思い出すのは、地元で有名な狂った大男による凶行だ。


小学生や中学生の少女を次々と連れ去り犯す男。さらに、野良猫や人の飼い猫、飼い犬もこん棒で殴って殺したことも分かっている。さらに、小学生の中には死者もいたようだ。男に撲殺された挙句、ノコギリでバラバラに切断して道路中に放り投げたそうだ。


これは噂に過ぎないが、連れ去った少女の首を生きたまま切り落としたという話もある。


被害者の数は少なくとも20名。動物の被害件数は50件以上。


この男は、これまで何度も逮捕されて出所している。


それでもなお、こうした凶行に及んでいる。もはや誰にも止められないため学校や警察も黙認している。


「私、あの男が近くにいるかもって思いながら登校するの怖いんだ。だってさ、そんな人がうろうろしてるんだよ?落ち着いていられるわけないじゃん」


妹が話したいことと私が思い浮かべた事件は合っていたようだ。妹は続ける。


「でもね、私学校には行かないとなって思うよ!あ、でも姉さんは特別!だって長く休みたいなって思ったから、その・・・中学校行かなくなったんでしょ?」


無言で頷く。行く必要が感じられないから、こうして毎日漫画を読んだりしている。


私の視線が漫画の表紙に向けられたことを知ると、妹は驚いたような様子で声を上げた。


「その漫画!最近話題になった人気のやつだよね!突然続編出たからびっくりだったなあ!後でそれ読ませてほしいな!今のお小遣いじゃ買うのちょっと厳しいし・・・」


そこまで喋った後、妹は自身の口元に手を合わせる。


「いけない!話思いっきり脱線しちゃったね!」


私は、その慌てる様に微笑ましさを覚えて思わず笑みを浮かべる。


そんな私を見て、今度は真剣な表情で口を開けた。


「あのね。私、平日の登下校がとっても不安でたまらないんだ。だっていつ男に狙われるか分からないでしょ?ぼーっと歩いていて、突然腕を掴まれたら絶対助からない・・・力もないし、きっと着ているもの全部脱がされて・・・」


