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連合軍上陸

作者: 目262

食糧を探しに入った民家で無傷だが非常に古いラジオを見つけたので、何か情報が得られるかもと思い電源を入れた。

しばらく待つとスピーカーからは様々なノイズが混じった抑揚のない男のやや高い声が聴こえる。チューナーのダイアルを動かして電波を捉えると、その声はこう言っていた。

「大本営発表。帝国陸海軍精鋭は昨日鹿児島に襲来した敵上陸部隊と激しい攻防戦に突入。勇戦によりその過半を撃退したものの、一部の敵の本土上陸を許す。現在上陸した敵を撃滅すべく各方面より友軍が福岡に集結中。九州在住の全国民義勇隊は至急現地指揮官の指示に従って福岡に合流せよ。皇国の荒廃この一戦にあり。進め悠久の大義の道……」

ここで途切れた。この時期に誰かが悪戯でこんなことをやる訳がない。

あれのせいか。

私は窓の外に目を向けて空を見た。見渡す限り靄のようなもので覆われており、それはあちこちでオーロラのように赤や紫、青や緑といった七色に輝き、しばらくすると他の色に変わり続けている。

数年前に学者たちが予測した通り、大規模な太陽フレアが発生した。その影響は予期していたものより遥かに深刻で、昨日から世界中で通信障害が起こっている。空の変色もそのせいなのだろうと、私は勝手に推測した。

ここではない何処か、ここよりも若干時間の流れが遅い、日本が降伏しなかった世界からあのラジオ放送が流れてきたのかもしれない。

ダウンフォール作戦。日本が降伏したためにこちらの世界では実行されなかった、苛烈な連合軍上陸作戦が発動されてしまった、向こうの世界の日本はこれからどうなってしまうのか。我々が享受してきた平和を得ることもなく、総玉砕を覚悟した日本人は一体どうなってしまうのか。

平和か……。私は溜め息を吐いた。

再びスピーカーから、先程よりはやや明瞭な音声が聴こえてきた。若い女の少し疲れた声だった。

「ここでニュースです。本日早朝博多に上陸した敵部隊は陸上自衛隊の防衛ラインを突破して現在は市街戦が行われています。まだ残っている住民は至急指定された場所へ避難してください。また、昨日釧路に上陸した敵部隊は空陸自衛隊が構築した防衛ラインによって進軍が停止しています。周辺住民の南部への避難は完了していますが、更に本州へ避難しようとする人々で混乱が発生しております。現地の人達は自衛隊、警察の指示に従い冷静な行動をお願いします。政府は臨時の自衛隊員の募集を決定しました。18歳から65歳の国民で入隊を希望する方は、お近くの行政窓口にて受け付けています。続きましてアメリカでは……」

またしても声は唐突に途切れたが、その先の内容は知っている。一ヶ月前に聞いた放送だからだ。

やはりあの空のせいで時空間に異常が起こっているのだろう。もしかしたら太陽フレアに加えてワシントンや北京を焼いた核爆発も原因になっているのかもしれない。

いつまでもここに長居はしていられない。もうすぐ敵が、連合軍を勝手に自称している敵が移動してくるのだ。

私は白髪頭にヘルメットを被り直すと、至急品の自動小銃を肩に担ぎ穴だらけの民家を出て、七色の空が怪しく照らす瓦礫の荒野をよろめきながら歩きだした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 後半の近未来のホラーの為に、敢えて前半でファンタジー(個人的には反則技ですが)を使う構成で、昨今のロシア対NATOの代理戦争を見ると現実味のあるホラーでした。 過去のニュースが流れるのは…
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