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7 再会と寂しい涙(2)


「貴女がフローラ様でしょうか?」


 湖の向こう側からこちらへやってきた集団は、全部で五名。その代表者なのか、人当たりの良さそうな長髪の男性が話しかけてきた。


 ブラウンの長髪に深い藍色の瞳。優しい微笑みを浮かべているが、どこか一筋縄ではいかない雰囲気を携えている。


「……何故、私の名を?」

「我が主より貴女のことを聞いて、お探ししておりました。先日、ここで助けていただいたと」

「!?」


 レオ以外に助けた人間は居ない。つまり、レオはやはり、こうして使いを出せる程の貴族だったのだ。まずい。お腹の子の存在に気付かれれば、跡取りとして取り上げられるかもしれない。


(もしくは、始末される──)


 フローラは思わず腹に手を当て身構えた。


 すると、長髪の男性は柔和な笑みを浮かべ、「まず第一に貴女に危害を加えるつもりはありません」と両手を上げた。そして目配せをし、護衛と思われる他の数名を下がらせる。


「私はバルドと申します。我が主から、フローラ様には大変お世話になったと聞いています。ありがとうございました」

「いえ、私は何も」

「腕や足を負傷し、毒も盛られていたようだと言っておりました。どちらもあっという間に完治したと聞いております」


 レオは随分詳しく話したようだ。ということは、この人はレオの近しい人なのかもしれない。


「レオ……様は、お元気、ですか?」


 思いがけない友好的な態度にも警戒心を緩めず、レオの様子を聞く。すると、バルドは途端に表情を曇らせた。

 

 その顔をみた途端、悪い想像が頭を巡る。よく考えれば思いつくことだ。レオは怪我を負っていた。それは命を狙われていたということだ。しかも貴族であるにもかかわらず、こんな森深くに逃げ込まなければ危険なほど。


「ま、まさか」

「いえ! 我が主は生きておられます! しかし……」


 生きている。その言葉を聞いて一気に安堵した。だが、まだバルドの顔は曇ったままだ。バルドは一歩フローラに近寄る。そして、彼の護衛にも聞こえないであろうくらいの音量で小さく告げた。


「実は……呪いをかけられてしまいまして」

「呪い!?」


 レオが、呪いにかけられた──!?


 フローラは、魔女だからこそ、呪術の恐ろしさは熟知している。命さえ奪うことも可能なその呪いで、レオが儚くなってしまったら。

 心臓が嫌な音を立てて鳴り始める。


「貴女は古の魔女の血を引くお方だと聞いています。どうか、我が主を救っていただけませんか?」



 バルドに懇願されたフローラは、レオに会いに行くことにした。

 家の中で待機していたらしいクロ様に、その事を伝える。


『体調が万全ではない今、無理をするのは危険だ。家で療養しろ』

「……ごめんなさい。クロ様……」


 レオのことが心配で居ても立っても居られなかった。結局フローラはクロ様の制止を振り切って森を出ることにした。


 森を抜け、近くの街に停めてあったバルドの馬車に乗る。そこから三日かけて来たのは、ガルディア王国の王都だった。


 道中は悪阻に耐えながら、気づかれぬようあまり喋らず過ごした。

 バルドをはじめとする人間達は、フローラが車酔いをしていると思っていたようで、あまり怪しまれず助かった。


「到着したようてす」


 揺れと吐き気に耐えながら、目を閉じていたが、バルドの声で目を開ける。

 馬車の扉が開くと、大きな宮殿があった。


 白を基調とした建物で、高い塔がいくつもある。今までに見たことがないほど大きな扉を開けると、シンプルだがところどころに金色が散りばめられた内装にまた驚いた。


(王都にこんな宮殿を建てられるだなんて……まさか……)


「道中にあらかじめご説明すべきかと思いましたが、体調が優れないご様子でしたので。ともかく我が主に会っていただきます」


 段々と青ざめていくフローラに気付いたのか、バルドが申し訳なさそうに言った。

 辿り着いたのは、紅の絨毯が長く敷かれた重厚な部屋だった。その絨毯の先は、少し段差がありフローラがいる位置よりも高い。そしてその頂点に椅子が。


 ここは、まさか──。


「あの、もしかして……」

「はい。我が主は、レオナルド・カルディーニ第二王子です」

「レオナルド……王子!?」


 高貴な人物だと思っていたが、まさか、王子様だったとは。

 フローラは思わず、自分の下腹に触れた。この子の存在は、なんとしても隠さなければならない。


「内乱を制圧したばかりです。呪いのことはご内密に」

「……わ、分かりました」


 バルドとともに頭を下げて待機していると、誰かが座るような衣擦れの音がした。


「顔をあげよ」

「……!」


 それは、フローラが夢に見た、一番聴きたかった声。

 そして顔を上げると、悪阻で辛い日々に、ずっと会いたかったその人が居た。


(……レオ!!)


 玉座には国王様と思われる方が座り、その横にレオが立っている。思わず涙ぐむと、わずかにレオが驚いた顔をした。


 そして冷たい声が室内に響く。


「バルドが勝手をした。しばらくは客間を使って構わないが、そなたをこの王宮にとどめるつもりはない。森へ帰られよ」


 太陽のような金色の瞳は濁り、身体はやせ細っている。覇気のない言葉は、温かみを帯びることはなく、切り捨てるようにフローラに届いた。


(……レオ……)


 レオの呪いは、随分進行していた。


ついに再会!

でもレオの様子がおかしい……!

明日も投稿しますので、よろしくお願いします!

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