表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/22

行動方針決定、そして準備

 すっかり夜もふけてきた頃。

 2人で改めて今後のことを話し合ったことをまとめると……


 まず明日の朝、一度学校を離れる。

 例の武山達が、光の死亡確認に来る可能性を考えてだ。


 光は置き去りにされたことには怒っているし、できることなら奴らを痛い目に遭わせたいと言っていたけど、家族や俺の安全を優先するとのことなので、ひとまず安全な場所に姿を隠し、下手に武山達を刺激しないようにする。


 その安全な場所の候補として向かうのは、光が家族ぐるみの付き合いをしていたという人のお店。


 この状況ではその人がどこにいるか、生きているかも分からないが、その人の店には食品保管庫を兼ねた地下室があり、身を隠すには都合が良いとのこと。こんな状況は想定していなかったけれど、有事の際はいつでも店に来ていいと言われていたらしい。


 また、光の話を聞いてみると、今のグループに執着はないらしい。


 少ないとはいえ安定的に食料がもらえたし、ある程度の安全も確保されている。そして何よりも家族がいたから窮屈でも我慢していたけれど、武山の件や置き去りにされたこともあるので、どちらかといえば今のグループにはいたくないとのこと。


 だから、移動先で光の安全が確保できると判断できたら、顔の割れていない俺が1人で薬を持って、光の家族のいる場所へ向かおうと思う。


 来る者は基本拒まず受け入れているというグループの性質を考えれば、中に入ることは容易いだろう。もしもの時は家族や知人を探していると言えばいい。そうして上手く入り込めたら光の家族を探して、薬を渡して光の無事と事情を伝え、後のことを相談する。


 ないことを願いたいけれど、トラブルがあればその都度対応することになるだろう。


「こんなもんか」

「うん、俺もいいと思う」

「よし、じゃあ光、契約してみるか」

「分かった」


 俺との契約を試すことについては、先々のことを考えたらやって置いて損はない。


 ということで、俺は完全スライム化。


「マジでスライムになるんだな……」

(おーい、見てないでやってくれよ……)


 体の一部にぐっと力を入れて伸ばして、かかってこい、という感じのジェスチャーをする。


「っと、早くやれって言ってるのか。よし、やるぞ兄ちゃん!」

(こい!)

「“契約”っ!!」


 その瞬間、光の体から何かが噴き出すような気配をスライムの感覚が捉えた。

 その何かは瞬時に俺の体に纏わりついて、細い糸のように俺と光を繋いでいる。


「……どうだ?」


 聞くということは、どうやら光がやることは終わったらしい。

 糸のようなものは確かに残っているけれど、物質的な物ではないようだ。

 コレが契約なんだろう。


 これでモンスターと意思の疎通ができるらしいが……俺は喋れないしな……念じるくらいしかできないけど、


(おーい)

「うわっ! 何だ? 兄ちゃん?」

(あ、聞こえてるみたいだな。頭の中で、声をかける感じでやってみたらできたっぽい)

「頭の中で……兄ちゃん、聞こえるか?)

(おお! 聞こえる聞こえる!)

(スゲーな、これってテレパシーってやつ?)

(そんな認識でいいんじゃないか? 離れていても使えるなら便利だな。まぁ、この姿で光と話せるってだけでも十分役に立つけど)

(その姿だと感知能力が無茶苦茶高くなる代わりに、喋れないし早く動けないんだよな。でもこれで言葉の問題は解決だから、俺が兄ちゃんを抱えて走れば)

(感知能力を最大限に活用してナビができるな。光の足の速さと合わせれば、強力な武器になりそうだ。何かリュックみたいな入れ物を取ってくるよ。薬や飯の用意も必要だし、その方が動きを邪魔しなくて済むだろう。ついでに声が届く距離の実験もしておこう。もう少し付き合ってもらえるか?)

(当たり前だろ)

(よし、じゃあ行ってくる)


 人間の姿に戻り、俺は再び部室棟の方へと向かった……


 ■ ■ ■


(聞こえるか?)

(聞こえてる。さっきと特に変わった感じはしないな。今どこだ?)

(排水用の側溝の中。部室棟を越えて本校舎に到達した。昼に暴れたから普段より警戒は強い感じだけど、まだ気づかれた様子なし)

(気をつけろよ)

(了解。この側溝は敷地外にも出られるから、万が一の時は……っ!)

(どうした?)

(警戒してる集団の中から、近づいてきた奴がいる……なんだ。たまたま近くの花壇の中に腰を下ろしただけみたいだ。どうやらゴブリンもトイレには行くらしい)

(そうか、心の底からいらない情報だな)

(でも集団から離れていて、木陰でこっちに背を向けている。お誂え向けだ。できるだけ静かに仕留めるぞ)


 本来はコンクリートで作られた側溝の蓋を外すための隙間から、スライムの核と体を出してデュラハンモード。さらに靴と同化した足の裏、皮一枚をスライム化することで、地面を包み込んで足音を軽減したまま、すり足で滑るように移動。


「グ、ウァ~……」

(今だ!)

「ッ! ――! ――!!」


 ゴブリンが排泄で気を抜いたところを見計らい、背後から羽交い絞めとチョークスリーパーを混ぜたような形で組み付きながら、スライム化した左手で顔を覆って抱え上げる。

 ゴブリンはしばらく手足をじたばたと動かしていたが、やがて意識を失った。


(無事に制圧完了。心配なし)


 とどめはゴブリンが持っていた草刈り鎌を使わせてもらおう。

 左手を腕までスライム化して、顔から首を覆った上で首を裂く。

 ビクリと反応した体から、噴き出すはずの血液を漏らさずに吸収。

 血の匂いで気づかれる可能性を考えたけれど、このまま吸っていけば問題なさそうだ。


 ……いや、それどころか体に力が漲ってくる。急速にエネルギーが蓄えられていく、そんな感覚。どうやらモンスターの血や肉は、水と床に溜まった埃なんかよりよっぽど養分になるらしい。だったらこのまま死体の隠蔽、処分のためにも全部吸収してしまおう。


 全身スライム化してゴブリンの上半身を包み込む。


 ……あれ? 考えてみたら普通っていうか、水はともかく埃をエネルギーにする方がおかしくないか? なんだか、だんだんと色々な基準が狂ってきた気がする。時間があるときに光と常識のすり合わせをした方が良いかもしれない……


(兄ちゃん!)