そこまで言うと、視線を下げて口を閉ざした。


その数秒後、また続ける。


「だから、登下校に付き合ってほしいって思ってるの。1人じゃ不安だし、大好きな姉さんと一緒にいると安心するもん」


ここまで聞いて、自分のボディガードをしてほしいと伝えたいことを理解した。


他の人のことはどうだっていい。私も突然肉片になろうがどうだっていい。


だが、妹に手を出されるのは絶対に避けたい。このままでは、妹がターゲットになるのは時間の問題だろう。


私は不安そうな表情の妹に近づくと、頷きながら頭を撫でた。


「姉さん・・・」


それが肯定の意味であることを察してくれたようで、照れたように笑った。


私も妹のことが好きだが、果たして、私のような引きこもりで不登校の女子中学生が役目を務められるのだろうか。


それから。


妹のボディガードとしての生活が始まった。


男の影響で、妹の小学校ではスマホの持ち込みはやむを得ないと判断されている。


そのため、登下校に付き添う以外にも、定期的にメッセージでやり取りをして安全確認を行う。


腕力で対抗することは不可能なので、携帯していても法に触れない道具を常にリュックやポケットに入れている。いざという時に備えなければ。


問題の男。


こいつはチャイルド・マレスターなのでロリコンではないことは確かだが、動物虐待と少女を犯すことが趣味で、少なくとも20人の少女を殺している。


遺体は性玩具にして、腐り始めるとバラバラにしてその辺に遺棄したらしい。


下校時間になり、自転車で妹の学校の校門に向かう。


そして、妹を見つけると自転車を押しながら帰宅する。


ネットで調べたことだが、少女の遺体の下半身やくりぬかれた眼窩からは男の体液が検出されたようだ。


しかもこの男。防犯ブザーを鳴らした少女には逆上し、防犯ブザーを奪って地面に叩きつけて破壊すると、所持していたビール瓶で少女の頭部を容赦なく殴ったという。


そのショックで少女が泣き出してもなお殴り続け、所有しているワゴン車に連れ込むとそこで犯し、最後は首を絞めて殺害。


その少女の遺体は近くの道路に捨てて、見つかった時にはカラスの餌になっていたようだ。


それから約1か月後。


風の噂で、男の被害報告が相次いでいることを聞いた。妹の口から、クラスメイトの少女がターゲットになって心的外傷を負い、自宅から出られなくなっている話も聞いた。


ここまでの状況にも関わらず、大人が全く動かないのは不可解だ。


過去に起こった性犯罪者の中には、無期懲役になった奴もいる。海外では死刑になった奴もいる。


一方で、この男は何度も警察に逮捕されて刑務所から出所している。


なぜこの男にはそれ相応の刑罰が与えられないのだろうか。もはや適切に法で裁くことが不可能な人物なのだろうか。


そんなことを考えながら妹と帰路に付いた時、後方からけたたましいクラクションが聞こえてきた。


「姉さん・・・!」


私の前方に回って抱き着く妹。


音のする方を見る。


そこには、ボンネットがボコボコに歪んでいるワゴン車があった。手放し運転をしてこちらに中指を立て、何度もクラクションを鳴らしている男が乗っている。


この男は。


チェンジレバーとサイドブレーキの操作音とほぼ同時に、男は車から降りて私の髪の毛を引っ張ってきた。押していた自転車が音を立てて倒れる。


この時、妹は悲鳴と同時に振り絞るような声で言った。


「ね、姉さんになにするの!?」


「やかましいぞクソメスがあ!」


男はそう叫ぶと、妹と私を引き離し、妹の腹部を蹴り飛ばした。


さらに、前髪を鷲掴みにして顔を持ち上げると、その顔に右の拳を逡巡なく一発叩き込む。


「姉さん!姉さあああああん!」


「気に入らねえんだよてめえ!犯してやっからこっちきやがれ!」


泣きわめく妹の腕を掴み、ワゴン車に連れ込もうとする。


間違いない。こいつは問題視されているあの男だ。


いや、妹に傷をつけた以上、他の誰でも構わない。


こいつは許さない。


私は、リュックから虫よけスプレーを取り出して接近し、妹の腕を握る手に吹きかけた。


ダメージはないが、驚かせるだけなら十分だろう。


私の予想通り、男は目を見開いて一瞬だけ妹の手を離した。


そのすきに妹を抱きかかえ、男から引き離す。


「姉さあああん・・・痛かった・・・痛かったよおおお・・・」


力いっぱい抱擁し、頭をなでる。


そして、「少し離れていて」と言って自身の後方に移動させ、こちらを睨んでいる男を睨み返す。袖に仕込んでおいたカッターナイフを手に取る。


これを使って、妹を蹴って殴ったその汚い手足に消えない傷を刻んでやる。


妹が暴行を加えられた時に動けなかった私自身の怒りと、暴行に及んだ男に対する怒りを脳内にため込み、カッターナイフの刃を本体から伸ばす。


「おい・・・なんなんだよ・・・てめえ」


男は私に対してそう言った。


「なんなんだって聞いてんだよ!なあ!おい!さっさと答えろくそが!」


「・・・」


「んだよ?何にも答えないつもりか?そんでその手に持ってるカッターでどうにかしようってか?ええ?できんのか・・・できんのかよ!なめんじゃねえ!クソメスの分際でええええ!」


まずは、傷を刻む前に眼球をつぶしてしまおうと考えた。


両目が見えなくなれば、腕力の差のハンデも少しは軽減されるだろう。


そう思った矢先。


男に急接近され、両腕を掴まれてしまった。そして、力任せに押し倒され、その拍子に手にしたカッターナイフが遠くに滑ってしまう。


妹の方を見ると、恐怖ですっかり身動きが取れなくなっているようだ。


「本当はな・・・」


男は荒々しい息をしながら私に話しかける。腐敗した魚のようなにおいが鼻孔を付く。


「姉さん姉さんってうるせえ、てめえの妹を犯して持ち帰って性奴隷にしようと数週間前から考えてたわけだ。こんなかわいいメスに俺のもんをぶち込めるなんて最高じゃねえか。だが、てめえは邪魔した。だからその代わりになってもらうぜ。てめえが俺の言いなりになって性処理玩具になって死ぬまで犯されるんだよ!死んだ後もしばらく使ってやるぜ?脳でも目ん玉の穴でもぶち込めるところはあっからよお!!!」


体をねじってどうにか逃れようとする。だが、男の力に阻まれてほとんど動けない。


男はそんな私を見てせせら笑う。


「ガキのくせに抵抗するのはやめろよなあ!力ねえくせによお!おい!そこのガキ!警察に言ったらてめえら終わりだからな・・・分かってんだろうな!?」


妹に対して怒鳴る男。見ると、スマホを取り出して警察に通報しようとしていた。


私は、首を激しく横に振ってそれを阻止する。


こいつは、これまで何度も警察に逮捕されて刑務所からの出所を繰り返しながら犯罪をしている。だから、ここで通報したところでほとんど意味をなさない。私の中の冷静な部分がそう判断した。


