幸せすぎ
ほのぼのした内容が含まれています。
世の中には、星占いを信じる人とそうでない人がいるだろう。
俺は前者だった。
だから、上位に入ると嬉しくなる。
「俺、1位だった」
大学に着いてすぐ、友人の野沢に自慢した。
「まじ?良いことあるんじゃね?」
「お前もそう思う?」
「うん。もしかしたら、徳永さんに告られたりしてな」
野沢は嬉しいことを言ってくれる。
まさか、いくらなんでも、そんな夢みたいなこと起こるわけないと思うけど。
大学にいる間、特に何も起こらなかった。
もしかして、星占いって当てにならないのか?
「ねえ、栄二くん」
諦めて帰ろうとした時、女性の声に呼び止められた。
クラスのアイドル的存在、徳永さんだった。
「何?」
「今日、家に遊びに来てもいい?」
「……。別にいいけど何で?」
「なんとなく行きたいと思ったから。ダメ?」
つぶらな瞳で言ってくる。これには俺、弱いんだ。
「いいよ」
もちろん、断る理由はない。
徳永さんが来るのは初めてだ。
彼女が来るのに備えて、一生懸命部屋を掃除して待った。
こんなに掃除に真剣になったのは初めてだった。
でも、一つ心配事があった。
彼女は俺の家を知らないはず。そして、教えていない。
来れるのか?
ピンポーン♪
来れたようだ。
「ごめん、遅くなった」
「大丈夫だよ。待ってないから」
これは嘘だ。本当は待ちくたびれるほど待った。
「俺の部屋、ちょっと暗めだけどいいかな?」
部屋の明かりは俺の好みで、ちょっとオレンジっぽい感じにしている。
「うん。むしろ、オシャレで良い感じだと思う」
彼女はにっこり微笑んだ。その表情にキュンときた。
彼女がなんで家の場所が分かったのかなんて、どうでもいいことのように思えた。
晩ご飯は彼女が作ってくれるらしい。
コンコンという、食材を切る音が心地よく部屋に響く。
こうして、女性が料理をしている姿を見ると、なんだか本物の彼女を手に入れたような気分になる。
「もしかしたら、徳永さんに告られたりしてな」
野沢の言葉を思い出す。
ワンチャンあるかもしれない。
「おいしい?」
彼女は心配そうに聞いた。
「もちろん、最高だよ」
本当においしかった。
すごいな。顔も良いのに料理も出来るなんて。尊敬する。
「ねえ、知ってる?」
「何が?」と聞くと、テーブルの上で湯気を立てている、みそ汁についての歴史を教えてくれた。
「みそは確認できる資料では平安時代に出てきて、みそ汁は鎌倉時代から食べられるようになったんだって」
「へえ、知らなかった。良く知ってるね」
「私、料理好きだから、料理の歴史とか調べたりするの」
偉いなあ、と思った。
全部残さず食べた。
「本当においしかった。作ってくれてありがとう」
「いいえ。喜んでもらえると嬉しい。あの人も私の料理好きなのよね…」
「あの人?」
え?誰?あの人って。めっちゃ嫌な予感するんだけど。
「直ぐに分かるわ」
彼女は不気味な笑みを浮かべた。
その時、家のベルが鳴った。
誰か来たらしい。
「迎えに来たぜ」
そう言ったのは、まさかの野沢だった。
なんで野沢がここに?
「おお、栄二久しぶり」
彼は同じ日でも、次の日でも「久しぶり」と言う。
「何で来たの?」
彼が来たのが不思議で仕方なかった。
「だって、こいつ、俺の彼女だもん」
「え?」
「え?って、知らなかったのかよ」
そんなの知るわけない。だって、知らされてないから。
「帰るぞ」
彼の一言で二人は帰っていった。
玄関のドアの向こうで、「あいつ、つまんなかった」という女性の声がしたのは気のせいだっただろうか。
0時を過ぎていた時計は、落胆する俺を静かに見つめていた。
幸せが、実は虚構の幸せだったという悲しいお話しでした。