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20 逃亡と答え合わせ(5)


 その後、レオの暗殺を企む者は、皆捕らえられた。その多くは、数多くいる王太子派の過激な一部の貴族で、社交界のパワーバランスには影響はなさそうだということだ。


 フローラはレオと二人、夕暮れの庭園を歩いている。


「身体は大丈夫なのか?」

「はい……」


 命を狙われたことも、クロ様が父親だったことも、自分が魔族と魔女の間に出来た子どもだったことも、驚くことばかりだ。

 そして、クロードに向けてレオが言っていたことも。


 レオはフローラが森に逃げたことをどう思っているのだろう。フローラは一度逃げてしまったことが気まずくて仕方がなかった。


「フローラが、無事でよかった」

「アルノルド殿下とモーガン様が助けてくださったので」

「よかった」

「家族以外の魔法使いに初めて会いました」

「公にしていないだけで、この国は魔法に支えられて成り立っている」

「知りませんでした」


 捕えられていた女性が魔女で、レオに呪いをかけたのだと知って驚いた。同業者が意外にもたくさんいると知って、嬉しいような複雑な気分だ。


 気づくと、王宮の庭園の端にやってきていた。少し高くなっているそこからは、王都の街並みがよく見える。夕陽に照らされたその大きな街はとても綺麗だ。オレンジ色に輝く街並み。ふと横を盗み見ると、フローラをじっと見つめる金の瞳と目が合った。


 オレンジ色に照らされた美しい金の瞳は何よりも輝いて見えて、優しく細められただけで涙が滲みそうになる。胸がギュッと締め付けられた。


 レオがフローラの手を取り、両手に包んだ。


「フローラ、君を愛してる」


 金の瞳がフローラを見ている。真剣な眼差しがフローラの鼓動を早くしていく。


「頼む。どうしても君と一緒にいたいのだ。側にいたい。ただそれだけでいい。それしか望まない。ずっと、死ぬそのときまで、私の側にいてほしい」


 フローラは思わず周りをキョロキョロと見回した。庭園の端まで来たせいか、どこにも人影は見当たらない。


「大丈夫。前回みたいに誰かに見られないように、気をつけた。本当はモーガンあたりに結界でも張って貰ったら完璧なんだろうが……。誰にも見せたくなかったから。フローラと私の二人だけの時間にしたかった」

「レオ様……」


 レオは嘘をついているようには見えなかった。フローラが森に帰ったと聞いて、クロードと共に森まで探しに行ってくれたのだと聞いて、フローラは嬉しかった。


 でも、王族の血を引く子どもがほしいだけなのではないか、媚薬を盛る程にフローラがレオを想っていることに気遣って、愛の言葉を囁いてくれているのではないか。そんな疑心暗鬼になる心を、この不安をどうしたら解消できるのか、フローラには分からない。

 その上、自分は魔女と魔族の血を引く存在だと分かってしまった。そんな厄介な出自の自分が、王族の妃になんてなれるのだろうか。


「私に媚薬は効かないと言ったら、信じてくれるだろうか」

「!?」

「幼い頃から狙われ続けていたからな。慣れている。君が使ったのは特別弱いものだった」

「う、うそ!」

「本当だ。フローラ、私は君を捕まえて離さない為に抱いた。貴族でもない君を妃に迎えるためには、孕ませるしかないと思った」

「えぇ!?」


 まさかの最初から計画的な妊娠だったのだと告げられて、フローラは驚愕した。


「媚薬まで盛られたんだ。君も同意してくれてると思って」

「あ、あれは!」

「魔女の血を繋ぐ方法なのだろう? だが、誰でもいいわけではない」

「……っ」

「フローラ、愛してるよ」


 レオは握っているフローラの手をそっと持ち上げて、その手の甲にキスを落とした。


「っ!」


 フローラの瞳に涙がいっぱい溜まる。紅い瞳も涙も夕陽に照らされ、光を浴びながらポロリと雫が落ちた。レオはその光の雫を指で拭うと、フローラの頬を手で包む。微笑みを携え、愛の言葉を降らせる。


「愛してる。何度でも言う。フローラだけを想っている。君のお腹の中にいる、私の子どもも。私が望んで出来た、愛しい我が子だ」

「っ」


 そこまで聞いて、フローラは涙を止めることが出来なくなった。確かに血を繋ぐために媚薬を盛った。でもそれは、レオとの思い出が欲しい気持ちも大きかった。子を妊娠することが、こんなにも自分の身体を、精神を削るのだと知らなかった。不安で怖くて辛くて、誰かに縋りたかった。そしてそんな安易な気持ちで妊娠してしまったことが、お腹の子に申し訳なくて。

 だからこそ、レオが、「望んで出来た子」なのだと言ってくれたことが、嬉しくて仕方がなかった。


「魔女であることは気にしなくていい。既にこの王宮で何人もの魔法使いや魔女が働いている」

「え」

「魔法は便利だ。過去の過ちが繰り返されぬよう、王族としてこれから魔法使いや魔女達への偏見を減らしていく。クロード殿とも協力して、魔物とも上手くやっていきたい」


 レオはフローラの腰を柔らかく支える。そして、そっと寄り添うように抱き寄せた。


「フローラと、この子を、全力で守ると約束しよう。その代わり、一生そばにいてほしい」

「……いやだと、言ったら?」

「いいと言うまで、懇願する」

「この子の父親になりたい。何よりフローラの夫になりたい。もう離れたくない」

「私、レオ様の迷惑に……」

「なるわけがない。君がどこかに消えてしまう方が、私は生きていけない」


 レオの瞳が、口が、暖かな手が、腕が、全力でフローラを求めている。フローラはその意思を感じ取り、胸がいっぱいになった。


「私も……ずっと、一緒にいたい」

「ああ!」


 レオはフローラのお腹を気遣って優しく、けれどもしっかりと、彼女を抱きしめた。そして夕日が沈んで辺りが暗くなるまで、唇を重ね続けたのだった。

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