(どうした?)


 脳内に響く声に興奮を感じる。


(今、俺のステータスにスキルが増えた!)

(ってことはパワーレべリング成功だな!)


 成功してよかった。これで今後、できることが増えていくだろう。


(で、新しいスキルはどんなのだ?)

(……“診断”、契約してるモンスターの健康状態がわかるだけみたい……)


 おっと、急にテンションが落ちた。戦える力が欲しかったんだろうな。


(そう気を落とすなよ。俺も人のことは言えないけど、焦ってもいいことはないしさ。それよりも診断スキル、使ってみたらどうだ? その様子だと特に害もないだろうし)

(だな。じゃあ、いくぜ? “診断”)


 おっ? 光と繋がる糸の気配が一瞬強くなったのを感じる。


(使えたっぽいな。どうだ?)

(ステータスみたいなのが出てきた。たぶん兄ちゃんのステータスに、身長とか体重とか、身体測定の結果みたいなやつが追加された感じ? なんかごめん)

(? 何で謝るの?)

(だって身体測定の結果って普通他人に見られたくなくね? 体重とか)

(そんなの気にしないって……そういうところは女の子らしいのか)

(あ!? なんだって!?)

(悪い、聞こえてた?)

(丸聞こえだよっ! こうなったら男でも恥ずかしいデータを何か探して見てやる!)

(気に障ったなら謝るから、ってか身体測定の結果で特に恥ずかしいことは――)

(え、ちょデカくね……?)

(――待った、何のデータを見てる)


 俺は水泳で筋肉質な方だと思うけれど、身長・体重は平均的だ。

 日常生活でデカイといわれることはほとんどない。

 ただ1点、主に小中の修学旅行以降、友達にデカイと言われる部位もあることはある……


(何って、その)

(言わなくていい! ってかそもそもそんな情報出るのかよ!?)

(文字で何センチってキッチリと。でもこのサイズなら恥ずかしくないんじゃねーの? 母ちゃんから聞いたけど平均以上だろ)

(母方の祖父がアメリカの人で、そこだけ遺伝らしくてな……ってか、お前の母ちゃんは小学生の娘相手にどんな話をしてんだよ……事の発端は俺の失言だし、本当に謝るからやめてくれ。故意じゃないのに犯罪的で捕まりそうだ)

(……ま、いいか。丁度気になるものも見つけたし)


 はぁ……ステータス作った奴は何考えてんだろうな。

 大体、そういう欲がわかなくなった体じゃ大きさに意味はないだろうに。


(で、気になるものって?)

(身体測定の結果の他にも、スライムの情報とかゲージがあるのを見つけたんだ。体力とか、空腹度とか、ストレスとか。ちなみにさっきの話の途中にちょっとストレスが上がった)

(……形はどうあれ、体の状態が把握できるのは正直ありがたいな。今は病院にも行けないし、行ったところでスライムの体とその健康とか分からないだろうし)

(だな。とりあえず健康みたいだから、病気とかの心配はしなくていいと思うんだけど……もしかして兄ちゃん、何か食ってる?)

(食ってるというか、スライムの体で殺したゴブリンを吸収して、証拠隠滅を図ってるところだけど)


 水や粉末なら一瞬で吸収できるけど、固いものや大きなものはそれだけ時間がかかるので、

 話しながらも吸収中なのだ。


(それでか……さっきからずっと“余剰養分”ってゲージが上がり続けてる。空腹度のゲージは100%から全然減ってないから、必要以上の食事や吸収をすると体の中に栄養を蓄えられるっぽいね。あと、この余剰養分のゲージがある程度溜まると、“進化”や“分裂”ができるらしい)

(! 助かる。進化可能とは知っていたけど、情報不足で進化の具体的な方法や進化するとどうなるのかは知らないんだ。あと分裂というのは初めて聞いた。語感から想像はできるけど、人間として自分が分裂するのは想像しがたい)

(それは俺もわかる気がするけど、進化ならなんか強くなれそうじゃん。とりあえず吸収できるゴブリンは吸収してみたら?)

(それなら……昼に暴れた時の死体が集められてる場所があるみたいだから、パワーレべリングついでに忍び込んでくるよ。光は明日に備えてもう寝ていてくれ。朝早いから)

(分かった。何度も言うけど気をつけろよ。……おやすみ)


 それっきり、頭に響く声は聞こえなくなる。


 さて、今夜もこっそり行きますか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公がモンスター化したり、モンスター化した女の子を使役するような話はよくあるけど、 逆に少女に使役されるのは初めて聞く気がする(笑) [一言] ゴブリンは美味しくなさそうだなぁ
[気になる点] 人間の進化って…俺TUEEEE? 悟っちゃう? 二本足で立って、火を使ったのが人類最大の進化だったっけ? それとも墓だったかも? とりあえず…図書館へGOをオススメしたい。 [一言] …
[一言] 展開のヒントが欲しいとのことなのでコメントを書かせていただきます。 現代ファンタジーのモンスターパニック的な話を読むとき、主人公が農業などの食糧生産を行う展開が少ない気がします。ですので欲を…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