EP3:軋轢
ルカと共にエドの元へと駆けつけてみると、そこではマリアに何やら噛みついているフランシス嬢と、そんな彼女から許嫁を守るようにして前に立つエドの姿があった。
「だから!殿下はその女に騙されてるんです!殿下だって本当は私の事が好きなんですよね?!」
「何度も言っているだろう。私が愛しているのはマリアだけだと。そもそも私の大切な許嫁に対してその物言いは感化出来ん!」
どうやらお互いにかなり熱くなってしまっているようだ。
マリアに関してはフランシス嬢のあまりの剣幕に怯えてしまっているのか、エドの背に隠れたまま顔を出そうとしない。
仕方なく俺は二人の間に割って入ることにした。
「待て待てエド!これ以上続けたら騒ぎが大きくなるって!」
「イド、しかしだな……」
「イド様!この私を助けて下さるなんて嬉しいです!」
エドを宥めようとしていた俺の背後から、フランシス嬢が勢いよく抱きついてきた。
そしてマリアを指さして、とんでもない事を言い始める。
「この女が殿下の弱みを握っているに違いないんです!私を愛してくれているイド様なら信じて下さいますよね?」
その瞬間、空気が凍りついたような気配がした。
その言葉に俺は思わず固まってしまい、エドとマリアは共に目を見開いて俺を凝視している。
更に騒ぎを聞き付けて集まっていた他の貴族の子息や令嬢までもが、あらぬ疑いの目を向けており、俺は針の筵状態となっていた。
そんな時、ルカのこんな声が聞こえてくる。
「本当……だったんだ……」
「ルカ……」
目を向けてみると、そこには絶望の表情を浮かべたルカが立っていた。
ショックのあまり震えているのか、立っているのもやっとという状態……俺は直ぐにフランシス嬢を振り解くと、ルカへと駆け寄り弁明を述べ始める。
「ルカ!言っておくがフランシス嬢の言ってることは事実無根だからな?」
「じゃあ……なんで直ぐに否定しなかったの……?」
「いや……それは、あまりにも突拍子も無い発言だったんで思わず……」
「思わず……何?本当は僕よりもフランシス嬢の方が好きだったんじゃないの?」
「だからどうしてそうなるんだ?!俺はだな────」
「もういいよ……僕、今日はもう帰るよ……」
「おい、待てってルカ!」
「触らないで!!!!」
踵を返して立ち去ろうとしたルカの肩を掴んで引き留めようとした時、彼女はその手を勢いよく振り払った。
振り返るその目には涙が浮かんでおり、それを見た俺は思わず何も言えなくなってしまう。
「あ……」
ルカはか細い声で声を漏らすと、勢いよくその場から走り去ってしまった。
残された俺は暫く呆然と立ち尽くしてしまうも、騒ぎを聞き付けて駆けつけてきた教師達により、教室へと戻されたのだった。
そしてルカは翌日、教室に来ることは無かった。