EP1:殿下からの調査依頼
ど〜も、ヴリトリア王国王太子であるエドワード・ジョージ・イングヴァルト・ヴリトリア殿下の専属護衛役のシェイド・ヴェノムヴェインです。
王国建国記念日のパーティーにて幼い頃に成り行きで助けたルカ・ルフトゥ・アルビオン・ストラトスとの再会を経てから早3年……俺はエドとルカと共にヴリトリア王国の王立ヴリトリア学園へと通うことになった。
貧民街で暮らしていた頃には学園に通えるなんて思いもしなかった訳だが、今はそんな学園生活を存分に謳歌していると言っても過言ではない。
そんな俺だが、ある日ルカと共にエドに呼び出されることとなった。
ちなみに三年前のあの日、俺の許嫁に立候補したルカだが、エドの手引きもあって無事に(?)俺の許嫁となっている。
ルカはあの日に俺に一目惚れしていたらしく、初恋が叶っての許嫁となれた事に今でも喜んでいるらしい。
まぁ別にいいが……ともかくそんなルカと共に呼び出された俺は、エドが待つ屋上へと足を運んでいた。
「呼び出しに応じて参上仕りましたよ、っと殿下。いったい俺とルカに何用なんですかね?」
「お前という奴は……私が呼び出す度にそんな嫌そうにするな」
「殿下の呼び出し程、禄なもんはねぇんで」
「お前なぁ……というか私達だけの時はいつも通りエドと呼んで構わん。まぁ良い。それよりも今回呼び出したのは、二人に頼みたい事があるのだ」
「頼みたい事?」
俺の代わりにルカがエドにそう問いかけた。
「あぁ、実はだな……私の許嫁である〝マリア〟があらぬ疑いをかけられているらしい」
〝マリア〟とはエドの許嫁であるローゼクロイツ公爵家令嬢の〝マリアベル・ヴィクトリア・ローゼクロイツ〟の事である。
エドとは非常に仲睦まじく、他の令嬢達の間では〝この国で唯一、殿下に相応しきお相手〟として有名かつ大人気なご令嬢だった。
ちなみに俺とルカとも顔見知りであり、仲良くさせて貰っている。
そんなマリアにあらぬ疑いがかけられているとは……いったいどのような疑いなのだろうか?
「この学園にフランシス男爵令嬢がいるだろう?」
「あぁ、確か貴族の間では有名な〝勘違い令嬢〟……」
酷い言い草だと思うだろうが、この蔑称はそうとしか言えないと言えるほど的を得ている。
フランシス男爵令嬢……〝アンネマリー・フランソワ・フランシス〟は貴族の子息達からは非常に高い人気がある人物で、しかしご令嬢達の大半からは非常に嫌われている人物でもある。
〝勘違い令嬢〟の名の通り、強烈すぎるほど勘違い甚だしいのである。
〝殿下の許嫁に相応しいのはこの私〟という発言はまだ可愛いもので、酷いものでは〝殿下はマリアベル公爵令嬢に弱みを握られている。だから殿下は仕方なく許嫁となっている〟という根も葉もない発言を当たり構わずしまくっているのだ。
そのせいでエドには連日、貴族子息達からその真偽について問い合わせられている状況だった。
「その勘違い令嬢がどうしたんだ?」
「なんでも、フランシス嬢は最近になってマリアから執拗な嫌がらせを受けていると吹聴しているらしい」
「「はぁ?」」
俺とルカの声が重なったのはある種仕方ない事である。
マリアベル・ヴィクトリア・ローゼクロイツという人物は誰に対しても優しく、品行方正にしてお淑やかな、まさに〝貴族令嬢の鑑〟とも言うべき人物である。
そんな彼女が嫌がらせなど、天地がひっくり返ってもありえない事であった。
「なんたってそんな話が出てくるんだ?そもそもフランシス嬢とマリアに全くと言っていいほど接点はねぇだろ?」
「だからこそ私も信じてはおらん。逆に私のマリアを貶めようとするフランシス嬢に怒りを抱いている程だ」
エドはとにかくマリアにゾッコンで、その溺愛っぷりは見ているこちらが口から大量の砂糖を吐き出してしまいそうになるくらい甘々であった。
それは良識的な貴族子息や令嬢達にも有名な事実であり、フランシス嬢の発言はまさに〝事実無根〟な話であった。
「それで……そんな話をして、いったい俺達にどうしろと?」
「その話が本当なのか調査して欲しい」
「おいおい……マリアを信じてるんじゃ無かったのか?」
「信じているに決まっているだろう?しかし貴族連中はそうはいかない……これでマリアにあらぬ嫌疑がかけられ、最悪、私との婚約が白紙になっては困るのだ」
「なるほど、つまり僕達がその真偽を調査する事が、何よりもマリアの潔白に繋がるのだと……そういう事ですね殿下?」
エドの真意を理解したルカが確認するようにそう訊ねると、エドは大きく頷いてそれを肯定した。
「そうだ。マリアは私にとって何よりも変え難い存在だ。彼女の名に傷が付くことは忌避せねばならない……頼まれてくれるか?」
「了解。そういう事なら任せろって」
「感謝する。私は暫くマリアと行動を共にする事にしよう。今までよりも仲睦まじい姿を見せれば、フランシス嬢の発言は偽りであると理解して貰えるだろうからな」
「事はそう上手く行くかねぇ……」
「「……?」」
一抹の不安を抱いた俺がそう呟くと、二人は揃って疑問符を浮かべていた。
(あの勘違い令嬢がエドの思惑通りに行動するとは思えねぇしな)
俺は拭いきれぬ不安を抱きつつも、エドとマリアの為に調査へと乗り出すのであった。