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10・9話 儀式

次話 明日正午更新予定。


少し長めです。


 俺は10歳になった。


 

 この世界では、10歳になると、加護が発現するといわれている。ーー10歳になって突然、力に目覚めといったことではなく、生まれた時点で加護が存在し、成長するにつれて、加護の存在が強くなるとされている。加護の強さに身体が耐えられないのが原因では、と考えられている。ーー

 

 また、加護は覚醒するともいわれている。

現に、“剣聖”と呼ばれるS級冒険者や“魔女”と呼ばれる宮廷魔術師はその圧倒的な力を有している。

 さらに、昔、魔族を撃退した英雄の仲間は初め、弱いとされていた加護であったようだ。ーー英雄と呼ばれる前は冒険者だったらしく、その当時のパーティーメンバーが人魔対戦にも参加していた。また、英雄自身は強力な加護で初めから無双していたらしいーー



 その加護が一体どんなものか調べることが儀式である。

正確には、宗教(教会)が抱える鑑定の加護を持つ神官がどんな加護を持っているのか、本人に教えることである。

 神官がわかることは、その加護の名前、効力だけである。


 本人が加護の名前、効力について理解することで、加護の扱い方がわかるようになるらしい。ーー加護の存在が大きくなることが原因。加護自体は個人に大きく依存しているのも一つの要因。ーー



 そんな儀式があるため、俺と父は王都の教会に行くことになった。ーー10歳前後に教会に行って、加護を確認することが慣習となっている。ーー



 シャルフィード伯爵領から3日かかって、王都“ベルラフォン“に到着した。


 王都の人口は500万人と総人口の半分を占めている。

ちなみに王都以外にも王国内には、冒険者が多くいる”迷宮都市“や観光で有名な”ヴァドン“が存在している。

迷宮都市には50万人、ヴァドンには30万人、人が住んでいる。

 また、王都はこの大陸内で最も大きな都市といわれ、国内人口も国土も他の国より優れている。


 王都は王城を中心に円形に広がっている。そして、王都の外縁部には城壁が聳え立っている。壁上にはは櫓や投石器(カタパルト)が設置されている。

 というのも、昔、英雄が生きていた時代に、王都に魔族の軍団が攻め込んだことがあった。この時は、多大な犠牲を払いながらも、王国は魔族を追い返すことができた。

 このことが教訓として、王都の区画整理、再建が行われた。


 新たな王都ーー現王都ーーは小高い丘に位置している王城を中心に築かれた。 

 王城自体は堅牢で、周辺を水堀ーー天然の川を利用ーーと城壁に囲まれている。

また、王都は、平安京・平城京のような碁盤の目でも、現在の都会の直線的な区画ではなく、どちらかと言うと、パリの街に似ているだろうか。

 

 通りは、王城から東西南北に一本ずつ、大通りが存在しているが、北、東、西の大通りは、城壁外まで繋がってはいない。

 王城の正面である南の大通りは最後まで続いている。

 これには多くの理由が存在している。


 まず、建国の女神であるアズベルは太陽の女神でもあることが大きな要因である。ーーアズベル教の教義で説明されているーー

 次に、王城まで続く大通りは、祭りやパレードに使用でき、封建制度の維持に大きな役割を持っている。軍を組織し、出陣・戦場から帰還する際には、王族や貴族の力を宣伝する場にもなっている。


 



 その南通りを進み、王城近くまで進むと、巨大な教会が見えてきた。

外装は、スペインのサグラダ・ファミリアに似ているだろうか。


内部は、白を基調としたカトリック風な内装が厳かな雰囲気を醸し出していた。


中では儀式待ちの子供が列を成していた。

その最後尾について待っていると、


周りの子供や大人が騒ついた。


 「ぇ!……黒髪だ………」

 「あいつ誰だよ」

 「なんで教会に来てるんだよ」


という会話が聞こえてきた。


 俺がその一団に視線を向けると、

 彼らは、嫌な顔をしていて、忌避するような目を返してきた。




俺は髪の色が黒であることを失念していた。


 この世界において魔族が黒髪である。古来から、魔族がこの大陸に攻撃してくるが、その理由が明確にわかっていない。

 しかし、今から200年前、英雄の生きていた時代の人魔大戦が起こった際、アズベル教が教義として、『魔族は魔神を信仰し、アズベル、ひいてはエクロピクスを邪神と考え、その信者である我々を排除しようと戦いを起こしている』と教皇が公言した。


 これが、黒髪が忌避される要因である。

 黒髪自体は珍しいだけで、大陸、国内にも少ないが存在している。



 

 周りが騒ついているが、黒髪だからと一概に儀式をしてもらえないということはないようだ。

 現に、父が俺を教会に連れてきているし。


 そうこうしていると、俺の番が回ってきた。


 担当の神官は眼鏡をかけた優しそうな人だった。おそらく、黒髪に忌避感があまりない人が選ばれたのだろう。

 宗教といっても一枚岩ではなく、様々な宗派、教義が存在しているのだろう。


 そして、俺の加護が“解呪(ディスペル)“であると知った。


解呪の効果は



“魔術式を無効化、もとい魔術の発現を阻害することで、実質的に攻撃魔術や付与魔術を()()()


であると、担当神官から伝えられた。


その直後、脳に”解呪“の知識が流れ込んできた。


大まかに分けて次の三つだった。


『”解呪“の方法は、全身に纏わりつく黒いオーラに魔術、また、それに付随する魔術式、魔力が触れることで無効化できる。』


 『現在は自分に向けられた魔術を()()無効化する。』


 『黒いオーラは全身に纏うことになり、常時顕現するのではなく、魔術の反応によって一時的に、顕現する。』


 黒いオーラが魔術の無効化に関係していると言う仮説は、的をいていたようだ。


 俺の加護”解呪“は、自分自身の攻撃魔術を妨害してしまうという弊害を抱えていながらも、敵の魔術を受けても効果がないということは、俺の闘い方には、向いていると思う。

 また、加護は覚醒すると言われているし、”解呪”の能力に興奮した。


 

 父は神官の言葉を聞いて、唖然としていた。


 俺はまた大騒ぎして喜ぶと思っていたので、拍子抜けしてしまった。


 父は俺に

「家に帰ったら、お前の加護について聞く」

と言って、そそくさと馬車の方に向かった。




 家に帰るまでの馬車内の空気は、行きの空気とは真逆の険悪な雰囲気だった。



 そして、ついに、家に帰還した。





この後に起きる、大きな転換の渦について、当時のアベルは知る由もなかった。




次話 追放

 儀式が終わり、アベルは思わね方向に進んで行く。


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