「どこ見てんだよ」


男の声に反応して視線を向けた途端、右の頬に強烈な殴打を受けた。


さらに1発受けると、今度は右手で私の首を絞めてくる。


「俺は加減ってもんが分かってる優しい優しい優しいちょー優しい男だからなあ!殺さない程度に絞めてやるよ!」


ギチギチと男の指が食い込んでいくのを感じる。


このままでは意識を失ってしまう。妹も私も不幸になる最悪の結末を迎えることになる。


かくなる上は。


苦しみでガクガクと震えながら力を振り絞り、今は自由に動かせる左腕を動かす。


「手でおれのもん握り潰すつもりか?それとも俺を殴ってどうにかしようってか?おい!?」


右腕の拳が握りしめられ、その拳が私の顔に接近してくる。それを受け止めるために左の手の平を向けた。


「度胸も力もねえガキのくせにいきってんじゃねえ・・・ぞ?」


ここで、男が動きを止めた。


目と鼻の先まで振り下ろされた男の右腕には、カッターナイフの刃が深々と突き刺さっていた。


「なんだよ!なんなんだよこれはああ!?いってえ!すっげえいてえよ!」


咄嗟に離れて痛みに悶える男を見ながら体を起こす。


実は、左腕の袖に裸の状態のカッターナイフの刃を仕込んでいたのだ。


左腕が自由になった時、袖から刃を出した。


そして、確実に反撃できるように、自分の左の手の平に刃を垂直に突き刺しておいた。そのため、拳を振り下ろした勢いで、その刃が男の腕に突き刺さったのだ。


長いカッターナイフの刃は折れて、上半分は男の腕に突き刺さり、下半分は私の手の平に深く刺さっている。


痛みで情けなく喚きながら男は言った。


「てめえマジで許さねえ!俺の優しさを踏みにじりやがって!絶対楽には殺してやらねえ!四肢切断して一生俺のもん舐めてもらう!生きたまま首切ってやる!死んだ後は、俺の体液で塗り固めたオブジェ作ってやっか・・・」


私は、冷静に男に近づきながらポケット内のライターを取り出し、その火の先端を男の舌に当てた。


奇声をあげる男。今度は、アスファルトの上に転がる虫よけスプレーを拾い、見開かれた男の右目に噴射する。


のたうち回る男を見下ろしながら、今度はリュックからコンパクトな剪定ばさみを取り出す。


梨の木やリンゴの木などの太い樹木の枝を切るために考案されたはさみで、祖父が使用していたものを拝借した。


剪定ばさみは極めて鋭利で、何かを切断するのに力はほとんどいらない。


そのはさみを見た瞬間、男が青ざめたのが分かった。これから自分が何をされるのか理解したのだろう。


はさみの先端を男の股間に向けると、男は力強く首を横に振った。


「分かった」


私はそう言うと、すっかり無防備になった男の右の小指の第一関節を切断した。


迷いはなかった。


切れらた痛みを感じつつ、断面から溢れ出る血を見て悲鳴を上げる男。


そんな男に対し、はさみの先端を見せつけて刃を動かす。さらにもう1本指を切り落としてしまおうかという風に。


すると、ここで男は後ろに一歩下がり、慌てて土下座をした。


「も・・・もうやりましぇん!あにゃたにも妹にも手を出しましぇん!」


ついさっき、火で舌をあぶったので呂律が回っていない。


ただし、すっかり恐れをなしたことは分かった。


そんな姿を見ているうちに、私はこの男を視界に入れることが嫌になった。


そこで、もう二度と現れないようにこう言った。


「次姿を見せたら、残りの指も覚悟しておいて」


その言葉聞いた男は、青ざめて短い悲鳴をあげた。


そして、ワゴン車に乗ってエンジンをかけると、自由の利く左手でハンドルを操作し、どこかに走り去って行った。壁やガードレールに何度も激突しながら。


「姉さん!」


男が完全にいなくなると、妹が心配そうに駆け寄ってきた。


「殴られて痛かったよね!?それに、手に刃が刺さってるの、とっても痛そう!」


そう言われて、私は自分の左手を見る。


出血はそこまでないが確かに痛い。


それに、思いのほか深く刺さっている。医者に傷を縫合してもらう必要があるかもしれない。


だが、余計なことを言って妹を心配させるのは避けたいところだ。


「ねえ?大丈夫?痛くない?さっきの男の人、怖くなかった?」


「大丈夫だよ」


「だ、だって・・・私をかばったせいで姉さんが痛い目に遭ったのに・・・」


「妹が一番」


そう言いながら微笑む。


その後、私は縫合手術を受けた。両親には、自室でふざけていた時に偶然刺さってしまったという苦しい言い訳をしておいた。納得しているかどうかは分からない。


数か月後。


私は、部屋で眠っている妹の頭を優しくなでる。完璧とは言えないが守ることができた。私の手の傷などどうってことはない。


あれ以来、あの男の姿や噂は一切聞いていない。どこか遠くに行ったのか、今も身を潜めているのか。


だが、どうでもいいことだ。


いずれにしても、自分達の前に現れないことを祈るばかりだ。

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